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異常物質進化

 どうも、Cランク探索者、赤木英雄です。

 昨日貰った上質なエメラルドのブローチを胸に乗せて、できる男の風を纏いながらホテルのフロントへ降りてきました。


「チェックアウトを」


 男子なので手荷物は少なめです。

 中学時代のスクールバッグを片手に、バスを乗り継ぎ、徒歩でダンジョンキャンプへやってきました。


 ダンジョン財団SNSのDMで送られてきた地図を頼りに、キャンプから徒歩5分のところにある群馬第一ホテルへおもむき、フロントでチェックイン、手続きはすぐに終わり、部屋を軽く見て、荷物を置いて、またホテルを出ます。


 コイン回ししたり、コイントスしたり、日ごろの訓練を絶やしません。

 コインとの友情を深めながら、スマホとカード類が入った名刺入れ(名刺は入ってない)と、ワイヤレスイヤホンとバッテリーを、就活用に買った蒼山のスーツに付属してきたシンプルトレンチコート(現状、普段着。もうくたびれてきた)のポケットに全部つっこんで、キャンプへ戻ります。


 今日もお祭りみたいに賑やかな外郭部をぬけて、顔見知りになった警察官のかたがたに「お疲れ様です」と挨拶して、顔パスで内郭部へ。ちょっとVIP感があって警察官に挨拶するの楽しいです。


「おはようございます! 赤木さん! 待ってましたよ!」

「おはようございます、修羅道さん」

「ホテルはどうでした? ちゃんとチェックインできましたか? 部屋の入り方はわかりましたか?」


 あれやこれや心配されてしまう。

 とりあえず、オールOKと伝えて、安心してもらう。


「今日も頑張ってくださいね!」


 修羅道さんと朝のおしゃべりを楽しんだ後は、購買へおもむき、リュックを探す。

 昨日は謎の妨害者の攻撃に合い、買えなかったので、今日こそちゃんとした長く使えるバッグを買おうと思う。


「やあ、指男、待っておったよ」

「あんたは……ドクター痴呆老人」

「なんじゃ、その敬いを欠如した呼び名は! ドクターだけでよかろう!」

「何の用ですか」

「『ムゲンハイール』の使い心地を聞こうと思ってな」

「ぶっ壊れましたよ」

「なにッ?!」

「正確には壊されたというか」

「しゅ、修羅道ちゃんか……何ということだ、またしても、彼女が、わしの発明を……」


 悪夢に苦しめられる孤独老人のように、頭を抱えるドクター。


「『ムゲンハイール』の性能を証明するためには、さらなる改良を加えた『ムゲンハイール ver2.0』が必要な様じゃな」

「開発頑張ってください」


 修羅道さんに関わってはいけないと言われているのだ。

 ここら辺でお暇させていただこう。


「というわけで、『ムゲンハイール ver2.0』を持っていくのじゃ」


 もう出来てるんかい。

 以前と同じく、ジュラルミンケースをぶん投げられキャッチする。


「大丈夫じゃ、今度のはクリスタルが取り出せないという欠点を改善したパーフェクトエディション」

「ということは、本当の意味でムゲンハイールが完成したと?」


 となると、物流革命を起こすような世紀の発明なのでは?(二度目)

 流石は評価されない天才発明家。

 俺としては、ぜひそんな彼を支持したい。


 というわけで『ムゲンハイール ver2.0』を片手にダンジョンへ。


 まずは『秘密の地図』を開いて、今日の狩場をSNSへアップロード。

 ついでに、ドクターから貰った『ムゲンハイール ver2.0』を写真で撮って「新しいダンジョンバッグ」とそえてあげておく。


 6階層まで降りてきた。

 最初の頃に比べたら、静かで、モンスターの数が減ってきていることがわかった。


 7階層へ。

 無事に降りることが出来た。


 モンスターを発見する。

 ボーダーコリーくらいの大きさのチワワだ。

 確実にサイズ感が増している。


「カリバー」


 片手がジュラルミンケースで塞がってるので、右手だけで指を鳴らして『フィンガースナップ Lv3』を当てていく。


 『フィンガースナップ Lv3』の変換レートは、HP:ATK 1:20 だ。


 モンスターが勢いよく突っ込んでくる。

 速い。これまでとは比べ物にならない俊敏さだ。サトシのピカチュウが電光石火してる時みたいに、左右に身をふって、的を絞らせないようにしながら、俺の首を噛み切ろうとせまってくる。


