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第6話



 浮遊魔法でユラユラと浮かぶ発光石が進行方向を照らすなか、ふたりは通路を進んでいく。



「まだまだ先は長そうだけど、少し休憩しようか?」



「大丈夫よ。子爵家から国境はそんなに遠くないもの」



 山越えをするトンネルだと思えばいい。



 直線距離ならもうすぐだろうと、目を細めながら先を進みつづけるレティシアだったが……なかなか突き当りは見えてこない。自然と重くなっていく足取り。



 こんなときこそコレの出番だ。



 懐から丸薬を取り出したレティシアは、口に運ぶとガリガリと噛み砕く。音に振り返ったジオ・ゼアにも「はい、どうぞ」と渡してやる。



「これ、何?」



「怪しい薬じゃないから、安心して。疲れを取ってくれる元気の素」



 わざわざ「怪しくない」と強調した丸薬の正体は、薬草にレティシアの守護精霊であるヒギエアの抜け殻を混ぜたものだ。



 ここ最近、どんどん巨大化しているヒギエアは、姿を現すたびに脱皮するので、美しい抜け殻がレティシアの手元にはたくさんあった。



 そのまま捨てるのはもったいなく感じ、何げなく成分を調べたところ、これが疲労回復と滋養強壮に抜群の効果があることを発見したのだ。



 とくに中高年男性の夜のお悩みなんかは、劇的に改善されるだろう。しかし、あまりに強すぎるため、このままでは重篤な副作用が生じてしまう。



 それゆえ、レティシアの調合はかかせない。複数の薬草を練り込み、成分を薄め、試行錯誤した結果、誕生したのがレティシア命名『元気の素』なのだ。



 ジオ・ゼアが噛み砕いた直後──



「……なにこれ、すごいな。魔力も、体力も全回復してる。おまけに活力まで漲ってくる感じ! お嬢さん、またすごい薬を作ったね」



 効能に感動し、原材料を知りたがったが、そこは適当に誤魔化したレティシアだった。



 抜け殻の効果により、すっかり軽い足取りとなったレティシアとジオ・ゼアは、先を急ぐ。



 この地下通路が、国境に向かっているのはスフォネ子爵の言葉でもあきらかで、体感的にはもうかなり進んでいると思うのだが、いまだに終点はみえない。



 秘密裏に掘っていたのだから、魔力検知を恐れ、作業は人力のみだったはず。重機がない異世界で、いったいどれだけの月日をかけ、魔法も使わずにここまで掘り進めたのだろうか。人を雇う資金も相当かかったはずだ。



「ジハーダから資金援助を受けていたのかしら」



「それはないと思う」



 ジオ・ゼアによると、資金のほとんどは新たに発見された魔石の鉱山から得ているという。



「皇国の外交部の奴らが、これでもかってぐらいに見逃してやってるからね。多額の見返りを求めて、魔石の運搬ルートを無理矢理でもスフォネ子爵家の領地寄りにしたかった──って、ワケ」



「そういうことね」



 ジハーダとスフォネ子爵家の決定的なつながりを掴みたかったサイラスたちは、貴重な魔石が横流しされている事実を知りながら、地下通路が完成するまで目をつぶっていたのだろう。



「シモーネの隠し部屋にあったジハーダの暗号文に、国境を越えられる隠し通路に裏取引、さすがにもう言い逃れはできない……あっ、着いたね」



 数メートル先で、発光石が止まっていた。



 照らされているのは、上り階段だ。



「この上がおそらく取引場所なんだけど……でも、その前にお嬢さん、こっちにきてよ」



ジオ・ゼアに促され、階段の裏手にまわる。そこには円型に整えられた不自然な空間があった。



「ここかな」



その岩肌をコンコンと、ジオ・ゼアが叩きだす。



もしかして──その光景に、レティシアは見覚えがあった。



 ひんやりとした空気のなかで、コツ、コツ、コツ、と響く音に注意深く耳を傾けていると──コツ、コツ、コツ、コン、コン……やはり音が変化した。



 シモーネの私室で、書棚の周囲を叩いたときと同じだ。



「ここか」



 ドンッ──と、狙いを定めたジオ・ゼアが拳を打ちつけると、案の定、岩壁の一部が押し込まれ、近くでゴゴゴゴゴゴゴッ……と地鳴りがした。



「お嬢さん、こっちだよ──あっ、やっぱり、あった」



 階段側へと戻ったジオ・ゼアが、上り階段の真下を指差す。



 なにこれ、落とし穴?



「あはは、お嬢さんの口と同じくらいポッカリだね」



 そんな言葉が、本当に相応しい穴があいていた。



 暗闇が広がる縦穴に、勢いよく飛び込んでいった発光石を目で追ったレティシアは絶句する。



「嘘でしょ……」



 天蓋はなかったけれど、そこには、あの忌々しい寝台が置かれていた。



「へえ、まさかと思ったけど、本当だったんだ」



 ジオ・ゼアに驚いた様子はない。



「もしかして、知っていたの?」



「それらしき情報は掴んでいたけど、実際に見るまではさすがに半信半疑だった。ところで、お嬢さん、この部屋の使用者はダレだと思う?」



「それはもちろん、シモーネ嬢かと……」



「半分正解」



「半分?」



「そう。もうひとり、ここに足繁く通っていた人物がいる」



 いったいダレが──



「ジハーダ王、ご本人」



「まさか、王がみずから国境沿いまでくるなんて、そんな危険なこと……」



「そのまさか。情報によると、ここはあの女とジハーダ王専用の遊戯部屋らしい」



 レティシアのあいた口は、ますます塞がらなくなった。








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