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第34話:小さな教会

 マツリは炎の神舞ファー・ダンスにより、自分の火属性を上げる。それと同時にマツリの右手に持つ木製の魔法の杖マジック・ステッキ全体が炎に包まれる。


 次いで、デンカは水の精霊オータ・スピリッツにより、自分の攻撃力を上げる。それと同時にデンカが両手に持つ金属製の斧槍ハルバートに水の精霊:ウンディーネが宿り、斧槍ハルバートとデンカの両腕は水に包まれる。


「『紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴン』発動よ!!」


 マツリの前方3メートルの何もない空間に直径10メートルの炎を纏った紅い魔法陣が描かれる。そして、その魔法陣から巨大な紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンが具現化される。その紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンは大きく口を開き、青白き獄炎をアダムに吐きかける。


 紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンの吐き出す炎に包まれたアダムの頭上にはダメージを示す赤色で100万の数値が表示される。


「『信仰への回帰リターン・フェイス』発動だ!」


 デンカは頭上で斧槍ハルバートを振り回し、イブの脳天にその穂先を振り下ろす。イブの頭部を斧槍ハルバートが深々と叩き込まれ、さらにウンディーネがその傷口から入り込み、イブの体内で暴れ回る。


 そのイブの頭上にはダメージを示す赤色で50万の数値が表示される。


「よくぞ、われに罰を与えたのでアル。われらが子孫よ。われに代わり、地上で繁栄できることを望んでいるのでアル……」


「ウフフッ。さすが私がお腹を痛めて産んだ子たちの子孫なのデスワ? あなたたちの栄華を望んでイマスワ……」


 それがアダムとイブの最後の言葉であった。彼らはその言葉を言い残し、まるで立ち込めていた霧が晴れるが如く、その存在を消していくのであった。そして、アダムとイブが消えると同時に、怨霊の軍勢レギオンもまたどこかへ消え去ってしまった……。




 かつて『楽園』と呼ばれた場所には、アダムとイブに代わり、2人の男女が残されていた。残った女は男に一言


「ふっふーーーん。やっぱり、あたしのほうがダメージを叩き出せたわねっ。デンカ? いっそのこと、破戒僧正をやめて、メインアタッカー職に転向したら?」


 マツリはダンジョン【忘れられた英雄の墓場】をクリアしたことよりも、デンカの2倍のダメージを叩き出せたことが嬉しいのか、自慢たらたらに鼻を鳴らす。


「て、てめえっ! 俺がメインアタッカー職に転向したら、うちの徒党パーティは誰が回復役をやるんだよっ! マツリが代わりに回復役をしてくれるのかっ!?」


「それも悪くないかもね? でも、あたしが回復役に回ったら、その分、デンカにはあたしの分を足した分に2倍をかけたダメージを出してもらうからねっ!」


 茉里まつりは笑いながら、そうデンカに言うのであった。武流たけるはまったくよう……と言いながら、頭をぼりぼりと掻くしかなかった。


 そんな2人であったが、アダムとイブが『楽園』から去った後、何も無かった荒野に、光り輝く荘厳な金属扉が現れたことにより、それに注視せざるをえなくなる。


「デンカ。あそこにあたしが求めてやまないモノがあるわけね?」


「ああ、そうだな。ついにやり遂げたな……。あとはあの扉を開いて、その先にある『修羅属性』を手に入れるだけだぜ。準備は良いか?」


 この5日間、マツリは団長から【オルレアンのウエディングドレス・金箱】を【結婚してでも奪い取る】ことを目標に、ダンジョン【忘れられた英雄の墓場】で戦ってきた。


 その旅も終焉へと向かいつつあった。彼女らは光り輝く荘厳な金属製扉を開き、その先に進む。


 彼女らがたどり着いたのは小さくこじんまりとした教会であった。教会の奥にある祭壇の後方のステンドガラスには、キリストの姿が描かれている。その向こう側から陽の光が差し込み、教会内は幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 マツリは、へえええと感心しながら、祭壇へと向かって歩いていく。デンカはマツリの数歩後を追っていく。


