目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
ワンスナップ・ワンキル

 Dランク探索者になっちゃいましたかぁ。

 これはさっそくダンジョン潜りたくなっちゃいますねえ。

 でも、結構、疲れてるのでいったん引きあげます。


 ホテルにもどって、ピザキャップでLLサイズをデリバリーしてもらい、コークで豪遊しながら動画とSNSを周回し、投稿がちょっと伸びてることに喜んでいると、いつの間にか寝ていた。


 ハッと目を覚ませば、もう夜の10時だった。

 あれ、そういえば、今日デイリーやってなくね。

 二徹したせいですっかり忘れていたことに気づく。


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『約束された勝利の指先 その2』


 エクスカリバーと叫びながら指パッチン

        0/2,000


 継続日数:8日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

──────────────────


 くそ、来やがった!


「てか、あれ? その2? なんすかそれ」


 信じられねえ、まさか羞恥プレイのその先があったなんて。

 だが、デイリー消化は探索者にとってマスト。

 やらねばなるまい。


 流石に同じフロアの方々に迷惑になると思い、俺は夜の河川敷へと赴いて、そこでみっちり2,000カリバーをこなした。

 職質されたけど探索者と言う身分を告げたら「ほどほどにね」と許してくれた。

 なんだったんだろう。あの腫れ物を扱うような優しい言葉遣いは。


──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『約束された勝利の指先 その2』


 エクスカリバーと叫びながら指パッチン

        2,000/2,000


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 先人の知恵C ×2 (10,000経験値)

    5,000経験値


 継続日数:9日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

──────────────────


 地獄完了。

 報酬は美味しいです。


 ピコンピコン!


 翌朝、俺は体調を万全に整えて、ダンジョンへやってきた。

 ちなみに今朝のデイリーは『イミテーション・スープ』だった。

 なのでお昼に修羅道さんと誘おうと思います。


 ダンジョンに入って、まずやることは『秘密の地図』を確認して、狩場をタイムラインに流しておくことだ。


「今日の狩場、っと。よし」


 俺はすっかりモンスターの減った階層を踏破し、スムーズに3階層まで降りてきて──モンスターとの戦闘はなかった──、4階層の階段を下りた。


 新天地到着だ。


 『秘密の地図』を広げる。

 この異常物質アノマリーの優れた点は狩場がわかるだけでなく、ダンジョンの全体図が把握できることである、そのため、ダンジョン財団のアプリから情報を取得しなくても、俺は最初から足を踏み入れた階層の全体マップを把握できる。


