《皆様、本日は銀河鉄道『星空トレイン』をご利用頂きまして誠に有難うございます》
列車内のスピーカーから響き渡るのはアクアの声。
アクア達は現在、コール星で出会ったシリウスを含む冥天獣達を惑星ガントまで送る途中だ。
《本日、車両の運転を務めるのはリゲル、私アクアは皆様の案内役としてご一緒させて頂きます。何かありましたらお気軽に声をお掛けください!皆様の母星である惑星ガントまでの短い旅にはなりますが、窓の外を眺めながらのんびりと旅を楽しんで頂けると幸いです》
アクアがちょこんと頭を下げると、客車からはパチパチと拍手が起こった。
拍手を貰ったアクアは、久々の乗客からの反応につい照れ笑いをしてしまうのだった。
そしてその頃、シリウスとスピカは客車の前にあるアクア達の居住スペースで話をしていた。
「スピカさん、改めて礼を言うよ。オレ達を助けてくれてありがとう」
「い、いや…私も真っ先にぬいぐるみにされてしまった立場で…。今回の件はアクアとリゲルが…」
頭を下げるシリウスに苦笑いで応えるスピカ。
シリウスは、顔を上げると深く息を吐いた。
「聞けばあの子達はプレアデス軍から狙われているそうじゃないか。今の軍と関わると本当にロクな事がない…」
『軍に関わるとロクな事がない』
この言葉にスピカはピクッと反応した。
「…シリウスさん。あなたは元々惑星プレスで鍛治職人をしていた鍛治名人のシリウスさんでは?数々の名刀、名剣を生み出していた…」
スピカの質問にふふっと冷たく笑うシリウス。
そして「そんな風に言われた事もあったか」と自分の両手を見つめた。
「幾ら名人と言われようが、作った物が名刀になろうが、命を奪う物を生み出した事に変わりはない。本来、オレは多方から恨まれる立場だ」
「しかしそれはプレアデスを、冥天獣という種族を守る為の…!」
「近年のプレアデス軍を見てもそう思うか?」
プレアデスはここ近年『アンカア銀河の治安安定の為』という名目で統一行為もとい侵略行為を行なっていた。
鋭いシリウスの指摘に軍に所属していたスピカは言葉を詰まらせ、黙り込んでしまう。
それを見たシリウスは「だが、まだまだ冥天獣も捨てたもんじゃないな」とスピカの肩をポンッと優しく叩いた。
「アクアから聞いたよ。軍に襲われた所を助けたそうだな。お前さんのような者が軍に居た事は、オレも嬉しく思うよ、スピカ元副司令官殿?」
真剣な話の最中にニカッとイタズラに笑うシリウス。
どうやらスピカがかつて副司令官だった事にはとっくに気がついていたようだ。
「気がついていたんですか…」
「逆にその名前を聞いてピンと来ない冥天獣の方が少ないさ」
スピカは俯いて目を逸らすと「それを知っていてどうしてシリウスさんは…」と言葉を詰まらせる。
シリウスは、スピカに背を向け窓の外を眺めながら目を閉じた。
「政府や軍に対して不満や疑問を持つ者はかなり多いのも事実だ。惑星ガントにはそういった冥天獣達が暮らしているんだ」
家族を失った者、友人を失った者、そして責任を押し付けられ裏切られた者…。
裏で揉み消されてはいるが、全てプレアデス政府と軍が絡んでいる事なのだという。
この話を聞いた時、政府によって仕組まれたコスミックゲート事故の記憶がスピカの脳裏を過ぎった。
「今のプレアデスは狂っている…。オレも軍や政府から逃げる様にガントに移り住んだ1人だ。まぁ、今回は見つかっちまってプレアデス軍に呼び出しを食らっちまった訳なんだけどな!」
シリウスの言葉にスピカは気になる事があった。
それは『何故シリウスが今回プレアデスから呼び出しを受けたのか』という事。
その事を聞こうとしたスピカだったが、タイミングよく車内アナウンスが掛かった。
《まもなく、惑星ガントに到着致します。少々揺れますので、席に着いてお待ちください。本日は当『星空トレイン』をご利用頂きまして誠にありがとうございました》
「おっ、もう到着か!本当に大したもんだな、あの子達は」
「え、えぇ、本当にいつも頼りっぱなしです」
そう言うと2人は近くの椅子に並んで腰掛けた。
その時のスピカの表情が暗かったのだろう。
シリウスは「また夜にでもゆっくり話そう。着いてからの方が話しやすい事もある」と付け足した。
スピカは静かに頷くと窓の外に目を向けた。
「(惑星ガント、プレアデス軍と政府に不満を持った者が住む星…か。追放された身とはいえ、少し堪えるな…。何も起こらなければいいが…)」
スピカは無意識のうちに右手を胸に手を当て、グッと拳を握る。
すると、それに気がついたシリウスは「大丈夫だ。ガントに住む冥天獣はむやみやたらにお前さんを問い詰めたりはしない」と背中をポンと叩いた。
スピカは不安な表情のまま「…はい」と頷く。
そうしている間に列車は地上へと近づいて行くのだった。
惑星ガントへ入って数分後、アクア達は無事に地上へと降りた。
しかし、『念には念を』という事でシリウスが住んでいる村からは離れた場所へと車両を停め、村へは歩いて向かった。
「3人ともすまんな。村長に話を通してくるから少しここで待っていてくれ」
シリウスはそう言うと、アクア達3人を村の入り口に残し、足早にその場を離れた。
シリウス達の村は家が数十軒集まった小さな村でのんびりとした時間が流れていた。
「凄くのどかな感じだね」
「確かに。色んな年齢層の冥天獣達がいるけど、みんな穏やかそうな表情をしてる」
戦闘種族である冥天獣がのびのびと生活している姿に少し驚いてる様子のアクアとリゲル。
