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コツコツランク:シルバー

 3階層まで降りてくると、流石にスマホが圏外になった。地域が未開の群馬だからという理由もおおいにあるだろう。


「でたな、チワワ」


 2階層と比べて若干たくましく大きくなっていた。たぶん、次の階層だともっと大きくなる。柴犬サイズになりそうな気がする。


 そんなことを考えながら「カリバー」とつぶやき、指を鳴らした。


 1回、2回、3回──。


 まずい。ATK5の『フィンガースナップ Lv2』じゃ、怯まずに突っ込んでくる。

 俺はバックステップしながら、火花を当て続ける。


 4回、5回、6回、7回──。


 結果、ATK5の最低威力の『フィンガースナップ Lv2』で14回だった。


 5×14= HP 70


 この階層のモンスターはみんなこんなものか。

 かなり硬くなって来ている。

 だが、まだ大丈夫。


 燃え尽きたモンスターから、クリスタルを回収して、バッグへ放りこむ。ちょっと大きめだ。


 HP14を一撃で放ち、この階層で出会うモンスターたちを消し炭に変えていった。

 『フィンガースナップ Lv2』のいいところは、相手の体力さえわかれば、一撃で倒せるダメージを与えられる便利さだ。


「あ、チワワ」


 はい、消し炭。


「お、チワワ」


 どんどん、消し炭。

 チワワはどんどん消し炭にしちゃおうねぇ。


「あれ? これ4階層への階段?」


 意外とあっさりと次の階層への階段を見つけてしまった。

 スマホを確認すれば、時刻は朝の6時だった。

 ざっと20時間近くダンジョンにこもっていたことになる。


 そろそろ、デイリー更新されてる気がする。


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  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『バリー・ボッター』


 額の傷を見せびらかす 0人/100人


 継続日数:4日目 

 コツコツランク:ブロンズ 倍率1.0倍

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 なんかまたやべえの来たよ。

 まずミッションの名前考えたやつ誰だよ。そろそろ怒られろ。

 ていうか、別にバリーは額の傷見せびらかしてる訳じゃねえよ? 風評被害です。誰も幸せにならないミッションです、これ。


「100人ってことは、少なくとも100人に話しかけて、おでこの傷を見せつけるのか? 傷を見せつけるためだけに話しかけるのか?」


 最高にイカれてやがる。


 とりあえず、ダンジョンの中にいたら達成できなそうなので、戻ることにする。


 と、その前に、4階層がどんな感じかだけ見ておこう。


『警告! 探索者ランクが足りません!』


 どうやら、Eランクの俺では4階層へ降りることはできないらしい。

 この事がわかっただけでも収穫だな。


 俺は引き返し、ダンジョンを出た。


「あ、おはようございます! 赤木さん! 徹夜で潜ってたんですか?」

「フッ、まあ、そういうことになりますかね」


 前髪をサラッと払い、個人的にかっこいいと思ってる角度で答える。


「赤木さん!」


 修羅道さんが身を乗り出して来た。ムッと頬を膨らませている。かあいい。


「な、なんです」

「無茶したら、め! ですよ! 赤木さんはか弱いんですから、徹夜なんてこと許しません!」

「これでも探索者ですから」

「はぁ……もう、仕方のない人ですね」


 修羅道さんは諦めた様子で、肩をがっくしと落とした。


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 今日の査定

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 小さなクリスタル 2,109円

 小さなクリスタル 2,440円

 小さなクリスタル 2,110円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 2,601円

 小さなクリスタル 1,986円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 2,007円

 小さなクリスタル 2,242円

 小さなクリスタル 2,106円

 小さなクリスタル 2,175円

 小さなクリスタル 2,110円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 2,601円

 小さなクリスタル 2,334円

 クリスタル 4,869円

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 合計 37,993円


 ダンジョン銀行口座残高 46,799円

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「わわ! すごい収穫ですね! Eランクの探索者は3階層までしか降りれないはずなのに比較的おおきなクリスタルを手に入れているのもラッキーですよ! 徹夜したからと言って、こんなにクリスタルを採掘できることはないんですから!」


 修羅道さんぴょんぴょん跳ねてめっちゃ喜んでます。かあいい。俺もぴょんぴょんします。


「ミスターもおっしゃっていましたが、赤木さんは特訓を通して着実に成長しているようですね! これならランクアップの申請をしても問題ないと思います!」

「修羅道さんが決められないんですか?」

「残念ながら、そうなんです。もっとうえの人が決めるので。でも、安心してください、3日後にはDランク探索者ですよ!」


 ふむ。

 では、Dランクに上がるまでは3階層のチワワを虐殺しつづける事にしよう。


 俺は指を鳴らして、おでこに傷をつける。


「……修羅道さん、ところで、これどう思います」

「? あ、怪我しちゃったんですね! 痛いの痛いのとんでけ!」

「……わー、痛くなくなったー」



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  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『バリー・ボッター』


 額の傷を見せびらかす 1/100人



 継続日数:4日目 

 コツコツランク:ブロンズ 倍率1.0倍

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 何してんだろ、俺。


 その後も、朝早くからキャンプにやってきた探索者たちに「おはようございます!」と話しかけながら「これどう思いますか?」と、おでこの傷を見せつけ、意味のわからない質問を繰り返した。


 50人くらいに見せびらかしたところで、キャンプ内で「なんか赤木のやつがおでこの火傷を見せつけてくるんだが……」「傷ついてる俺カッコいいってやつじゃねえか?」「ああ……たしかにアイツまだ若いもんな」という、自殺したいくらい恥ずかしい雰囲気がたちこめはじめた。


 ちょうどその頃になって、俺はおでこの傷さえ相手に見てもらえれば良いことに気づいた。


 つまり、すれ違う時に咳払いして、視線を向けさせ、前髪をかきあげれば、意外とチラ見して、デイリーが進むということだ。


 とはいえ、すべては後の祭り。

 探索者たちの「名誉の負傷を自慢する痛い若者」という、俺への認識は簡単には覆せそうになかった。


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  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『バリー・ボッター』


 額の傷を見せびらかす 100人/100人


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 先人の知恵C(10,000経験値)

    5,000経験値


 継続日数:5日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

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 地獄が終わりました。二度と来ないで欲しいデイリーがまた一つ増えました。ていうか、デイリーの重さじゃないんよ。これをデイリーのノリでミッションしちゃだめ、まじで。


 ところで、コツコツランクとやらが上がっていますね。


 2.5倍? 以前から気になっていたけど、一体何のことでしょうか。


 とりあえず、先人の知恵Cは使っちゃいます。


 ピコンピコンピコンッ!


 あれ? 経験値10,000くらいじゃこんなレベルアップしなくないか?


「あー……もしかして、倍率って獲得経験値が2.5倍に?」


 俺はまだ元気だったので、ダンジョンへ引き返して、数時間ほど、3階層のチワワを焼いてみた。結果、確信した。


 どうも、皆さん、コツコツランク:シルバー会員です。

 わたくしの経験値獲得量はいまから2.5倍です。

 シルバー会員でこれです。わたくしはまだゴールド会員たぶんとプラチナ会員たぶんという進化を二段階のこしています。この意味がわかりますね?


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 赤木英雄

 レベル36

 HP 150/596

 MP 20/120


 スキル

 『フィンガースナップ Lv2』


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「シルバー会員つよ」


 レベルアップが止まりません。

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