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第5話



「あぁっ! アイリス、キミはまたレティシアさんに、ちょっかいをだして!」



 マルスとともに荷物を抱えながら入ってきたエディウスが、レティシアとアイリスの姿を見て、口元を引きらせた。



「アイリス隊長、今、レティをお嫁さんにしたいとか、新婚さんとか……色々、聞こえたのですが」



「そうよ、エディウス! こんなに可愛くて、気が利いて、奥ゆかしさまで兼ね備えた子、他にいる?!」



「いませんが……そろそろ、レティをはなしてください」



「ええっ~ いやよ~ だって、とっても柔らかくて、いい匂いがするのよ。エディウスにはまだ早いから、クンクンしちゃダメよ~」



 これみよがしにレティシアをスリスリするアイリスと、どんどんしかめっ面になっていくエディウスの横から、マルスが口をはさむ。



「アイリス、もうそのへんにしなよ。あまりエディウス君を刺激しないでくれ。室内がどんどん暑くなっているじゃないか。エディウス君も、アイリスの安い挑発に乗らないでくれ」



 その後、ようやく解放されたレティシアが、薬草茶を淹れたコップを差し出す。



「エディ、おかえりなさい」



「ただいま、レティ」



「お腹空いたでしょう。すぐにご飯にしましょう」



「手伝うよ」



「温めるだけだから大丈夫。エディは休んでいて」



「いや、手伝いたいんだ」



「そうなの? ありがとう。じゃあ、お鍋を運んでくれる?」



「わかった」



 テーブルに越しに、食事を準備する見習い魔剣士と魔毒士を見ていたアイリスは、またもやもだえていた。



「くぅぅ! デレデレのエディウスなんて、めったに見られないわ! さっきは嫉妬しまくりだったしい~ レティシアちゃんの前じゃないと見られない顔よね~」



「たしかにそうだろうけど。アイリス、あんまりエディウス君で遊ばないように」



「ハイハイ。でも、ついつい、構いたくなっちゃうのよねえ」



「ほどほどにしなよ。さっきも云ったけど、暑いから」



 いさめるマルスに、頬杖をついた上級魔剣士が流し目をおくる。



「でもね、エディウスみたいな生意気な真面目ッ子は、こういう刺激がないとダメなのよ。何年も好きな子を見守っているだけで終わってしまうか。もしくは、押しの強いライバルの登場で遅れをとるか。どちらにしても報われないタイプよねえ。どっかの、お人好し魔毒士みたいにさあ~」



「へえ、ダレのことだか」



 居心地が悪そうに、マルスが視線を逸らしたところで、レティシアとエディウスが温めた料理を運んできた。。




◇  ◇  ◇  ◇  




 夕食後のお茶を飲みながら、魔剣士たちの調査報告がはじまった。



「大サソリの巣があるのは、裏山の洞窟。入口が左右に2箇所あって、そこから頻繁に出入りしているわ」



「数はどれくらい? 多そう?」



 マルスが聞くと、アイリスは大きく頷いた。



「それはもう、かなりの数よ。大サソリは国境の山岳地帯に巣を作るはずなのに、ここまで人里に近い場所に巣を作るのはめずらしいわね。まるで、巣ごと移動してきたみたいな感じ」



「環境の変化でも起きてるのかな」



 マルスの疑問に答えたのは、エディウスだった。



「父の話では、最近、山岳地帯で魔鉱石の鉱山が発見されたそうです。国境線状の町では、採掘権を争って小競り合いが起きていると聞いてます」



「そういうことか。鉱山に近い場所を棲家にしていた一部の大サソリが移動してきたんだろうな」



 魔鉱石は、魔力を補給チャージできる『魔石』の原石となるものだ。採掘されたばかりの魔鉱石には、初期の魔力が蓄えられていて、しばらくは魔力の補給チャージなしで日常魔法が扱える。



 稀に高純度で高密度な魔力を持つ魔鉱石が採掘されることがあり、これは特化魔法の使い手でなくとも、魔鉱石を媒介にして攻撃魔法を発動できるため、武器としての非常に高値で取引されるのだ。



 つまり、魔鉱石の鉱山の採掘権は、どこの国、町でも喉から手がでるほど欲しいのである。



「国境沿いとなると、国同士の争いに発展しかねないわね。国境に面しているのは、ジハーダ王国か。あそこは好戦的な民族だし、特化魔法の使い手が少ないから、魔鉱石には目の色を変えてきそう。おおごとになりかねないわね」



 そこまで云って、アイリスは気がついた。



「ちょっと! 何このお茶、疲れがフッ飛んでいくんだけど!」



「そりゃ、そうだよ。レティシアさんの薬草茶だからね。僕は日々、これに助けてもらっている」



「俺もです」



「ずるいっ! こんなスゴイお茶があるなら早く教えてよ~」



 一気に飲み干したアイリスのカップに、レティシアがおかわりをそそぐ。



「どうぞ」



「ありがとう、レティシアちゃん」



「今度、ティーバッグにしてお持ちしますね。その方が持ち運びも便利ですから」



 湯気の立つカップに口をつけながら、アイリスはしみじみと云った。



「ああ、本当にお嫁さんにしたいわ。ねえ、レティシアちゃん、お試しで、付き合ってみようか? 女同士ってのも、なかなかイイものよ」



 その瞬間、アイリスが口をつけていたカップのお茶が沸騰した。



「熱ッチイッ!! エディウス、ちょっと! 露骨なヤキモチ焼かないで!」






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