「これは、オレとお前だけの秘密だ」
そんな意味ありげな甘い言葉。
「オレと契約しない?」
それは甘い契約?
それとも……。
~これは社長とあたしのおいしい契約恋愛~
* * *
「ねぇ~見て~桜子~」
「ん~また、
「そ~! 今日更新されたこの写真。もうこの写り
「相変わらず飽きないね~」
会社の昼休み。
ランチをするため、会社の食堂に向かいながら、愛する推し琉偉がSNSにUPした写真を同僚の
そんなあたしは
カフェやレストランなどをコンサルティングやプロデュースする<K dream>という会社に勤めている。
カフェ好きな自分としては結構楽しい仕事。
まぁでも仕事の立場では中途半端な位置だから、失敗して落ち込むこともあったりしたりもするけれど。
でも、そんな時は推しのアイドル琉偉に癒してもらう日々。
時にはSNSで、時には実際ライブなどに会いに行って、癒しや幸せをチャージしている。
琉偉はまだ二十歳になったばっかりで、同年代の男の子たちと五人グループで頑張っていて。
可愛いモノや可愛い人に目がないあたしは、なんといっても可愛いという言葉がピッタリの琉偉ことルイルイを推せるのが何より幸せ。
今みたいに普段から、琉偉がSNSに載せてくれる写真や公式でアップしてくれる動画などを観ては興奮して桜子に共有し、そして、休みの日にそんな推しの予定が合うと、ライブやイベントに足を運んで、その時の推し活報告を翌日に桜子にするというのがいつもの日課だ。
「確かにこのルイルイ可愛いね~」
「でっしょ~。ルイルイはマジで天使」
「まぁ可愛いモノに目がない依那ならハマっても仕方ないかもね~」
「うん。ルイルイはドンピシャの可愛さ♪」
いつものように報告するあたしに、当たり前のように返してくる桜子。
この当たり前のこの光景に親友の桜子は、芸能人とかアイドルとかまったく興味がないのにいつも呆れることなく話を聞いてくれる有難い存在だ。
「あっ、そういえばうちの社長またいろいろ雑誌やテレビ出てたの観た?」
そして、うちの社長のこの話題も社内では日常茶飯事の話題。
「へ~。また出てたんだ~。うちの社長ムダにイケメンだもんね~」
「いや、別にムダじゃないけど(笑) そんな風に言うのあんたくらいだよ(笑)」
「え~だってあの社長あたしの好きな可愛いの正反対に住んでる人間だよ?」
「確かに、ルイルイが可愛さの最上級なら、うちの社長はカッコよさの最上級?」
「あ~、一般的にはそんな感じだね~。でも、あたしん中では、最上級の天使と悪魔だから」
「また出た(笑) 依那のその天使と悪魔 (笑)」
「いや、これあたしの中で最上級の誉め言葉だから」
「にしてもその悪魔呼びがさ(笑) まぁ、うちの社員や世間では、あのクールなところや、デキる男って感じが全面的に出てるのがいいって絶賛だしね~。 しかも、それに加えてビジュアルもそこらのモデルやアイドル顔負けのスタイルと顔面!なのにいまだ独身の三十三歳!
「確かにうちの社長いつの間にかそういう感じになっちゃってるよね~。でもあたしはそういう意味でいうと可愛いが優先だから、正反対の社長は全然そういう感覚で考えたこともない」
瑠偉の可愛さに癒されることを生きがいにしてるあたしは、正反対の社長をそもそもそういう対象に見るということ自体頭にない。
だって、そんなクールな相手に癒されるとかある?
ってか、あの人基本ストイックに仕事してるとこしか見たことないよ?
可愛いとかそういうの感じるとこあるんだろうか?