 HP8をまとめて、ATK160(6階層チワワはワンスナップ・ワンキル圏内)を放った。

 命中。

 だが、モンスターは引かず、そのまま頑丈な顎で噛みついてくる。スーパーアーマーがあるのだろうか。バックステップで距離を取り、ここからは攻撃を刻む。


 1回、2回、3回、4回──


 結果、ATK320、16回『フィンガースナップ Lv3』を放てば倒せると分かった。


 推定のHPは301〜320と言ったところ。

 6階層に比べると、倍近くに硬さが跳ね上がっている。


 なるほど、確かに。

 これまでと同じ感覚でいたら対応できない。


 俺ははじめて″モンスターの強さ″という理由で、この階層をしばらくの活動場所にすることを決めた。


 これまでモンスターの硬さしか見てなかったが、ここからは俺本体が被弾するリスクが出てきた。

 さっきの電光石火みたいな動きをされたら、いかに『フィンガースナップ Lv3』が命中率に優れていようと外してしまうかもしれない。


 というわけで、目を慣らし、反応速度を合わせながら、7階層で1日を過ごすことにした。


 ちなみに本日のデイリー『日刊筋トレ:腕立て伏せ』はダンジョン内でさくっと終わらせた。


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 ★デイリーミッション★

 毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『日刊筋トレ:腕立て伏せ』


 腕立て伏せ 300/300回


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 経験値5,000


 継続日数:16日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

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 俺もそこそこ成長したのか、経験値5,000×2.5くらいじゃ、レベルアップ出来なくなってしまった。経験値は薬物と似ている。最初は少量でも満足できたのにな……イヒヒ、レベルアップがしてぇよぉ……。


 禁断症状に駆られながら、朦朧としつつ、チワワたちを火葬していく。

 クリスタルを拾って、ジュラルミンケースへ。


 1日が終わる頃。


 レベルアップ音が数時間に一回しか聞けないことにより、幻覚と幻聴に悩まされるようになってきた。

 レベルアップしたい。

 レベルアップさせてくれよ……ちょっとだけでいいんだよ……。


 半分意識が飛びながら、ランニング狩場ルーティンをするものだから、謝って『蒼い血』を『ムゲンハイール ver2.0』へ放り込んで蓋を閉じてしまった。


「ぁぁ、いけない、いけない……」


 蓋を開ける。

 ちゃんと『蒼い血』はあった。

 ただ、なんだろう、ちょっと綺麗になっている気がした。

 不思議に思い、アイテム表示をタップして詳細を確かめてみる。


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 『蒼い血 Lv2』

 古の魔術師がつかっていた医療器具

 MP10で充填。使用すると体力を200回復する。

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 あれぇ……なんかうちの子がいつの間にかグレードアップしてるんですけどぉ……。


「まさか、ムゲンハイール、お前、そういう性能なのか……! って、あれ? クリスタルがほとんど無くなっている?!」


 調べてみてわかった。

 どうやら、『ムゲンハイール ver2.0』には致命的な欠点があったようだ。

 というのも、このダンジョン装備、内側に異常物質とクリスタルを入れると、クリスタルを消費して、異常物質をLv2に進化させる変な能力を持っているらしいのだ。


 以前まで錆びてて不衛生な注射器だった相棒は、今ではピカピカの新品みたいなっている。


 信じられない。

 もしかして、あのドクター、本当に天才だったのでは?


「おかえりなさい、赤木さん! 今日もお疲れ様でした! それドクターの発明品ですね! いまこのスレッジハンマーで粉砕しますので、そこに置いてください!」


 やめてぇえ!

 この子は悪くないの!

 すごい子なんだってぇえ!


 『ムゲンハイール ver2.0』を守りながら、ちゃんとクリスタルを吐き出せることを証明する。


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 今日の査定

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 小さなクリスタル 2,096円

 小さなクリスタル 2,609円

 小さなクリスタル 2,000円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 2,093円

 小さなクリスタル 2,215円

 小さなクリスタル 2,609円

 小さなクリスタル 2,000円

 小さなクリスタル 2,101円

 クリスタル 4,869円

 クリスタル 4,963円

 クリスタル 5,200円

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 合計 34,316たぶん『蒼い血』の進化に20万以上余裕で吸われた


 ダンジョン銀行口座残高 215,895円

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「すごいです! ドクターの発明でマトモに機能したのはこれが初めてですよ!」


 1,000年に一度の奇跡の発明を、俺は手に入れてしまったようだ。


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 赤木英雄

 レベル69

 HP 1905/2,156

 MP 360/449


 スキル

 『フィンガースナップ Lv3』


 装備品

 『蒼い血 Lv2』

 『選ばれし者の証』

 『秘密の地図』

 『ムゲンハイール ver2.0』


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 レベルアップも少ししました。

 モンスターたちのフットワークにも慣れたので、明日は8階層へ降りようと思います。

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