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第8話

「あの、海堂さん……」

「そのさ、『海堂さん』っての止めねぇ? 俺あんまり苗字で呼ばれねぇから違和感しかねぇの。朔太郎でいいよ」

「え!? いや、でも……」

「俺はお前の事、咲結って呼んでんだから咲結も名前で呼んでいいって」


 朔太郎の言葉に驚き焦る咲結。


 苗字は呼ばれ慣れないとの事で名前で呼んでくれという本人たっての希望なので無下にも出来ず、こうなると名前で呼ぶ選択肢しか残されていない。


「じゃ、じゃあ、朔太郎……さん?」

「うーん、何かまだ堅苦しい感じだから呼び捨てで良いって」

「いや、流石に呼び捨てでは呼べないです」

「気にするなって。それと、敬語もいらねーって」

「えぇ!?」

「ほら、呼び捨てで呼んでみ?」


 百歩譲って敬語は使わないで話せるとしても、やっぱり年上の人を呼び捨てで呼ぶ事に躊躇する咲結は困った表情を浮かべている。


(どうしよう、何て呼べばいいの?)


 本人の希望通りにするべきか、それとも「さん」付けで呼ぶべきか悩んでいると、咲結は何かを閃いたようで、


「それじゃあ、『さっくん』って言うのはどう? あだ名なら呼びやすい気がする!」


 愛称で呼ぶ事を提案した。


「さっくんって……。さん付けよりはマシか? まあ、咲結がそれでいいならいいよ」

「ホント? それじゃあ、さっくんって呼ぶね!」


 先程までの緊張していた咲結とは違い緊張が解れたのか、笑顔を見せる彼女に朔太郎の口角は微かに上がっていた。


「そういえば、さっくんって何歳なの?」

「俺? 二十三だよ。咲結は?」

「私は十六だよ」

「十六!? 若いなぁ」

「さっくんもまだまだ十分若いよ?」

「いやまあそうかもしれねぇけど、流石に十代には勝てねぇわ」


 朔太郎の年齢を聞いた咲結は内心驚いた。せいぜい二十歳くらいかと思っていたのに自分より七つも上だったのだから。


(七歳も差があったら、恋愛対象には見て貰えないよね……)


 年の差が離れている事や女慣れしていそうな事から、恋愛に発展しなさそうな気配を感じた咲結は好きになりかけていた気持ちが沈みつつあったのだけど、


(でも、ここで何もしなかったらもう二度とチャンスもないかもしれない……)


 自分から何もしなければ発展する事もないと思い直した咲結。


(正直、さっくんは理想と違う……年上なのに子供っぽいし、見た目チャラい感じでクールでもないし……)


 今一度隣に座って運転する朔太郎をチラリと盗み見ながら咲結は思う。


(理想とは違うけど、何だか気になっちゃう。いつもなら冷めちゃうのに、もっと知りたいって思う……これが、恋するって事なのかな?)


 今朔太郎に感じているこの気持ちこそが、恋をするという事なのではないかと。


 そして、


「咲結、本当に家まで送らなくていいのか?」

「うん、ここからすぐだから大丈夫。送ってくれてありがとう!」


 自宅前は道も狭いので少し広い通りで車を降りる事にした咲結は帰り際、


「あのね、さっくん……連絡先聞いてもいい?」


 勇気を出して朔太郎に連絡先を教えて貰えないか問い掛けたのだった。

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