2人は、銀河鉄道の仕事で冥天獣達と関わる機会は沢山あったが、プレアデスの冥天獣達はいつも忙しなく動いている姿しか見た事がなかった。
その為、自然豊かな田舎の村でのんびりと過ごしている冥天獣達の姿が新鮮だったようだ。
「プレアデスの冥天獣は軍事施設関連の仕事をしている者が殆どだからな。常にバタバタしている姿しか知らなくても無理はないか」
スピカの説明に「なるほど…」と納得する2人。
すると、そこへシリウスが村長を連れて戻ってきた。
「シリウスから話は聞いた。村の者を助けてくれてありがとう」
村長は来るなり深々と頭を下げる。
村長と言っても歳はシリウスよりも少し上程の犬のような姿をした男性だ。
「…しかし、あまり長居はしない方がいい。シリウス達が帰って来ない間にもプレアデス軍が来たんだ」
「どうやらアクア達を匿ったりしていないか村中を調べて行ったらしい。本来ならゆっくりしていって貰いたいんだが、あまり状況が良くない…。だからとりあえず3日を目安にしようと思うんだが…」
シリウスは申し訳無さそうな表情で頭の後ろを掻きながら提案した。
それを聞いたアクア達は顔を見合わせると静かに頷き、「構いません。村の方々にも迷惑をかける訳には行きませんから」とスピカが付け足した。
「本当にすまんな。とりあえずオレの家へ招待しよう。その方が色々都合が良いしな」
村長と別れ、シリウスの案内で3人は村の中を歩く。
もう噂が広がっているのか、また星天獣が珍しいからなのか、暫くじっと見つめてくる村人が殆どだった。
しかし、暫く見つめた後はニッコリと微笑むと頭を下げてくれていた。
「スピカさんには言った通り、ここには政府や軍に不満や疑問を持つ者が暮らしているんだ。だから襲われたアクア達の気持ちが少なからず分かるのさ」
村の1番奥の家まで歩くとシリウスは足を止めた。
そして、ドアノブに手を掛けてドアを開けると「帰ったぞ」と誰かに言った。
家の中に居たのは2人。
1人は猫のような姿をした大人の女性、もう1人は同じく猫のような姿をしたリゲルと同じ位の男の子。
どうやらシリウスの家族のようだ。
「シリウスさんっ…!本当に無事で良かった…!」
「お父さん、お帰りなさい!」
2人は姿を見ると同時にシリウスに抱きついた。
1か月以上も行方不明になっていたのだから無理もないだろう。
シリウスも「シャウラ、ホープ、本当にすまなかったな。心配かけて…」と言うと目を閉じながら2人を抱きしめた。
シャウラは白くてふわふわした体毛、そして垂れ耳が特徴的な猫獣人の女性だ。どうやらシリウスの奥さんらしい。
ホープは同じく水色のふわふわした体毛が特徴的な猫獣人の男の子であるが、眼鏡を掛けて白衣を羽織っているなど、職人肌のシリウスとは正反対の性格に見えるがどうやらシリウスの息子らしい。
感動の再会の後、シリウスはアクア達の事を2人に説明した。
そして、3日程鍛治を教える為に泊める事を話した。
「そうですか、皆さんプレアデス軍に…」
「この前来た軍人さん達が探してたのはこの人達だったんだね…」
自分達が話をする前に自分達の情報が知れている事に思わず苦笑いしてしまうアクア達。
しかし、シャウラとホープはそんなアクア達を受け入れてくれるようだ。
「早速だがアクア、工房へ案内しよう」
そう言うとシリウスはアクアを連れ出し、裏にある工房へと向かう。
シリウスの工房の棚には、料理で使う包丁類や鍋など、あらゆる鉄製品が並んでいた。
見ただけでもこだわりが分かる製品達にアクアはつい目を奪われてしまっていた。
そんなアクアを横目に、シリウスは出入り口のドアに内側からガチャッと鍵をかけた。
「集中している所を見られるのは苦手でな…」
苦笑いしながら作業に必要な物を準備していくシリウス。
その後は黙って準備を進めるシリウスだったが、突然手を止めると、アクアの方へと振り返った。
「…アクア。お前、あの2人には言えない物を作りたいんだろ?」
アクアは、シリウスの鋭い眼光に一瞬ビクッとするも一枚の設計図を出した。
「…スピカさんの為に武器が作りたいんです。星の雫を使った武器を…」
アクアが作りたい物。
それは自分達の為に命懸けで戦ってくれるスピカの武器…。
しかし、星天獣は武器や兵器を作る事は禁止されている。
しかも星の雫を使って作るなどもっての外だ。
アクアの言葉を聞いたシリウスは腕を組むと静かに目を閉じた。
「…アクア、武器を作る事はお前達『星天獣の掟を破る』という事だ。それは分かっているな?」
「…はい」
「星の雫を使った武器『星の武器』は間違いなく大きな力になる。しかし、大きな力は使い方を間違えれば、周りの人達を傷つけ、自分自身をも傷つける事になるだろう」
シリウスは、アクアの肩に手を掛けると真剣な表情で顔を覗き込む。
「聞かせてくれ、アクア。お前はどんな事があっても自分の信念を貫く事が出来るか?生み出した物の責任を負う覚悟はあるか?」
顔を覗き込むシリウスに対し、胸に手を当て視線を落とすアクア。
確かにアクアのやろうとしている事は争い事を嫌う星天獣の意思に反するもの…。
しかし、種族間を越え、同族から襲われたにも関わらず身を挺して守ってくれるスピカとそんなスピカの力になろうと護身術を覚える決意をしたリゲルの影響からアクアの気持ちは大きく揺れていた。
「僕は…スピカさんの助けになりたい!スピカさんは僕とリゲルさんを命懸けで守ってくれてる…。だから僕もっ…!」
アクアの小さな体は小刻みに震えていた。
そして、一粒の涙が頬を伝って床へと落ちた。
