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エピローグ

――2035年10月第3週――


 シーズン10.1から始まった合戦新シーズンは早くも3カ月が経とうとしていた。イングランド・スコットランド・北イタリア(法王庁)・ポルトガル同盟連合vsフランス・神聖ローマ帝国同盟連合の戦いがアキテーヌ地方でおこなわれることになる


「さって、こちらは神聖ローマ帝国のプレイヤーを含めて約600名ね」


 真紅の双眸に、紅いセミロングの髪を風にたなびかせた女性が隣に並ぶ男にそう告げる。


「ああ、そして、イングランド同盟連合は、ざっと900名だな……」


 髑髏をモチーフにした兜を被った男が自分の相棒である女性にそう返す。


「ふふっ。イングランド陣営の連中って、最近は、あたしのことを【深紅の魔法剣士】とか【血濡れの花嫁ブラッディ・ブライド】って揶揄しているみたいよ? どうやら、傭兵団クランイングランドの綺羅星ビューティフル・スターのシャライ・アレクサンダーがネットで恨みつらみを書き込んでいるらしいわよ?」


「あいつは俺がイングランド陣営に所属している時から、アレだったからなあ……。あいつの相棒のゴーマ・フィッシュバーンもそろそろ愛想が尽きそうだって、この前、俺にディスコで愚痴ってきてたわ……」


 男が自分の横に並ぶ女性の格好を見て、はあああとひとつ嘆息をする。


「しっかし、せっかく、俺が贈った【オレルアオンのウエディングドレス・金箱】を黒と赤に染色しやがって……。茉里まつり、お前はいったい何がしたいのか、俺でもさっぱりわからん……」


 茉里まつりと呼ばれた女性キャラは、かつては黄金で染まっていた全身鎧を黒を基調としたモノに染め直していた。さらには純白のドレスは血の色を示すかのように鮮やかな赤へと。


「良いのよ、これで。所詮、合戦狂いはノブオンでは異端児なのよ。なら、あたしがその体現者として、【オルレアンのウエディングドレス・金箱】をそれ用に仕立て直しただけよっ」


 茉里まつりの言い草に、隣に並ぶ男は、はあああと深いため息をつくしかない。


「はいはい、わかりましたよ。贈ったモノを自由にして良いのは所有者の権利だもんな!」


「ふふっ。そういうこと。さって、今夜も、あたしの『修羅属性』が火を噴くわよ!」


 茉里まつりは腰に佩いた鞘から長剣ロング・ソードを抜く。シャリリリィンと金属と金属が擦れ合う音が茉里まつりの耳に心地良く聞こえる。


「ったく、『修羅属性』を手に入れた途端、魔法の杖マジック・ステッキじゃなくて、長剣ロング・ソードに適正を振り直しやがって……」


「う、うるさいわね! いちいち、武流たけるは一言多いのよっ!」


「すいません、俺が全面的に悪うございました」


「わかれば良いのよ、わかれば。さって、今夜こそ、敵本陣に辿りつくわよっ!」


 茉里まつりはメニューからアイテム画面を開き、長剣ロング・ソードを選択する。次に追加で表示されるコマンドから『修羅属性』を選び、決定ボタンを押す。さらにはソフトキーボードを立ち上げて、素早くチャットを打ち込んでいく。


「コード入力『/勇気の剣ブレイブ・ソード』。『天使の御業』発動許可申請』……」


――汝、愛する者を守るために、『天使の御業』を使うことを約束するか?


「当然ね。あたしがこの剣を振るうのは、そのためしかないのよっ!」


――汝、愛する者を幸せにするために『天使の御業』を使うことを約束するか?


「あたしは、とっくの昔に幸せだったのよっ。武流たけるが居てくれたものっ。武流たけるも幸せだって言ってくれてるわっ!」


――汝、愛する者と共に戦場を駆けたまえ。われは汝たちに祝福を与えん。『天使の御業』の使用を許可する


「よっし、許可が下りたわっ! コマンド『/天使の御業:修羅属性』!!」


 それと同時に、彼女が持つ長剣ロング・ソードには、紫色の嵐にも似た螺旋が纏わりつく。


「おいおい! 開幕からもしかして敵本陣に突撃するってわけじゃないよな!?」


「その通りよ! 何を素っ頓狂な声を上げてるのかしら? そんなのじゃ、デンカ・ラ・ヴィクトリアの名が泣くわよ!」


 彼女が武流たけるにそう言ったと同時に開戦を知らせるラッパの音が合戦場全体に鳴り響く。茉里まつりはソフトキーボードを用い、素早くメッセージを打ち込み、それを合戦チャットへ流す。


「マツリ・ラ・ヴィクトリアの名の下に、フランス同盟連合に勝利をっ! 皆、行くわよ!」


 白い軍馬に跨るマツリが左手に持つ長剣ロング・ソードを天に向かって突き立てる。


 その振り上げた彼女の左手の薬指には結婚指輪エンゲージ・リングがはめられており、それが太陽光を反射し、キラキラと眩しく輝く。


フランス同盟連合に勝利をっヴィクトリア ラ・アリアンス フランセ!』


 彼女に続くフランス同盟連合に所属するプレイヤーたちはそう叫びながら、戦力差1.5倍のイングランド陣営に斬り込んでいくのであった……。

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