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社長との運命的な出会い②


「ちょっと、依那……」

「ねぇ……桜子さん。後ろにいるのって、まさかのまさかだったりする……?」

 ことの重大さに気付き、桜子がこっそり声をかけてきたあとに、あたしの言葉を聞いて後ろをそっと確認する。

「え~っと……。その、まさかだね……」

「あぁ……。やっぱりですか……」

 マズいマズい!

 やっぱり後ろにいるの社長じゃん!!

 えっ、いつからいた!? どこから話聞いてた!?

 てか、悪魔とか言ったの自分だってまさか気付いたりしちゃってる!?

 どうしよ、どうしよ。

 ただの平社員の小娘の分際で、そんな恐れ多いことまさか本人に聞かれてるかもしれないとは……!

 悪魔って言ったの本音じゃないし、実際そんなの言えるほどまったく絡みもしたことないのに!

 ただただ話のノリでつい言っちゃっただけなんで!

 なんて、心で言い訳したところで当の本人に伝わるはずもないけど。

 あまりの状況の恐ろしさに、さすがにあたしは後ろを振り向けなくて、思わず早足になる。

 うん、ここは気付かないフリして、顔見せずにそのままさらっと立ち去ろう。

 このまま存在わからなければ、こんないっぱい社員いるのに誰だかわかんないし、後々憶えてもいないはず。

 よし、それでいこう。

 そして、そのまま早足で歩いて行こうとすると。

「おい。ちょっと待て」

 え……? もしかして、呼ばれました……?

 いや、まさかね……。あたしじゃないはず。

 そしてやっぱり知らないフリしてそのまま足を進める。

「おい、待てって言ってんだろ。前歩いてるそこの女性社員」

 思わず怖くて足を一瞬止めて、辺りを見回すも、残念ながら近くに自分たち以外の女性社員はおらず。

「桜子。もしかして、呼ばれてるのあたしだったりする……?」

 後ろを振り向かないでこっそり隣の桜子に確認すると。

「うん。依那だね。あたしじゃなく、ガッツリ依那見てるもん、社長」

「え。どうしよう桜子。怖くて後ろ振り向けないんだけど……」

「うん。でも振り向かなきゃ仕方ないね」

「だよねぇ~……」

 うぅ~どうしよ~怖いよ~!

 社長となんてめったに話すことないのに、まさか社長がそんな下っ端の社員に直接声かけるなんてさ~!

 いや、あたしがそんな話を社内で堂々と話してたからか……。

 あ~なんであたしあんなこと言っちゃったんだ~!

「覚悟決めます……」

「うん。頑張りな」

 桜子は気休め程度に労いの言葉をかける。

 そして、ゆっくりそろ~っと後ろを振り向く。

「私……ですよね……?」

 振り向いた瞬間、無表情で立っている社長に恐る恐る声をかける。

「あぁ。お前。名前は?」

 えっ!名前言わなきゃダメですか!?

 でもさすがに社長相手に偽名使う訳にもいかないし……。

「逢沢……依那です……」

「部署は?」

「企画部です……」

「企画部の逢沢依那ね……」

 そう名前を繰り返して、マジマジと少し離れた場所からあたしを頭からつま先までチェックする社長。

 終わった……。

 うちの社長、噂では仕事でも女性関係でもメリットがないとわかれば容赦なく切っていくって、なんか聞いたことあった。

 どうしよう、これで明日もう職場に席がないとかになったら……。

 え、どうやって言い訳する?

 どこから聞いてたかわかんないけど、きっとタイミング悪すぎる部分だけしかきっと聞いてないよね……。

 あぁ~本音じゃないけど、嘘って訳でもないし。

 でも本人に聞かれて喜ばれるような会話じゃないし。

 答えが出ないまま目の前の社長をこっそり見てみると。

 うわっ、視線怖いけど、なんだこのオーラとカッコよさ。

 こんな近くで社長しっかり今まで見たことなかったかも。

 確かに生でこうやって見たら、やっぱ超イケメン社長だな、この人。

 可愛い好きなあたしから見ても、確かにこのカッコよさは認めてしまわざるを得ないカッコよさだわ。

 そういえば、うちの女性社員、社長のカッコよさとハイスペック狙いで入社してる人多いみたいだし、確かにこれなら納得。

 あたしはルイルイいたし、実際そっち優先じゃなくこの会社に魅力感じて入社したから、必要最低限、社長としての意識しかしたことなかったんだよな。

 会社辞めちゃう前に最後に社長のカッコよさ気付けてよかったかも。

 あ~、でもでも、ここで辞めちゃったらルイルイ推す資金がなくなっちゃう……!

 うわ~それは計算外!

 今すぐなくなるのはすっごい困る!

 それにまだこの会社で夢叶えてもないのに、今辞めるわけにはいかない!

「あの……。あたし……クビ……ですか?」

「は?? 何、クビにしてほしいのか?」

「いえ! とんでもない! まだまだお金欲しいです! この会社でもっと頑張りたいです!」

 あっ、つい、心のままの欲望が……。

 って、確かにお金も必要だけど、あたしはそれ以上にこの会社にいる意味あるんだから。

「ほぉ~」

「クビにならないならなんでもします! なのでホント、クビだけは……!」

 どこまで聞かれたかはわかんないけど、こうやって引き止めて名前確認するくらいは、何か察したってことだよね。

 とりあえず誤解されて取返しのつかなくなる前に、クビだけはなんとか免れなきゃ!

「ホントだな?」

「へっ!?」

「なんでもするって言ったな?」

「は……い……」

「わかった」

「ホントですか!? じゃあクビにはならないってことですよね!?」

「あぁ」

「よかった~!」

「てか、そんな簡単に辞めさせるのもつまんねぇしな」

「え……」

「まぁ、どうするかはこれからじっくり考えるとするわ」

「いや、そりゃなんでもするとは言いましたけど、私も出来ることと出来ないことがきっとあるとは思うので……」

「だからお前に出来る範囲で考えてやるって言ってんだよ」

「ありがとうございます!」

 よかった。クビだけはならなくて済んだっぽい!

「でもまぁ、お前がまだどんな社員でどれだけのことが出来るか正直知らねぇしな」

「そう……ですよね。自分なりに頑張ってはいるつもりなんですけど……」

 やっぱそうだよね。

 社長がこんな一社員がどれだけのことしてるなんて知ってるはずないよね。

「ふ~ん。本村もとむら。この……えっと、名前なんだっけ」

「逢沢依那です……」

 そっか。そりゃ名前も知らないくらいだよな。

 今まで直接社長と関わる機会なんてなかったし。

 いつか直接そういう機会あるかななんてことも思ったりもしたけど、あたしがここに入った時はすでにすごくて遠い存在だったからな。

「あぁ~それ。この逢沢、会社でどれだけ貢献してんのか調べといて」

「了解しました」

 社長と同じ年齢くらいの男性のこの本村って人に社長が指示をする。

 確か社長に秘書としてずっとついてる人だよな。

 たまに社内で見かける時一緒に見るくらいで、こんな風に話してるのも見たことなかったもんな。

 すると、社長は今度はこっちをじっと見て。

「まぁ、なんせ、オレ、””らしいから」

 そう言って少しニヤリとする。

 うわ~!やっぱり聞こえてたー!

 どうしよう!なんでそんな余計なとこだけ聞こえてるんだー!




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