「でも、正直怖いんです…!僕の作った武器が悪用されたらどうしようとか、レグルスを追い出されるんじゃないかとか…!1人で考えてると胸が引き裂かれそうでっ…!」
アクアの流す涙が次第に大きくなっていく…。
そんなアクアの顔を覗き込みながら見ていたシリウスはアクアをギュッと抱きしめた。
「心の声を聞かせてくれてありがとうな。お前なら大丈夫そうだ。但し、今の気持ち…絶対に忘れるなよ」
アクアは「はい…!」と答えると涙で歪んだ顔でクシャッと笑ってみせる。
それを見たシリウスはアクアの頭をくしゃくしゃっと撫でると悪戯に微笑むのだった。
暫く笑い声に包まれた後「で、どんな武器が作りたいんだ?」とシリウスがアクアの持つ設計図を見ながら質問する。
アクアは手に持っていた設計図を広げるとシリウスに差し出した。
設計図を受け取り、目を通していくシリウスだったが、次第に表情が曇り出し、目が止まった。
「アクア、この設計図の武器は…」
「やっぱり変…ですかね。僕なりに考えた武器なんですけど…」
「いや、素晴らしい発想だ。こんな物は見た事がない…」
アクアの考え出した武器。
それは武器職人のシリウスも驚く物だった。
基本的に近接戦を得意とするスピカだが、遺跡の星で見せた遠距離攻撃もお手のものだった。
アクアは、スピカの戦い方をよく見てきた上で近接戦だけでなく、遠距離攻撃も可能な武器を設計していたのだ。
「持ち手に星の雫のカケラを入れてエネルギー刃の刀身を形成するんです。それで、その持ち手を銃の持ち手へ換装すればエネルギー銃に…。銃には空気中の星の雫も取り込むように設計してあるので、基本的には弾切れは起きません」
アクアの説明に「なるほどなぁ…」と感心するシリウス。
しかし、設計図を見ながら更に難しい表情を浮かべた。
「しかし、ここまで手が込んだ物だと教えながら3日で完成させるのは難しいな…。手分けして作業するのが無難だと思うんだが、どうだ?」
シリウスの提案を聞いた時、少し残念そうにシュンとなるアクア。
しかし、これはスピカの為であり、自分達が旅をするのに必要な物…。
アクアは「はい!お願いします!」と元気よく答えるのだった。
それからまもなくして工房から賑やかな音が聞こえ始め、2人が工房から出てきたのはすっかり日が暮れた後だった。
スピカとリゲルの2人は外でちょっとした模擬戦で汗を流し、アクアとシリウスが工房から出てきた時には疲れてしまったようで少し眠ってしまっていたようだ。
その後、シャウラの手料理ををご馳走になり、アクア達3人と久々に再会したシリウス一家はそれぞれの時間を過ごしていた。
そんな時、何かを思い出したかのようにアクアが立ち上がった。
「あっ、そうだ。列車に星の雫を取りに行かないと」
「外はもう暗いぞ。明日じゃダメなのか?」
心配したリゲルが外へ向かおうとするアクアを止める。
しかしアクアは「明日の作業にどうしても必要だから…」と引こうとしなかった。
妙にソワソワしている様子にピンときたスピカはふふっと微笑むと「素直じゃないな」と呟いた。
「アクア、星空を見に行きたいんだろう?」
スピカの一言により、みんなの視線が一気にアクアへ向かう。
スピカの言った事が図星だったのだろう。
当の本人は、目を点にしながら顔を赤く染め、恥ずかしそうにモジモジしていた。
その姿に一斉に笑い声が起こった。
「あははっ!そういう事か!それならホープ、星の雫を取りに行きながらアクアを連れて行ってやれ。お前のお気に入りの場所へな!」
シリウスがそう言うと「うん、分かった!」とホープが立ち上がる。
そして「行こうか、アクア君」と手を繋ぐと外へ出て行った。
「スピカさん、よく分かったな。アクアの考えてる事…」
「まぁ、私も星空を眺めるのが好きだからな。なんとなく、だ」
リゲルへ苦笑いで返すスピカ。
するとその時、シリウスが2人にグラスを差し出した。
そして「ちょっと付き合ってくれないか?」と庭へと誘った。
庭には、木の丸太が焚き火を囲むように置いてあり、椅子の代わりに座われるようになっていた。
スピカとリゲルは、並んで座ると焚き火を挟んで向き合うようにシャウラが座った。
「スピカさん、お酒は?」
「強くはないですが、少しなら…」
軍に所属していた頃のスピカは、お酒とはほぼ無縁で、20歳を迎えた時に少しだけ飲んだ事がある程度らしい。
シリウスは、スピカのグラスに半分程お酒を注ぐ。
そして、次に「リゲルは?呑めるか?」と聞いてきた。
リゲルも「はい、少しなら…」と答えると半分程お酒を注いでもらった。
「ん?リゲル、君は15歳だろ?まだ呑める歳じゃ…」
リゲルの年齢を知っているスピカが思わず突っ込む。
すると、リゲルは苦笑いをすると「大丈夫だよ」と添えた。
星天獣、というより、レグルスでは15歳で成人扱いという事のようだ。
「でも銀河鉄道を運行してる手前、普段から呑んだりはしないんだけどさ」
同じ星獣でも育つ星が違えば文化も違ってくる。
スピカは驚きながらも妙に納得してしまうのだった。
そしてシリウスは、シャウラのグラスと自身のグラスにお酒を注ぐとシャウラの隣に座り、「改めて乾杯だ」と一口グラスに口を付けた。
「…シリウスさん、今アクアが作っている物って『星の雫を使った武器』なんじゃないですか?」
突然シリウスへ質問するスピカ。
シリウスは、困った表情で頭を掻くと「アクアから黙ってるように言われたんだが…」と認めた。
「お願いです。アクアを止めてくれませんか?あの子がやろうとしている事は…」
