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第12話



 粘度のある泥を飲まされているような不快感に、苦痛をあらわにしたシモーネだったが、数秒後──異変が起きはじめる。



 身体が火照り、下腹部が激しく疼きだした。



 鋭利な感覚が全身を襲い、自由にならない身体をくねらせて、高まっていく感度を逃がそうとするが、満たされない疼きが余計に身体を熱くさせていく。



 急激な発汗に激しい興奮状態──これは、媚薬による発情症状だ。



 シモーネには信じられなかった。



 これまで数多の媚薬を精製する過程で、桃華蘭をはじめとする多くの快楽成分を吸い込んできた身体には、耐性がついているはずだった。



 吸引しても、直接飲んでも、その効果はほとんど現れなかったはずなのに……



 今やシモーネは、目を潤ませながら熱い吐息を吐き、股下からとめどもなく溢れる分泌液は、腿から膝につたい流れていた。



 自然に揺れ動く腰をそのままに、そばにいる魔導士に懇願する。



「アア……ハア、お願いよ……なんとかして、もう……」



「浅ましい姿だな。獣のように腰を突き出して男を欲しがる。そんなアンタが王妃になれるとでも?」



「そんなのどうでもいい。ああ、ダレでもいいから、わたしに触れてちょうだい!」



 冷ややかな口調で蔑まれようが、快楽に溺れたシモーネは必死に舌先を伸ばして口付けを求めてくる。



 そういえば、この女は口内で快楽を得るのが好きだった──と、ジオ・ゼアはおぞましい過去を思い出した。



 むかし、どこからか連れてきた異様に舌が長い男に、自分の口内を蹂躙させて喜び喘いでいた。



 シモーネの醜態に吐き気をもよおしたジオ・ゼアの足元には、ちょうど腐った果実の実があった。耳ざわりな喘ぎ声だす口を塞ぐには、いい大きさだ。



 堅い表皮から白い液が滴る拳大こぶしだいの実を拾い上げると、「コレでいいだろ」と下卑た女の口へと突っ込んだ。



 その瞬間、シモーネは身体を激しく痙攣させ、首を激しく左右にふると、獣のように唸りながら達した。



 もはや正気を保つこともできない快楽に支配されたシモーネに、ジオ・ゼアは告げる。



「ああ、そういえば、さっきの液体は希釈して使えって云われていたな。僕としたことが、うっかり原液で飲ませてしまった。用法容量を間違うと大変なことになるって、可愛い声で注意されていたのに、すっかり忘れていた──ってことにしよう」



  空になった小瓶が弧を描き、茂みへと放り投げられた。この小瓶を渡されるとき、才能に溢れる可愛い魔毒士からは、何度も念を押されていた。



「この解毒剤の取扱いには注意してね。媚薬の毒性を、別の毒性を摂取することで、成分同士が打ち消し合って、解毒というか、中和される仕組みなの。これは3回分。絶対に原液で飲んだりしないでね。桃華蘭の10倍の発情状態になってしまうから。でも、ジオ・ゼア、本当に希釈されたのを作らなくていいの?」



「これでいいよ。大丈夫、ちゃんと薄めて飲むから」



「約束よ。用法容量を間違えないでね」



 レティシアとの約束を忘れるジオ・ゼアではない。



 シモーネに原液のまま摂取させたのは、もちろん故意だった。



「僕の大切な人がこれを知ったら、絶対に怒ると思うんだ。薬の扱いにはとっても厳しいからね。だから、アンタが森の奥に逃げるのを待っていたわけ。ここなら、誰にも気づかれないからね」



 四肢を拘束していた茨が解け、草地に降ろされたシモーネだったが、激しく達したばかりの身体に力は入らず、腐った実を口に咥えたまま荒い呼吸を繰返していた。



 両手の黒い手袋をはずしたジオ・ゼアは、



「触ってしまったから、やっぱり、気持ち悪いな」



 仰向けになったシモーネに向かって投げ捨てる。



 散々身体をよがらせたせいで、すっかりはだけた胸元に落ちた手袋が新たな刺激となり、ふたたびシモーネの快楽症状が引き起こされた。



 腐った果実が口から落ちると、声にはならない喘ぎ声を森に響かせながら、自由になった手で必死に身体をまさぐりはじめる。



 浮遊魔法で距離をとったジオ・ゼアは、その痴態を上空から嫌そうに眺めていた。



「あのころの僕以上だな。さすがに気持ち悪くなってきたから、もう、いいや。アンタにはそろそろ相応しい相手がくるだろうし……ああ、そうだ。これは僕からの餞別だよ」



 そう云って、懐からもう一本小瓶を取り出すと、ゆっくりと瓶口を傾ける。



 真上から垂らされた琥珀色の原液が、むき出しになったシモーネの肌へと落ちていった。双丘を流れた液体が下腹部を濡らす分泌液と混ざり合うと、



「ウグゥウッ!! ググッ、グルッウハアアアアアアアッツッ~~~」



 ますます激しくよがり狂い、その姿は本能のままに欲望を満たそうとする獣に近かった。



 狂気じみた獣のごとき唸り声に引き寄せられ、鬱蒼とした森の中から這い出てきたのは、シモーネに調教された魔獣の生き残り数匹だった。



 発情期の雌さながらのシモーネの痴態に、すでに魔獣たちの目は充血し、どこもかしこも興奮状態だった。剛直を猛らせた魔獣の姿に、シモーネの目が期待に満ちた。



「どうみても喜んでるな。アンタにとっては最高だろうから、復讐になるのかどうか、あやしくなってきた。まあ、いい。少しずつ喰われながら、獣同士の交わり楽しんで」



 黒衣の魔導士が顔を背けて上昇をはじめたとき、群がる魔獣に身体を蹂躙されながら、シモーネは喜び泣き叫んだ。






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