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第6話


 火傷をした唇をレティシアに癒してもらったアイリスは、となりに座る見習い魔剣士に、ブーブー文句を云う。



「もう、本当に信じられない! こんなことに魔法を使うなんて。しかも非接触だったわよね! 日常魔法じゃなくて、燃焼系の特化魔法でわたしを燃やす気!?」



「さぁ、なんのことですか? アイリス先輩がバカみたいな大口おおくちをあけて、レティの茶をガブガブ飲むからですよ」



「なんですって! バカみたいな大口?!」



 魔剣士ふたりの云い合いがつづくなか、苦労性のマルスが話を戻す。



「ほらほら、もう時間も遅いから、アイリスもエディウス君もそれくらいにして。明日の作戦でも練ろうよ」



 その後、ときおり脱線しつつも、明日の討伐作戦が決定。



 まずはアイリスとエディウスが、左右の入口から同時に洞窟内に侵入し、大サソリの巣を殲滅させる。その間、マルスとレティシアは、後方支援に回ることになった。



 殲滅後は、洞窟内に残った毒素を魔毒士ふたりが浄化し、魔剣士たちは巣穴周辺に潜伏している大サソリを探しだして討伐していく。



「単純明快な作戦だけど、注意は怠りなく。大サソリは群れで攻撃してくる習性があるけど、単独でも高い攻撃力をもっているわ。前端の大きなはさみに、毒針の尾はもちろん。背中にも目があるから視野は相当広い。全身を覆う装甲殻の防御力もかなりのものよ」



 十分注意するようにとアイリスに念を押されたところで、作戦会議は終了、解散となる。



 エディウスと後片付けをしたレティシアは、各自に与えられた部屋の前で「エディ、おやすみ」と声をかけ、ドアノブに手をかけた。



「レティ」



 幼なじみに呼び止められたのは、そのとき。



 暖色系の明かりがともるランプが、薄暗い廊下に点々としていた。



 半分ほど影をつくったエディウスの顔が、魔石で輝くランプの炎が照らせれると、より鮮烈になった赤髪に、レティシアは目を魅かれた。



 本当に火炎のようだわ。



 近衛騎士団に入り、魔剣士としても期待されているエディウスは、ここ最近、日々の訓練でますます体格がよくなった。



「エディ、もしかして、また背が伸びたんじゃない?」



「そうかな?」



 腕をあげて高さを計ろうとしたレティシアの右手がとられる。



「俺は大きくなるより、もっと強くなりたい」



 レティシアの手は、剣の鍛錬ですっかり固くなったエディウスのてのひらに包まれた。



「明日も明後日も、俺がレティを護るよ。もっと、もっと強くなって、どんなことからも何者からも守れるようになりたい」



「今も昔も、エディはずっと強いわ。小さい頃から毎日、毎日、厳しい鍛錬をして、どんなに怪我をしても1度も弱音を吐かなかったじゃない」



「いや、この程度の強さではダメだ。ゼキウス将軍を超えないといけない。そうしないと、俺の欲しいものは手に入らないから」



 そう云って、名残惜し気に手を離したエディウスは、レティシアの部屋の扉を開けた。



「おやすみ、レティ。ゆっくり休んで」



 扉が閉められていく間、レティシアは炎のようにゆらめくエディウスの紅い瞳から目が離せなかった。





 ◇  ◇  ◇  ◇





 翌朝。



 太陽が昇ると同時に、裏山に入ったレティシアたちは、30分ほど登った先にある洞窟の入口にいた。



 太陽光が苦手な大サソリは、夕暮れ時から朝方にかけて活動するのが大半である。



 もちろん例外もあり、日差しを遮るような厚い雲が空を覆っている日などは、午前中から巣を出て餌を狩りにいくこともある。



 しかし、本日は雲ひとつない晴天。草木が生い茂る山とはいえ、明るくなりはじめた太陽の日差しは、しっかりと射し込んできていた。



「それじゃ、わたしは右の入口から大サソリをキンキンに凍結させながら始末していくから、エディウスは左から大サソリをこんがりと焼いていって……」



 右手で剣を抜いたアイリスが、左手に氷雪系の特化魔法を展開しようとしたときだった。



 数歩前に出たエディウスは、洞窟の正面に立つなり両手を広げる。



「この方が効率的です」



 ポッカリと空いた左右の入口に、それぞれのてのひらを向けると──



燃焼烈火ブレイズ・バースト



 燃焼系魔法を発動。



 燃えさかる炎が渦を巻き、そのまま一直線に左右の巣穴に放射された。驚くべきは、その威力。



 エディウスの両手から放たれた火炎の渦は、直径3メートルほどある洞窟の入口を完全に塞ぎ、鼠一匹逃がさないほどの勢いで、洞窟の奥へ、奥へと進んでいく。



 マルスが、あんぐりと口をあけた。



「なんだい、この規格外の魔力量……しかも、燃焼烈火ブレイズ・バーストって、たしか上級スキルだったはず」



 アイリスが地団駄を踏む。



「キイイィーッ! レティシアちゃんの前だからって、カッコつけて!」



「いやいや、カッコつけて出来るレベルじゃないだろう。ああ、なんかこう、才能の違いをまざまざと見せつけられた感がハンパない」



 マルスを大いに落ち込ませたところで、火炎魔法の放射をやめたエディウス。振り返るなり、アイリスに云った。



「あらかた燃やしましたので、冷却魔法で内部の粗熱とってもらってもいいですか? 両方同時は無理だと思うので、片側ずつでいいですから」



 その飄々とした態度に、



「生意気なのよぉぉ~!!」



 アイリスの左手から冷却魔法が放たれた。







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