「すまないが、それは出来ない」
まだスピカが続けて話している中、それを遮るようにシリウスはハッキリと断った。
「スピカさん、あの子の気持ちを分かってやってくれないだろうか。あの子はお前さんの役に立ちたい一心で武器を作っているんだ」
シリウスは、グラスを再び口へ運ぶと焚き火へと視線を落とす。
何かを後悔するような表情で焚き火を見つめるその瞳には、ゆらゆらと炎が映り込んでいた。
「オレは、プレアデス軍や政府の思うままに様々な武器を作ってきた。プレアデスの、冥天獣達の発展、繁栄に繋がると思って…。だが、実際は他の星獣達を傷つけ、時には命を奪う物を作っているだけだった」
深くため息を吐き、目を閉じる。
「今も『星天獣達を傷つける為にオレの作った武器が使われている』と考えると苛立ちすら覚える。オレは、残酷な事の為に武器を作っていた訳ではないのに」
「シリウスさん…」
シャウラは、シリウスの肩に寄りかかり、それを受け止めるようにシリウスがシャウラを抱えた。
「だが、アクアが作っている武器はオレのとは違う。他人を傷つける為じゃない。他人を守る為の武器だ。設計図を見た時、そして話を聞いた時、アクアがオレを呪縛から解放してくれるんじゃないかと思った。オレはあの子を…応援したいんだ」
シリウスの話を聞き『止めるのは無理』と思ったスピカは「シリウスさんがそう言うのなら…」と大人しく引く事にした。
話がひと段落するとシリウスは「そうだ、シャウラ。2人にアレを見てもらおう」とシャウラと共に何かを取りに家の中に入って行った。
外で2人だけになったスピカとリゲルは、グラスを口元へ運び、お酒を呑む。
すると、スピカが思い出したように質問してきた。
「そういえばリゲル。コール星で『スタードロップ欠落症』についてやけに詳しかったようだが、あれは…」
コール星で暴走状態だったカペラに襲われた時、リゲルはいち早くスタードロップ欠落症の可能性を考え、アクアを逃すなどの行動をしていた。
どうやらスピカはその事が気になっていたようだ。
リゲルは一瞬困ったような表情を浮かべると「実は…」と語り出した。
「母さんがこの病気で亡くなったらしいんだ。身体が弱かったみたいでさ。オレを産んだ後に複数の病気と一緒に発症して…」
スピカは、やってしまった、と質問してしまった事を後悔すると直ぐに「すまない、そんなつもりじゃ…」と謝る。
すると、リゲルは「平気だよ。ちゃんと話してなかったオレも悪いんだから」とニッコリと笑って返した。
そうこう話していると、シリウスとシャウラが何やら古めかしい携帯端末を持って戻ってきた。
しかし、その端末を見たリゲルは「あれ?」と目を細めた。
そう、これはリゲルも見た事のある物だった。
「…リゲル君。あなた、もしかしてベテルさんの息子さんじゃないかしら?」
シャウラの口から出てきたのは、なんとリゲルの父『ベテル』の名前。
リゲルは「どうして父さんの名前を…!?」とあたふたし始めた。
「あなたの名前を聞いた時、ピンときたの。実は私の元夫はコスミックゲートの開発に関わっていたの。プレアデスの技術者としてね」
シャウラは元々、別の冥天獣と結婚していた。
実はホープは前の夫との間に産まれた子だという。
しかし、10年前に起こったプロトタイプ事故で家族は引き裂かれた…。
帰って来ない夫の捜索をして欲しい、そう政府や軍に訴えるも相手にされる事はなかったという。
そして、あろう事かシャウラとホープは得体の知れない者達に命を狙われたらしい。
『コスミックゲート事故の真実』を知られたくない者達から…。
そんな時、シャウラはシリウスと出会う。
当時、軍に武器を提供していたシリウスには軍も手を出せない。
軍の嫌な噂話を聞いていたシリウスはシャウラの夫が帰って来るまでの間、一緒になる事を決めたのだ。
そして、それから10年という月日が流れ今に至る…。
「オレは所謂、契約結婚みたいなもんだ。シャウラとホープを守る為のな。それでもホープはオレの事を『父さん』と呼んでくれる…。何とかしてやりたい、そう思っている矢先に進展があったんだ」
それはシリウスがプレアデスから呼び出しをくらう1週間ほど前の事だった。
突然、家の中にあった古めかしい機械から音が流れ出した。
最初は故障だと思って携帯端末を手に取るシャウラだったが、画面に表示された内容を見て驚愕した。
「プロトタイプからの救助要請だったんです」
「最初はオレも何かの間違いだと思った。しかし、この端末は今は使われていない電波を使用している旧型…。そして極め付けは日付だ」
シャウラは携帯端末の電源を入れるとリゲルに渡す。
隣に座るスピカもリゲルの横から端末を覗き込んだ。
そこには『レグルス側のコスミックゲート・プロトタイプに閉じ込められている事』が書かれた事と送信日時が表示されていた。
「この日付…!事故から数日後だ!ど、どうなってんだ!?10年前の救助要請が今になって届くなんて…!」
「…つまり、プロトタイプの中に未だに数日しか経っていない場所があり、そこに閉じ込められている者が居る可能性がある、という事ですか」
スピカの推測にリゲルは「そんな事…!有り得るのか!?」と驚いた表情で聞き返す。
スピカは「私も詳しくは分からないが…」と話を進めた。
「ゲートのエネルギー源は濃度を高めた星の雫。空間を歪ませる程のエネルギーが事故によって制御不能になったんだ。時空が歪んでもおかしくはない。それに、プロトタイプの周辺で不思議な光が見えたりする事があると言ってなかったか?」
