光輝く日本刀を手に闇を切り裂く者、すなわち『
「『妖怪と妖精の違いを調べなさい』って、どんな宿題なのよ……」
私は
「えー? 妖精はかわいい、妖怪は怖いでいいんじゃない?」
(ダメだ、聞いた私が間違っていた……)
こんな調子で学校の友達は、まるで当てにならない。
言いたいことはよくわかるよ。たしかに、テレビとか雑誌の怪奇現象の特集は「妖怪○○の仕業」、「妖怪○○に襲われた」といったキャッチフレーズが並ぶ。「妖精〇〇に襲われた」なんて聞いたことがない。
「分からないことは調べてみないとね」
悩んでいても仕方がないから、学校の近くにある大きな図書館に来た。妖怪や妖精に関する本がたくさん置いてある棚は奥まったところにあった。周りが背の高い本棚に囲まれているので少し薄暗く、何とも言えない不気味さが漂う中、まずは妖怪について調べてみた。
『人間の理解を超えた不思議な存在や現象を指し、人間由来の怪しき物』
「まあ、そんなとこだよね……うん、予想通りだわ」
次に妖精について調べてみた。
『人間の姿をした精霊のことを指し、自然由来の聖なる物』
「意味がわからない……あー! 自然か人間かなんて誰が決めたのよ!」
思わず叫んでしまい、図書館の中に声が響いていく。
(ヤバイ! 怒られる……)
慌てて周囲を見回したら誰もいなかった。ホッとして顔をあげると、目の前にあった本に目が留まった。手にとり、パラパラと半分くらい読み進めたところに書かれていた内容が引っ掛かった。
『妖怪と妖精は似て非なる者、
(これは……どういうことだろう?)
考えを巡らせながら夢中で本を読んでいると、遠くから職員の声が聞こえてきた。
「すいません。閉館の時間を過ぎていますが、借りたい本の手続きは終わりましたか?」
「ごめんなさい、今日は大丈夫です。すぐに出ます」
調べることに夢中になっていたのか、いつの間にか閉館時間を過ぎていたようだった。
職員の方に頭を下げ、慌てて外に出るとあたりはすでに薄暗くなり始めていた。
「うわ、もう暗くなり始めてる。こんなに時間がたっていたんだ……やばっ、早く帰らなきゃお母さんに怒られちゃう」
家まで明るい大通りを歩くと遠回りになる。少しでも早く帰りたくて、近道をしようと人通りの少ない裏路地を駆け抜けようとした時だった。
「
突然目の前を立ちふさぐように姿を現したのは異形の者こと『妖怪』だ。手は六本、足は三本、球体のような身体に付いた無数の目が一斉に動き、大きな口からは
「ニンゲン……キライ……キョウフ……コドモ……クッテヤル」
「もう少しまともな言葉は話せないのかな?」
私が息を大きく吐き、目を閉じた一瞬だった。怪物はそれを好機とでも思ったのか、丸飲みしようと口を大きく開いて襲いかかる。
「……?」
「アンタみたいな
喰ったはずの私の声が響き、慌てふためく異形の怪物を、近くの自動販売機の上から見下ろす。
(本当に単純ね……|仕《・》|方《・》|な《・》|い《・》|こ《・》|と《・》|だ《・》|け《・》|ど《・》)
小さく息を吐き、体の前に右手をかざすと光が集まり、日本刀のような刃が現れる。
「ドコダ! クッテヤル、グッデヤル!」
自身に迫る危機を感じ取ったのか闇雲に暴れまわる怪物。
「もう少しまともな話ができるようになってから出直しなさい!」
「ナニヲイッテ……ギャァァァ」
全て終わっていた、私が刀を振り抜いた時には。妖怪の身体は十字に切り裂かれ、断末魔の叫びが響く。どす黒い霧が噴き出し、正体が明らかになる。倒れていたのはスーツを着た一人の男性だった。
「心の中に魔物になるほどの闇を抱えていたんだね……」
男性の無事を確認するために近寄ると目立つような外傷はなく、気を失っているだけのようだ。私の右手に握られていた刀も消えてなくなる。同時に闇に紛れていた気配を感じ、睨みつけながら怒鳴った。
「いつまで高
「わしが見込んだ
暗闇の中からゆっくりと現れたのは一匹の黒猫。
「わしの出る幕ではないとか言って、真っ先に逃げていったのはどこの猫さんかしら?」
「逃げてなどおらぬ。戦略的撤退と言うものだ!」
「なにが『戦略的撤退』よ、ただ怖いだけでしょ。だから天界を追い出されたんじゃない? このバカ神」
「誰がバカ神じゃ! 追い出されてなどおらん! 誰も行かぬからこちらから地上に降りてきてやったのだ」
人気のない裏路地に言い争う声が響く。ふと顔をあげると男性がいなくなっていた。黒猫に聞くと起き上がると、すぐに顔を青くして走り去ったらしい。怪奇現象を目の当たりにして怖くなったのだろうと納得した時、スマホが鳴った。
「やばっ、お母さんがめちゃくちゃ怒ってる……早く家に帰るよ!」
「もうそんな時間か。お腹がペコペコになってしまったではないか! 早く帰らねばならぬな」
スマホを鞄に入れると家に向かい走り出した。
ふと図書館で読んだ本の一文が頭をよぎる。
「この世の悪は人の心にある、か……」
言葉に魂が宿るというのは本当だ。ただ使い方を間違えると心が闇に呑まれてしまう、あの男性のように。
「良いところに気が付いたな」
隣を走る黒猫の姿をした神様が話しかけてくる。
「妖とは
「はい」
自らに課された使命を胸に、強く願いを込める。
闇に呑まれる者が減り、明るい未来を手に入れる人々が増えますように……