川を観察し、いくつかの検証と実験を繰り返し、7日間に渡る河川工事を終えた俺は、ひと仕事を終えて、それらをジュブウバリ族に披露していた。
「アーカム、これはなんなのだ?」
カティヤは目を丸くする。
ほかの女戦士たちも同様だ。
彼女たちが今見ているものは川から50mほど離れた地点に作られた縦穴である。
穴は煉瓦で補強されており、口付近はねずみ返しになっている。
古い時代の井戸のようにも見える。
井戸と川の間には、ゆるやかな煉瓦製のスロープが渡されている。
ただし、現在、川と隣接するスロープは、川の水位よりも上にある。
これら煉瓦は、俺が川底の粘土を焼いて作った物だ。
製法は以下の通りだ。
①俺が川をもちあげる
②肉体派のアンナさんに川底の粘土類をどっさり回収してもらう。
③肉体派のアンナさんに岩を砕いてもらい石材を手に入れる。
④肉体派のアンナさんに砂と土を集めてもらう。
⑤肉体派のアンナさんに集めた材料を混ぜてもらう。
⑥肉体派のアンナさんとジュブウバリから人件費0円で雇った子供たちと一緒に煉瓦の元をつくる。
⑦地面の風で穴を掘って、木炭で煉瓦の元をいぶし焼きます。
⑧完成です。
ね? 簡単でしょう。
「川の水位があがると、3゜の緩やかなスロープを通って、この煉瓦の水槽に川の水が流れ込みます。その時にオクットパスが一緒に流れてきたら捕獲完了です。水槽の底には穴が空いてますので、水は抜けていきます」
水は土壌に吸収される。
「水が抜けていくと、煉瓦の水槽のなかにオクットパスがいるので、槍でつくなり、弓で射るなり好きに倒してください」
「待て、わからないぞ、なにが起こってる。なぜ、どうやって、オクットパスがここに溜まるのだ」
あまりうまく伝わらなかったようだ。
数日後、俺はジュブウバリの戦士たちにもう一度、罠を披露した。
「「「おおお!」」」
煉瓦の水槽の底には、オクットパスたちが20匹ほど溜まっていた。
設計通り、水は煉瓦の底の隙間を抜けて下へ流れ落ちたようだ。
「アーカム、これは一体どういう……」
「ほら、月ですよ」
「? ああ、月だな」
「月にはモノを引っ張る力があるんです」
「なに!? そうなのか!?」
すごい驚かれた。
万有引力というやつだ。
万乳引力の亜種みたいなものと考えてくれて構わない。
うん違うね。こっちが本物だね。
この世界には月が3つもある。
だからその分、天から物を引っ張る力は強まる。
結果、満潮と干潮の差が激しくなるのだろう推測した訳だが、その推測はあっていたらしい。
川が満ちる時、オクットパスたちは月に引っ張られて水位の高い方へ移動してしまい、水位スレスレのところで、川辺に俺が仕掛けた煉瓦のスロープに乗ってしまい、そのまま50mもの距離をゆるやかに移動させられ、仲間達から引き剥がされて、罠のなかにウェルカムする。
こいつらはタコの形状をしてるが、吸盤らしき部位には牙をもっているため、吸引力があるタコ足という訳ではない。
そのため、ネズミ返しまでついた煉瓦の穴を登るのは難しかろう。
一連の仕組みを、何度かジュブウバリ族とアンナに説明すると、ハッとして全員がその原理を悟り……同時に、俺は眩しい眼差しを向けられるようになった。
「アーカム、そなたやはり天才だったのか」
「天才なのは知ってたけど、そんな天才だったなんて聞いてないんだけど」
まあ、天才なのは古典物理学の先生なのだけどね。
褒められると気分が良いのでこのまま俺の手柄ってことでとりあえずヨシ!
「あ、定期的に水槽は掃除するように。オクットパス以外の物も流れてきて、水槽の底が詰まりますから」
という訳、ジュブウバリ族の里の特産に水産資源という概念が追加された。
めでたしめでたし。
10日後。
ついに里に交易商人がやってきた。