確かに、プロトタイプの残骸が浮かぶ周辺では謎の光が何度か目撃されていた。
星天獣の間で『未だにエネルギーが残っているのではないか』と囁かれていたが、どうやら今回の件と関係がありそうだ。
「リゲル、きっとお前の親父さんは生きている。ホープの父親も…。希望を捨てるな」
「シリウスさん…。はい…!」
「でも、レグルスの星天獣達には言わない方が良いかもしれないわ。目と鼻の先にあるレグルスではなく、わざわざ私達に救助要請を送ってきた事を考えると何かあるような気がするの…」
シャウラの言う通り、プロトタイプが漂うのはレグルスのすぐ側の宇宙だ。
使っている技術も大半がレグルスの為、トラブル対応もレグルスの技術者の方が詳しいはずなのだ。
しかし、結果的にレグルスには救助要請は出さず、シャウラ達家族へ送ってきた。
「つまり、事故を故意に起こしたのはプレアデスだけじゃないかもしれないって事ですか…?」
真剣な表情でシャウラとシリウスを見つめるリゲル。
シリウスは「そう決まった訳じゃないがな、可能性の話だ」と答えた。
リゲルは端末をシャウラに返すと星空を見上げる。
『父さんが生きてるかもしれない』
そう思うと少し胸が熱くなった。
しかし、それと同時にレグルス政府や大人達をどんどん信じられなくなっている自分がいる事にも気がついた。
見上げる星空には、小さく輝くアンカア銀河の紅い月とミラ銀河の碧い月が2つ、優しい光でリゲル達を照らすのだった。
同じ頃、列車に星の雫を取りに行ったアクアとホープはその帰り道で星空を見ていた。
「アクア君、ここが僕のお気に入りの場所だよ」
そう言って連れてきたのは小さな丘。
村からも少し離れている為、光りも少なく星空を見るには絶好の場所だ。
「うわぁ…!綺麗…!」
目をキラキラさせながら満天の星空を見上げるアクア。
その様子にホープは「気に入って貰えて良かったよ」とその場に座り込んだ。
そして、同じように星空を見上げるとふとアクアに質問をし始めた。
「ねぇ、アクア君。君はどうして父さんに鍛治を教えてもらっているの?」
突然の質問に一瞬困った様な表情を浮かべるアクア。
武器を作っている事をシリウス以外に知られたくないアクアは「大切な人達を守りたいから…かな」と少し濁す形で答えた。
それを聞いたホープは「そうなんだ。その歳でそんな考えが出来るなんて凄いなぁ」と感心していた。
「僕もね、父さんに鍛治を教えてもらおうとした事があったんだけど…。ダメだって断られてね」
そう言うと少し寂しそうな表情を浮かべるホープ。
それを見たアクアは何かを察してホープの横に並んで座った。
ホープは、アクアにシリウスがかつてプレアデス軍に武器を作って供給していた事、そして自分がシリウスとは血の繋がらない親子である事を話した。
「自分の作った物が欲望の為に使われ、沢山の星獣達を傷つけていく…。父さんはずっとそれを間近で見てきた。だから同じ経験を僕にして欲しくないんだと思う」
ホープの話を聞き、頭をよぎったのはシリウスの質問…。
『どんな事があっても自分の信念を貫く事が出来るか?生み出した物の責任を負う覚悟はあるか?』
それはずっと後悔し続けているシリウスだからこそ出来る質問だった。
「ねぇ、ホープさん。明日、僕の作業を手伝ってくれない?」
アクアの突然の誘いに戸惑うホープ。
そう、アクアの作っている物は武器とはいえ、あくまでも身を守る為の特殊な武器だ。
この製作ならばシリウスもOKを出してくれるのではないか、と考えたのである。
「…父さんが良いって言うかなぁ」
「大丈夫!ダメだった時は僕も一緒にお願いするから!だから是非手伝ってよ」
ホープは「僕は手伝いたいから…。父さん次第かな」と苦笑しながら答える。
その様子にアクアも「じゃあ決まり!」とニコッと笑うと立ち上がり、ホープに右手を出した。
するとホープも立ち上がって右手を出し、力強く握手を交わした。
そんな様子を夜空に浮かぶ2つの月が優しく見守るのだった。
その後、2人はもう暫く星空を堪能してからシリウス達の元へと帰った。
そして翌日、まだ日が登ってすぐにアクアとシリウス、そしてホープは集まった。
「さて、昨日の続きから再開…と言いたい所だが…。すまんが夜の間にオレの作業はほぼ終わらせてしまってな」
昨日の夕方までの状況よりも更に作業は進んでおり、沢山の部品が机の上に並べて置かれていた。
シリウスの顔をよく見ると目の下がほんのり黒くなっており、クマが出来ている。
どうやら徹夜で作業をしていたようだ。
「正直、プレアデス軍がいつ来るか分からない。だから出来る事は全てやろうと思ってな」
シリウスは、アクアの横に立つと「後はお前さんの番だ」とアクアの背中をポンと叩いた。
ここからは主にアクアが組み立てと星の雫を宿していく工程になる。
アクアは部品を一つ一つ手に取るともう片方の手に意識を集中させ、光の粒子を宿していく。
その様子をシリウスとホープはそっと見つめていた。
「これが星天獣の不思議な力…」
「そう、オレたちには真似出来ない星の雫のコントロールだ」
すると、シリウスは「ちょっと来い」とホープを炉の近くへ連れて行った。
「ホープ、ひと段落したら一緒に鍛治屋としてやっていかないか?」
シリウスの口から出てきたのは「共に鍛治屋としてやっていこう」という誘いだった。
鍛治職人として働く事を認めなかったシリウスが今までと真逆の事を言い出した事に戸惑うホープ。