「まぁ依那の基準そこだよね~」
「うん。可愛いは正義。ってか、元々うちらみたいな社員は社長に近づくことも早々ないし。そもそも社長に恋愛対象とかそんなの持つレベルじゃないのよ」
「確かに。結局狙えるのはそれなりの位置にいる先輩とか秘書の人とかだし」
そう。社内で騒いでる人間も、結局はあたしが瑠偉に騒いでるミーハー的な感覚がほとんど。
それこそそういうビジュアルもスペックも社長に見合うような人しか狙ってないし狙えない。
そんなハイスペックな相手を、いくらあたしがミーハーだとは言え、恋愛対象に見るだなんて身分不相応なことを考えるほどまだあたしはバカじゃない。
「そうそう。それにあたし年上興味ないし。ルイルイみたいに年下の可愛い子推せればそれだけで♪」
そういう部分では十分瑠偉がすべて埋めてくれるし問題なし。
とにかくあたしは、そういう癒しや楽しみは年下の可愛い瑠偉がいればそれだけで満足!
「でもそのルイルイも依那にとってはガチ恋ではないんでしょ?」
「あ~。うん。そう……だと思ってる」
「自身なさげ(笑)」
「だって現実の男……ろくなのいない……」
「あぁ~。そうだった~。依那昔からそんな感じだったもんね」
「まぁいいなぁって思った人はいたけど、琉偉好きな気持ちに比べたら、なんてことないよね。好きなんてレベルじゃなかったわ。琉偉ほど夢中になる人いなかったもん」
自分的にはガチ恋だとは思っていないつもりだけど、あまりにも現実でそういう相手がいないせいで、どこまで瑠偉に依存して好きなのかは、正直微妙で曖昧な気はする。
実際瑠偉を好きすぎて、瑠偉と比べると現実の男は当然霞むのは確かだし物足りない。
「まぁ依那はそれで、ある意味幸せか」
「そう。ルイルイ好きなら直接傷つけられることもないし、自分がダメなのかな~とかそういうのも悩まないで幸せな気持ちだけでいられるじゃん」
「まぁね」
結局瑠偉は芸能人で夢と希望だけを与えてくれる人。
実際に現実で自分と知り合うことなんてないし、直接話したりもしないから自分が好きな瑠偉のままで好きでいられる。
自分を相手にしてガッカリされることもガッカリすることも当然ない。
相手にされなくて当然。傷つかないまま好きでいられるからこそ、瑠偉はあたしの癒しなのだ。
「その点、桜子はいいな~。ラブラブの彼氏いて」
「ま~
「いいな~。幼馴染で小さい時から知ってて付き合うなんて、それこそ理想だよ~」
「でも今は依那、琉偉くん一筋だから他に見向きもしないしね~。まぁ現実もいい男ばっかとは限んないし、それなら傷つくことなく瑠偉くん好きでいる方が依那は幸せかもね~」
かといって、別に現実で好きな人も恋人もいらないって訳でもない。
実際本当にそれほどの男性がいなかったってだけ。
「桜子はそういうとこ理解してくれてるの有難い」
「あたしはどんなカタチでも依那が幸せでいてくれたらそれでいいよ」
桜子はいつもこうやって言ってくれる。
桜子は現実を見ないあたしを否定したりはしない。
あたしが一番笑顔でいれること、あたしが無理しないでいられるカタチを願ってくれている。
「ありがと桜子。まぁとにかくルイルイもいるし、社長はあたしにとって、そういう対象じゃないっていうか」
「まぁ確かに依那のタイプからいうとそういうんじゃないよね」
「うん。まぁ可愛いもん好きのあたしからしたら、社長はそもそもタイプじゃないっていうのもあるんだけど。でも仕事に関しても女性関係に関しても怖いって噂聞くしさ。もうまともに接するのも無理」
仕事を完璧に出来る社長は、見た目や雰囲気そして仕事っぷりからして、きっとドSな俺様だと社内でも世間からも思われてるのも有名な話。
まともに話したことないあたしは、結局そのイメージや噂をそのまま鵜呑みにして自然とそんな印象を持ってしまった。
そんなことを言いながら桜子と部署まで続く廊下を歩いてると。
「あぁ~。うん。わかってる。それはもう先に進めていい。あぁ。オレが責任取る」
ん? すぐ近くで、電話してるっぽい人が、なんだかどこかで聞いたことあるような声……。
「
「わかりました。社長」
ん……? え……、社長……って聞こえましたけど……?
いやいや、まさか、まさか。
今社長のそんな話をガッツリしている状態で、一番聞かれたくない人物がまさかの自分のすぐ後ろにいるなんて、そんな恐ろしいこと起きてないよね…?