目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
Cランク探索者

 翌朝。

 コインを24時間365日身に離さず、いつでも好きな面を出せるようになるまで触り続ける覚悟を決めながら、デイリーミッションを確認する。


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

  『確率の時間 コイン』


 コイントスで10連続表を出す 0/10


 継続日数:13日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

 ──────────────────


 なぜだろう。

 なんでかは知らないが、すごく来る予感がした。


「だが、いいぜ。なんとなくだが、お前とは長い付き合いになりそうな気がする。かかってこいよ」


 ──10時間後


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

  『確率の時間 コイン』


 コイントスで10連続表を出す 10/10


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 先人の知恵B ×2(50,000経験値)

    経験値 5,000

    スキル栄養剤C ×2 (10,000スキル経験値) 


 継続日数:14日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

 ──────────────────


 今日も疲れた。

 昨日よりははやく終わったけど……もう外も暗くなってるし、ダンジョンに行く気力はない。


 翌朝。


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

  『確率の時間 コイン』


 コイントスで10連続表を出す 0/10


 継続日数:14日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

 ──────────────────


 何が起こってるの?

 ねえ、何が起こってるんですか?

 バグった? バグったの? ぶっ壊れた?


 やばいって、もうダンジョン行くなんて話じゃねえーぞ!


 ──9時間後


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

  『確率の時間 コイン』


 コイントスで10連続表を出す 10/10


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 先人の知恵B ×2(50,000経験値)

    経験値 5,000

    スキル栄養剤C ×2 (10,000スキル経験値) 


 継続日数:15日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

 ──────────────────


 デイリーってランダムだよね。

 確率の時間? まず確率という言葉を勉強して出直して来てください。3日連続でデイリーセレクトされて恥ずかしくないんですか。そんなんで確率とか語らないでください。帰れ。


 このデイリーに1日持っていかれてることに反骨精神が芽生えて来た。

 1日中、ずっとコインをくるくるくるくる──まあ、ただのアホではありませんか。

 それも、集中して表を出さないといけないから、動画見ながらとか、映画見ながらとか、アニメ見ながらとか、音楽聴きながら作業できない。本当に1日を無駄にされてる気がする。


 なので、あんまりやる気はないけど、とりあえずダンジョンに行くだけ行ってみる。そうしないと本当の意味で確率に勝った気がしない。


 片道2時間長いなぁ。

 キャンプの近くで宿探すか。


 キャンプに到着する頃には、暗くなっていた。

 基本的にキャンプは24時間体制でダンジョン資源の採掘やらボス攻略してるので、明るい照明器具──夜間サッカーの時に使うみたいなデカいやつ──によって照らされている。


「赤木さん、これからダンジョン攻略ですか?」

「はい。反骨のために」

「? よくわかりませんけど、生きていてくれてよかったです! 2日ほど姿が見えなかったので、何かあったんじゃないかと思って」


 何かあったという心配の仕方で、まず生存を気にかけるあたり、流石は群馬地方だ。この未開の土地では毎年数百万人が行方不明になってる。事実だ。日本政府はその事実を巧妙に隠蔽しているが、修羅道さんの態度を見れば、真実は明らかである。