どうやらシリウスはアクアの新しい武器に心を動かされたようだ。
「アクアが作ろうとしている物には遠く及ばないが、オレも他人を守る為の武器を作ってみようと思うんだ。そしてその時、それを次世代を担うお前に引き継いでほしい」
「父さん…」
本来なら今日、自分から鍛治の手伝いを申し出るつもりだったホープ。
シリウスの徹夜でそれは無くなってしまったが思わぬ形で実現しそうだ。
ホープは、ぐっと拳を握りしめると[うん、僕もやりたい…!」と力強く返事をした。
2人がニコッと笑い、握手をしようとした時だった。
バン!と突然工房の扉が開き、シャウラが慌てて中へ飛び込んできた。
「シリウスさん、大変!プレアデス軍が…!」
シリウスは「…もう来やがったか…!」と舌打ちをすると工房にあった鉄の棒を二本手に持つと工房を飛び出していく。
アクアも「僕らも行こう!」とホープと共に工房を飛び出して行った。
シリウスの家を飛び出し、村の入り口へと走って行くとそこには十数人のプレアデス軍兵と対峙するスピカとリゲルの姿があった。
「よく逃げずに出てきたな。裏切り者め」
この軍隊の隊長だろう。
スピカへ向けて剣を突き出し、挑発した。
スピカは呆れたようにため息を吐くと鋭い眼光で睨みつけた。
「相変わらず口と態度だけは大きいな。それに私たちが逃げればこの村の住民を残らず抹殺しただろう?今のお前達はそういう集団だからな」
するとそこへシリウスが息を切らせながら遅れてやってきた。
そして、スピカに鉄の棒を手渡した。
「スピカさん、こんな物しかないが使ってくれ」
「ありがとうございます。充分です」
受け取ったスピカは、試しに軍団に向けて鉄の棒を一振りする。
その一振りからは衝撃波のように風が起き、砂が巻き起こった。
シリウスも「久々に元の体で戦闘か。どこまでやれるか…」と不安ながらに鉄の棒を構える。
「リゲル、君は私とシリウスさんで抑えられない敵を頼む。住民達に手を出させるな」
スピカの指示に「ら、らじゃー!」と緊張気味に素手で構えた。
「これより星空トレイン一行の拘束、裏切り者スピカの処分を行う。各自、戦闘開始せよ!」
隊長が大声を上げると軍人達が一斉に飛び出してきた。
しかし、人数が多かろうがスピカには関係なかった。
無防備で突っ込んでくる軍人には銃のように構えた指先から出す光線で手足を撃ち抜き、近くまで接近してきた軍人には鉄の棒で応戦していく。
「どうした!さっきの態度は口先だけか!?」
スピカが思いっきり鉄の棒を振り下ろすと、バチン!という金属の激しい音と共に隊長は弾き飛ばされ、尻もちをついた。
「チッ…!あ、相変わらず化け物だな…」
隊長は、フラフラと立ち上がると戦況を見る為に辺りを見回す。
伊達に鍛治職人はしていない、といった所だろうか。
シリウスも鉄の棒を大振りに扱い、軍人達を一掃していた。
そして、サポートを任されたリゲルも銃など遠距離からの攻撃には細心の注意を図りながら、襲いかかってくる軍人を近接戦闘術で上手くいなしているようだ。
「こ、こいつ…!結構強いぞ…!星天獣じゃないのか…!?」
「これでもスピカさんの弟子だぞ!そう簡単にやられてたまるかっての…!」
リゲルは、相手の剣先を見ながら攻撃をかわし、一気に懐に飛び込むと投げ技や急所突きで隊員達を次々と気絶させていく。
コール星では人形が相手で苦労していたが、今回は同じ星獣が相手のため、上手く戦えているようだ。
「何をしている!!ヤツは星天獣だぞ!我々冥天獣が敵わないなど…!」
隊長は自軍が軒並みやられるだけでなく、本来戦闘を得意としない星天獣のリゲルにも敵わない状況に苛立ち始める。
そんな姿にスピカは呆れながら口を開く。
「何も分かっていないのはお前の方だ。星天獣は力こそ弱いが身体能力は冥天獣とさほど変わらない。それに動体視力は冥天獣を遥かに凌ぐ。銃口の向きさえ分かれば銃などの遠距離射撃は無意味だ」
焦りから隊長の顔から汗が滲む。
戦力差でこのままスピカ達が押し切る、誰もがそう思った時だった。
隊長は「まだ試作だが…仕方がない…」と腰につけていた別の剣を抜き、構える。
その剣は新品にしても妙に白く、キラキラと輝いていた。
「(な、何だろ、あの剣…。不自然に光を放ってる…)」
リゲルの後方から戦いを見ていたアクアだが隊長の構えた剣の違和感に気がついた。
「反逆者スピカ!これで消えてもらうぞ!」
隊長は、スピカに向かって飛び出し、剣を振りかざしてきた。
それに合わせるようにスピカは頭上に鉄の棒を横に構え、攻撃を受け止める体勢を取る。
するとその時、隊長がニヤリと不気味に笑ったのが分かった。
「スピカさん避けてっ!!」
リゲルの後方からアクアが大きな声を出す。
スピカはアクアの声に反応し、咄嗟にバックステップで後ろへ飛ぶ。
しかしその時、完全に攻撃を避け切る事は出来ず、隊長の剣はスピカの握る鉄の棒に触れてしまった。
カラン、と辺りに鉄製品が転がる音が鳴り響く…。
なんと、鉄の棒は何の抵抗もなくスパッと最も簡単に切断されてしまったのだ。
そして、流石のスピカも無事では済まず、顔を歪めると左腕を押さえた…。
黒い体毛からポタポタと赤い血が腕から地面へと滴っていた。
「スピカさん!大丈夫か!?」
すぐにリゲルとシリウスがスピカに駆け寄る。
傷はそれほど深くはないが、見た事もないほど綺麗な斬り傷だった。
「あ、あぁ、大丈夫だが…。あの剣は一体…」
「…あの剣から星の雫の粒子が見える。間違いない、あれは星の雫を使った剣だ…!」
リゲルの額に汗が滲む…。