 狩場へ直行。

 モンスターを発見した。

 柴犬サイズになったチワワだ。


「よーしよしよしよし」


 手を叩いてチワワを招く。

 うーん、くあいいですねえ~。

 こんなくぁあああいいいと消し炭にしたくなっちゃいますねぇ~。


 指を鳴らす。


「カリバー」


 HP10消費、ATK50の『フィンガースナップ Lv2』

 火に飲みこまれるチワワ。だが、首をふって払いのけて来る。

 こいつやりおる。

 ここからは一回ずつ刻んでいく。


 1回、2回、3回、4回──


 結果、おおよそ最弱指パッチン20回分の体力──ATK100あれば一撃でキルできるとわかった。


「ステータス」


──────────────────

 赤木英雄

 レベル54

 HP 1,003/1,101

 MP 245/280


 スキル

 『フィンガースナップ Lv2』


 装備品

 『蒼い血』

 『選ばれし者の証』

 『秘密の地図』


──────────────────


 HP20で一体。

 うーん、俺の体力の感じだと、この階層にあってない気がする。

 もっと下の階層で、もっと強いモンスターを倒すだけの指パッチンをできると思うのだ。


 というわけで、ミスターがあらかじめシェアしてくれていた5階層への階段を見つけて降りてみた。


 おそるおそる進み、まるまると太った柴犬くらいはあるモンスターを発見する。


 とりあえず、HP20を使ってATK100の指をお見舞いする。

 だが、倒れない。知ってる。そこからは、また刻む作業だ。


 結果、HP26消費ATK130で一撃だとわかった。


「思ったより、余裕あるな……」


 俺はステータスの体力と、『蒼い血』で回復できる分を計算しながら、自分が思うより、俺は強くなっていたのかもしれないと思うようになった。


 というわけで、6階層へ。

 ランク制限で止められることなく、無事に降りてこれた。


 柴犬と言い張るにはすこしきつくなってきたサイズ感のチワワを発見する。


 さっそくATK130を叩きこんだ。

 そして、そこから例に習って刻む。


 結果、HP32消費ATK160で一撃とわかった。


「あれ……」


 ──────────────────

 赤木英雄

 レベル54

 HP 945/1,101

 MP 245/280


 スキル

 『フィンガースナップ Lv2』


 装備品

 『蒼い血』

 『選ばれし者の証』

 『秘密の地図』


──────────────────


 ステータスと睨めっこして、首をかしげる。

 ハッキリ言おう、弱い。俺ならもっと過酷でハードに戦える。

 だってそうだろう、俺のHP1,000+2,400(『蒼い血』24発分)で3,400のHPが実質的に俺にはあるのだ。

 『フィンガースナップ Lv2』は命中率に優れた遠距離攻撃だ。

 こちらが被弾するリスクはないからHPは弾薬と考えて差し支えない。


 若干、余裕を残しても、俺はこの階層で90匹以上のモンスターを倒せる。


「うーん、もう一階層……」


 降りて見たくなった。

 幸い、ミスターという心強い先駆者がすでに階段をいくつかシェアしてくれているので、次の階段の場所はすぐにわかった。

 だが、


『警告! 探索者ランクが足りません!』


 恐れていた事態がやってきてしまった。

 もー、はやいって。はやいよ、制限来るの。

 これまた昇級してもらわないとじゃん。


 でも、そのためには実績を作る必要がある。

 以前は、クリスタルでパンパンのバッグを見せたら一発合格させてくれたので、今回も同じ手法で行こうと思う。

 つまり、質量で圧倒するのだ。


 というわけで、俺は6階層を拠点に、狩りをはじめた。


 狩場へおもむき、HP32を束ねて、ATK160でモンスターを焼き払う。


 ──パチンッ


 消し炭。


 ──パチンッ


 消し炭だ。

 どんどん消し炭にしちゃおうねぇ~!


 ダンジョンに潜って数時間が経過した。

 ふと、スマホを見れば、もうお昼を過ぎているじゃないか!

 まずいッ!! 『イミテーション・スープ』がッ!!


 俺は急いで、キャンプへ戻るべく、階段を駆け上がった。

 途中、モンスターが出て来たので思わず「あぁ! スープゥうう!!」と焼き払った。


 その時だ。


 (スキルレベルがアップしました)


 あ。


 走りながら、ステータスを開く。


 ──────────────────

 赤木英雄

 レベル55

 HP 701/1,196

 MP 225/287


 スキル

 『フィンガースナップ Lv3』


 装備品

 『蒼い血』

 『選ばれし者の証』

 『秘密の地図』


──────────────────


 進化した!! 俺の指が! いや、指パッチンが!


──────────────────

 『フィンガースナップ Lv3』

 指を鳴らして敵を焼き尽くす。

 生命エネルギーを攻撃に転用する。

 転換レート ATK20:HP1

 解放条件 『フィンガースナップ』または『フィンガースナップ Lv2』をもちいてワンスナップ・ワンキルで10万キル達成または、短い期間に同条件で1,000キル達成

──────────────────


 え、つよつよじゃん。

 変換比率これで大丈夫ですか? HP1でATK20も出るの?

 誰かは知らないけど、設定間違えてません?


 ん、でも、解放条件がわりと鬼畜なような……。

 短い期間がどれくらいの猶予を持っているのかは、推測しかねるが、おおよそ10日前後くらいと考えていいのだろうか。

 たしかにこ10日連続でダンジョン通うのはストイックなプロ探索者しかいないし、さらに言えばダメージが極端に低い『フィンガースナップ』でわざわざモンスターをキルするやつも少なそうだ。


 それなりにレアスキルなのかな?


「修羅道さんに教えよっと」


 俺は全速力でキャンプへと戻った。


 ──背後で俺を見つめる男の視線に気づくことはなかった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?