「Cランクへの昇級を、本部に打診してみましたよ!」

「あ、どうでしたか、結果は」

「ダメだそうです!」


 すごく笑顔で言われました。


 でも、まあ、そういうルールなら仕方ない。


 しばらく、財団SNSの更新もサボってしまったな。

 まあ、焦らず、ゆっくり取り返していけばいい。

 確率という悪魔に奪われたダンジョン生活を。


「購買ってまだやってますか?」

「はい! キャンプの購買も24時間体制です!」


 心強いことだ。

 以前、肩掛けバッグを買った購買を見てまわり、丈夫そうなリュックを見つける。

 すると、白衣を着たじいさんに話しかけられた。


「おや、おぬしは、噂になっている指男じゃないか」

「どうも。赤木英雄です」

「これは丁寧にありがとう、指男」


 このじいさん、意地でも俺の名前を呼ばないつもりか。


「ほっほほ、指男、おぬしどうやら、たくさん物が入るバッグが欲しいようじゃな」

「どうしてそれを」

「その、ヨレヨレにくたびれたカバン、そして、手に持つより容量の多いリュック、すべてはお見通しじゃ」


 ほう、やるじゃないか、じいさん。


「この発明品をおぬしに使わせてやろう!」


 そう言って投げつけるような勢いで、ジュラルミンケースをぶつけてくる。

 慌ててキャッチする。


「それは、わしの試作品、名付けて『ムゲンハイール』。魔法剣などの開発者として、数々の歴史に名を残すはずだったわしの作品じゃ!」

「『ムゲンハイール』ですか。ん? 魔法剣の開発者として名を残す″はずだった″ってことは名を残してはいないんですか」

「ああ! わしは開発していないからな!」

「……それは、功績を横取りされたとか?」

「いや、開発にまったく関係していない!」


 なに言ってるんだ、このジジイ。

 ちょっと、警察の人ー、痴呆症のじいさんが侵入してますよー。


「なんじゃ、その眼差しは。悲しいのう。まるで、現代の若者の典型じゃ。どうせ、おぬしもボケ老人の戯言と、汚い老人に関わりたくないと、臭いものに蓋をするんじゃろな」

僭越せんえつながら蓋をさせていただきます。これ返しますね。さようなら」

「ま、待て! 頼むから使ってくれ! 試作品の効果は保証する、わしはこれでも財団の職人なんじゃ! ちゃんとした発明家なんじゃ!」


 こうして『ムゲンハイール』を押し付けられ、俺はニコニコしたじいさんに送り出されて、ダンジョンへやってきてしまった。


 なんだよ、ムゲンハイールって。

 絶対に無限に入らねえじゃん。


 ジュラルミンケースを片手に、とりあえず6階層まで降りて来た。


 いつもどおり指パッチンで燃やしていく、

 クリスタルが出たのでジュラルミンケースを開いて仕舞う。なかは黒い衝撃吸収材で保護されており、なかなか高級感のある入れ物となっていた。


 内装デザインだけは凝っている。

 見たところ、クリスタル専用ケースらしい。

 ダンジョン仕様なのだろう。

 普段使いもできなくは無さそうだが。


 蓋を閉じる。


「……」


 物を入れて蓋を閉めるまで一通りやった。

 何のことはない。

 普通のケースだ。

 どこが無限なのだろうか。


 不思議に思い、蓋を開く。

 するとクリスタルが消えていた。


 おお。なるほど!

 もしやケースの中が異空間化していて、どれだけクリスタルを入れても、満帆にならないということか!


 あの、じいさん、さては評価されない天才だな?

 すげえじゃん、普通に。普通どころか、世界の物流を変える発明だろ。


 俺は「すげえ、すげぇ、まじすげえじゃん」と感心しながら、ケースにクリスタルを入れていく。


「ん、そろそろ、ホテルに帰らないとだ」


 適度に狩りをして今日のところは帰る。


「赤木さんが健全なダンジョン生活を心掛けてくれるようになって私は嬉しいです!」


 1時間とちょっとで戻ってきたら、ニッコニコの修羅道さんに迎えられた。


「ここら辺に泊まれるホテルってありますかね」


 ジュラルミンケースを渡しながら訊く。


「今は片道2時間のホテルから通ってるんですけど」

「2時間! 大変ですね、それは……あ、そういえば、赤木さんに良い報告が! 宿の件も含めて良いお話ができますよ!」

「良い報告ですか」

「はい、実は……あれ? クリスタル入ってないですよ、このケース?」

「ああ、購買のあたりにいたダンジョン財団の開発者を名乗る痴呆老人からもらったんです。たぶん異空間に収納されてるタイプですよ(知ったか)」

「ああ……ドクターですか……でしたら──」


 修羅道さんは奥へ行き、スレッジハンマーを持ってくると、ジュラルミンケースを叩き壊した。一撃で粉々に砕け散り、クリスタルが出てくる。


 あまりの迫力に思わず息が詰まってしまう。

 これが群馬をおさめる12部族のなかでも、とりわけ危険で、赤子すらチタタプにして喰らってしまうという情け容赦ない食人族の酋長の娘のチカラか。


「流石は赤木さんですね、みなさんびっくりして腰を抜かしてしまうんです! ドクターの発明品はいつもどこか欠陥があるので、こうして壊して解決することが多いんです!」


 いや、びっくりしてるのは修羅道さんの攻撃力ですけど……っ!


 ─────────────────

 今日の査定

 ─────────────────

 小さなクリスタル 2,093円

 小さなクリスタル 2,215円

 小さなクリスタル 2,609円

 小さなクリスタル 2,000円

 小さなクリスタル 2,101円

 クリスタル 4,869円

 クリスタル 4,963円

 クリスタル 5,200円

 ─────────────────

 合計 25,510円


 ダンジョン銀行口座残高 181,579円

 ─────────────────


「とにかく、ドクターの発明品には気を付けてください! うかつに受け取ってはいけませんよ!」

「わかりました。気をつけます。ところで、良い報告というのは」

「あっ! そうでした! はいっ! こちらをどうぞ!」


 渡されたのは黒い箱。

 これはブローチですね。

 Dランク昇級の時も見ました。

 開けば、やはりブローチ。宝石鑑定書も入ってます。本物の宝石だ。

 ステンレス合金性の艶やかな型に、エメラルドの緑が鮮やかににんじゃりばんばんと輝いています。結構おおきいです。


「1カラットのエメラルドかつ名のある職人のかたの作品ですから、無くしたら大変ですよ!」

「無くしたらどうなります?」

「120万円くらいで再発行ですね!」


 いや、それ実質引退なのよ。

 絶対無くさないでおこう。


「これはCランクに上がれたってことですか」

「はい! おめでとうございます! こんな異例なことは初めて見ましたよ、赤木さん!」


 おお。結構すごいのでは。

 でも、さっきはダメって言っていたような。


「実は財団のエージェントの方がやってきて、直接このブローチを届けてくれたんです! ダンジョン財団は赤木さんに注目しているみたいですね! 個人に対して特別な対応をすることは極めて稀なことなのですが、流石は指男ですね!」


 指男ってワードが出てくると途端にダサくなる現象なんなんだろうね、本当に。

 今からでも名前変えようかしら。ジャッジメント・スナッパーとかさ。


「Cランク探索者になったので、財団が貸し切ってるキャンプ近くの宿泊施設を利用できますよ! 赤木さん必要としてましたよね!」

「ありがとうございます。本当に助かります」


 聞けば、Cランク探索者というだけで探索者全体の上位15%に食い込む稀少人材らしい。

 待遇が一気によくなった。


 俺はトパーズのブローチを修羅道さんへ返還する。

 代わりにエメラルドのブローチを胸につけた。

 今日から俺はCランク探索者だ。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?