敵の残りは隊長のみだが、遂に恐れていた事が現実になってしまったようだ。
プレアデスは、捕らえた星天獣に星の雫を使った武器を作らせ始めたのだ。
隊長は、高笑いすると剣先をスピカ達の方へと向ける。
「ど、どうやら一気に逆転したようだな…。ここまでの切れ味だとはオレも思わなかったがな」
隊長はジリジリとスピカ達へ近づいていく…。
その様子をスピカ達の後方で不安そうに見つめている村の住民とアクア達…。
『このままではプレアデス軍に皆やられてしまう』
そんな空気が漂い始め、泣き崩れる者も出始めていた。
その時、アクアと共に戦いを見ていたホープが口を開いた。
「アクア君、こっちも完成させよう!星の武器を…!」
「で、でも…!その間にスピカさん達がやられちゃったら…」
「じゃあ君はこのままスピカさんが傷つくのを黙って見ているって言うの!?君は昨日言ってたじゃないか。大切な人達を守りたいって…」
大人しそうなホープからは想像出来ないような力強い声が発せられる。
そして、それはアクアの心に強く響いた。
「うん…!ホープさん、手伝って!」
ホープとアクアは、大急ぎでその場を離れるとシリウスの工房に駆け込んだ。
そして、アクアは部品達に星の雫を流し込み、完成した部品をシリウスが組み上げていった。
流れるような息の合った作業でみるみるうちに物が組み上がっていく…。
そして、最後の部品をホープが取り付け、完成した。
完成した物は2つ。
1つは剣の持ち手のような物、もう1つは持ち手の部分がない銃だ。
2人は出力テストもしないまま工房を飛び出し、スピカ達の元へと走り出す。
その頃、スピカ達も大きな局面を迎えていた。
スピカの体は至る所に傷がつき、苦しそうな表情をしている…。
星の武器は強力で、今のスピカ達にはとても太刀打ち出来なかったのだ。
「ス、スピカさん!その体じゃもう無理だ!」
「ま、まだ大丈夫だ…!君達は私が守ると約束しただろう…?」
リゲルの静止を振り切り、前へ出るスピカ。
すると、シリウスはスピカの更に前へ立つと「リゲル、アクアを連れてこの星を出ろ」と言った。
「これは冥天獣達の醜い欲望のせいで始まった事。お前達は巻き込まれただけだ。だから…」
「そんな事出来るわけないでしょう!!」
リゲルの叫び声が辺りに響く…。
すると隊長はシリウスへ何やら話を持ちかけてきた。
「シリウス、再び軍へ武器を提供する気にはならないか?お前の作る武器は他の職人達が作る物とは出来が違う。軍もお前の作る武器が欲しいのだ」
それは再び軍に武器を提供しろ、という要求。
恐らく、それを約束すれば『今回は許してやる』という事なのだろう。
だが、シリウスは苛立ちを露わにすると鋭い眼光で睨みつけた。
「うるせぇよ」
シリウスは、持っていた鉄の棒を思いっきり投げつける。
しかし、それは星の武器によって簡単に切断され、地面へと落ちた。
「答えはNOだ。ひと月前と答えは同じ…。こんな事を平気で行うお前らに渡す物は無い!」
コール星に閉じ込められる前、プレアデスに呼びだされたシリウスは再び武器の供給をするように迫られていた。
その際も素直に自分の気持ちを伝えていたが、軍も政府も納得しなかった。
隊長は舌打ちをすると「ならば、スピカと共に消えてもらう」とシリウス目掛けて飛び出してきた。
この時、シリウスは何の抵抗も無く、目を静かに閉じたまま立ち尽くしていた。
しかし、シリウスの目の前まで隊長が近づいてきた時だった。
ドン!という鈍い音が聞こえ、村人達の悲鳴が上がった。
目を開けると真横から隊長目掛けて体当たりをする星に乗ったアクアの姿があった。
体当たりを受けた隊長はそのままの勢いで民家に突っ込み、砂埃が巻き上がる。
突っ込む寸前に星から飛び降りたアクアは、すぐにシリウス達に駆け寄った。
「シリウスさん、スピカさん、リゲルさん!大丈夫!?」
「アクア…!なんて無茶をするんだお前は…!」
シリウスは少し怒った口調でギュッとアクアを抱きしめる。
「そんな事より!スピカさん、これを使って!」
アクアは、今のうちに!とスピカに作った物を渡す。
そして、手短に使い方を説明した。
「スピカさんの為に作ったんだ。これでみんなを守って…」
そう言うとアクアはシリウスを連れてリゲルの所まで引き下がる。
すると、砂埃の中から隊長が姿を現した。
予期せぬ不意打ちに相当お怒りのようで、眼光が更に鋭くなっていた。
「ふざけやがって、このガキが!!」
隊長は銃を構えアクアを狙う。
しかし、構えた銃は衝撃波と共に弾き飛ばされ、手に激痛が走った。
「くっ…!何だ今のは!?」
よく見るとスピカが銃を構えていた。
そして、驚いていたのは隊長だけではなく、スピカも同じだった。
それは『威力は高いが殺傷能力は無い』という事。
スピカは隊長が銃を構えた手を狙って撃ち、命中させたのだが、血などは出ていなかった。
「その銃に殺傷能力はないよ。星の雫を使ったエネルギー銃だけど、衝撃波でダメージを与えるようにしてあるんだ」
アクアの説明に「それならこれでどうだ!」と隊長は剣を握り、接近戦へ持ち込もうとする。
スピカは、アクアに習ったように銃の持ち手を引き抜くと、剣のように構える。
すると、持ち手からエネルギー刃が展開され、剣へと姿を変えた。
先程まで斬れない物はなかった敵側の星の武器。
しかし、スピカの剣は隊長の剣をしっかりと受け止める。
そればかりか、相手の剣は刃こぼれを起こしたのか、少し欠けていた。
「何故だ…!?同じ星天獣に作らせた星の武器だぞ!?」
星の武器が破損し、更に慌て始める隊長…。
シリウスはやれやれ、と呆れた様子で口を開いた。
「物には作る者の心が宿るんだ。相手を脅して作らせた物とは違う。そして、その剣も相手を斬る能力は持っていない」
アクアの作った武器。
それは人を必要以上に傷つけない遠近共に使えるギミック武器だった。
銃では星の雫のエネルギーを衝撃波の弾として発射し、剣ではエネルギー刃が棒状の刀身が展開され、打撃武器に近い剣となっていた。
そして、エネルギー源は持ち手内部に搭載された星の雫の結晶、または大気中の僅かな星の雫を取り込める仕組みとなっている為、事実上エネルギー切れは起こさない設計になっていた。
「どうする?このままスピカさんにやられるか、大人しく引き返すかは選ばせてやる。オレ達はお前達とは違うんだ」
シリウスの忠告に「ふ、ふざけるなあぁ!!」と隊長はスピカに剣を振り下ろす。
スピカは、剣で相手の剣を捌くと相手の腹部に蹴りをお見舞いした。
ドン!という鈍い音が響くと、隊長はその場にバタッと倒れて動かなくなった。
それを見た村人達は思わず歓声を上げ、スピカ達を取り囲む。
「スピカさん、良かった…!ごめんね、もっと早く作れていれば…!」
傷だらけの体を気にしているのだろう。
アクアは涙を流しながらスピカに抱きついていた。
「お、おいアクア。体毛と服が血だらけになってしまうぞ」
あたふたと慌てるスピカだったが、アクアは涙を流したままスピカから離れようとはしなかった。
それを見たスピカは静かに目を閉じると「ありがとう。そしてすまなかったな。みっともない姿を見せてしまって…」と優しく抱きしめ返すのであった。
それからというと、プレアデスの軍人達は全て拘束。
そして、拘束した上で宇宙船に乗せ、オートパイロットでプレアデスへ発進させたのであった。
しかし、これではまたプレアデス軍が惑星ガントに兵を送り込んでくる事は確実だろう。
この事からシリウス達は、ガント内で別の地域へ移り住むか別の星へ移り住むか検討するようだ。
その日はスピカやシリウスの手当てなどに時間を費やしたため、出発は結局翌日となった。
そして、翌日…。
まだ朝日が昇る前からアクアとリゲルは星空トレインの車両を点検していた。
「よーし、異常無し!」
「星の雫も充填完了!いつでも出発できるよ!」
先頭車両から外へ出るアクアとリゲル。
まだ日が昇る前だというのに村人達はアクア達を見送ろうと集まってくれていた。
「シリウスさん、皆さん、ご迷惑をお掛けしました」
スピカは集まってくれた村人達に深々と頭を下げる。
その姿にシリウスは「頭を上げてくれ」と言った。
「いや、お前さん達が居たから助かったんだ。ここは軍や政府に不信感を持つ者が集まる村…。奴らはいずれ口を封じる為にやってきたさ」
シリウスは改めて「ありがとう」とお礼を言うとスピカと握手をした。
「アクア君、僕も君のように人の役に立つ物を作れるように父さんと頑張るよ。だからまた会いに来てね」
「うん!楽しみにしてるよ!」
アクアとホープもグッと硬い握手をし、遠くない未来で共にものづくりが出来ることを願って抱き合う。
そして、隣ではリゲルもシャウラと握手をし、抱き合っていた。
「リゲル君、きっとベテルさん達は生きています。もし再会できたたら揃って会いに来てくださいね」
「はい!これからもプロトタイプの事はオレなりに調べてみます。きっと冥天獣の技術者達も助けてみせます!」
リゲルは力強く応えるとニコッと笑う。
シャウラはそれに釣られるようにクスクスッと微笑んだ。
「ところでスピカさん、この先はどうやって進んでいこうか?そろそろレグルス領のミラ銀河だけど…」
この先をどのように進むかルートを相談するリゲル。
するとスピカは「今シリウスさんから聞いたんだが…」と地図を広げ、指を差した。
「この星に剣術の達人がいるらしい。もしよかったらなんだが…寄ってくれるか?」
シリウスによれば、小さく誰も立ち寄らない宇宙のため、名前のない星らしいがどうやら『星天獣の剣の達人』がひっそりと住んでいるという。
珍しくちょっぴり恥ずかしそうにお願いをするスピカにリゲルとアクアは顔を見合わせてクスッと笑うと「らじゃっ!」と答えた。
「それじゃ、改めて…。レグルスを目指して出発だ!」
「「らじゃーっ!!」」
スピカの掛け声に元気よく敬礼をするアクアとリゲル。
リゲルとスピカは先頭車両へ飛び乗り、アクアは首から下げている小袋からハーモニカを取り出すとお決まりである星空トレインの発車メロディを軽快に奏でた。
《間もなく、星空トレインの車両が発車致します。車両に近づきすぎないようにご注意下さい》
リゲルのアナウンスと共にアクアも先頭車両へと乗り込む。
すると、空へと伸びる線路が生成され始め、車両がゆっくりと進み始めた。
シリウス達は、星空トレインの車両が見えなくなるまで大きく手を振る。
そして、大きな目標を心に決めていた。
「ホープ、移住先で落ち着いたらオレ達だけの武器を作ろう。他人を傷つける為じゃない、守る為の武器を…」
「うん!これからご指導よろしくお願いします、師匠?」
からかうようにシリウスを『師匠』と呼ぶホープ。
慣れない呼び方と呼ばれ方にシリウスとホープ、そしてシャウラの3人は大きな声で笑い合うのだった。
星の雫を使った武器、通称『星の武器』
これは使う者によって希望にも絶望にもなる物。
アクア達は星の武器が絶望にならない事を願いながら次の目的の星へと旅立つのであった。