「結婚式を挙げるなら、こんな教会がいいかもねー。デンカは教会で挙げる派? それとも神前式?」


 マツリの唐突な質問にデンカは意味がわからないといった感じで生返事をする。


「うーん。俺は教会かなー? でも、神前式も興味はあるんだよなー?」


「はっきりしておかないと、後々、トラブルに繋がるわよ? もちろん、女性側の意見が通るモノだけど」


「じゃあ、男の俺が希望を言ったって、意味無いじゃねえか……」


 2人が祭壇に近寄ると、祭壇の上にあった聖書バイブルがひとりでに開く。マツリは何事!? っと驚きながらも、その開かれた聖書バイブルを見る。すると開かれたページには『天使の御業』についての覚え書きがされていたのである。


「それ、聖書バイブルのように見えるけど、『天使の御業』のマニュアルなんだよ。ページをめくってみ? 色々とスキルが載っているから。まあ、『修羅属性』を最終的には選ぶんだろうけどさ?」


 マツリが、あっそうなの? とデンカに返事をしたあと、祭壇の上にある聖書バイブルのページをめくっていく。デンカの説明通り、左側のページにはスキル名。右側のページにはざっくらばんとしたそのスキルの説明が載っているのであった。


「本当に、色々とあるのね……。あっ、この真っ白なページは何なの?」


「ああ。それは既に誰かがそのページのスキルを取得したあかしだな。俺含めて、4つ分、スキルが真っ白なはずだぜ?」


 マツリは、へーーーと言いながら、さらにページをめくっていく。10ページほどめくった辺りでやっとマツリのお目当てであるスキルについてのページにたどり着く。


「あったわ。『修羅属性』。うっわ、団長の言っていた通り、これは実際に誰かを殴ってみないとわからないわね?」


「おいっ。俺の顔を見ながら言うんじゃねえよっ。俺は実験台にはならないからな? イングランド陣営の誰かでもぶん殴ってこいっ」


 マツリはけち臭いわねと思いながら、『修羅属性』のページをじっくりと読む。スキル説明には、相手の防御や耐性を完全に無視して、自身の物理攻撃、魔法攻撃全てが通るうんぬんとしか書かれていない。こんな説明で本当にどうしろと……とマツリは思うのでった。


「欲しいスキルが決まったら、スキル名が描かれている左側のページに自分の左手を乗せて、決定ボタンを押せばいいぞ? そしたら、スキル修得になるから。あと、スキルの使い方は右側のページな?」


「えっと、コード入力をまずおこなって、その後、使用許諾を申請して、その許可が下りたら、キーボードでコマンド『/天使の御業:修羅属性』と打つと。って、使用許諾って何? 『天使の御業』って、運営に許可をもらわないと使えないわけ?」


 マツリの疑問も当然であった。マツリは一度、スキルを手に入れれば、勝手気ままに使えると思い込んでいたからである。


「うーーーん。俺も誰に許可をもらっているのかはわからんが、メニュー画面や戦闘時に新たに『天使の御業』って項目が増えるんだよ。何が条件で許可が下りるのかは、俺もさっぱりわからん」


「なんだか、頼りない説明ね? まあ、良いわ。夜も0時を回りそうだし、とっとともらうモノもらって帰りましょ?」


「もう少し、感慨にふけっても良いと思うんだが……。まあ、良いか。じゃあ、さっき、俺が言ったようにして、スキルをもらうんだぞ? 手に入れれば、そのページは真っ白になるから」


 デンカにそう言われたあと、マツリは『修羅属性』と書かれたページに自分の左手を置く。すると、『このスキルを修得しますか? 【はい】【いいえ】』と画面に表示される。


 マツリはさほど迷いもなく、【はい】を選択する。すると、その開かれたページが光り出し、ゆっくりとであるが、書かれていた文字が消えていくのであった。10数秒後には、すっかり真っ白なページへと生まれ変わってしまう。


「これで良かったのかしら? うーーーん、やっぱり、試しに誰かをぶん殴ってみないと……」


「だから、俺の顔を見るなって言っているだろうがっ! トッシェでも俺の代わりに殴っておけよっ!」


「トッシェが言われなきことで殴られたら可哀想じゃないのっ。本当にデンカは血も涙も無いわねっ!」


 なんで、俺は殴っても良いのに、トッシェはダメなんだよとデンカがマツリに文句を言う。マツリは、うーーーんと少しだけ悩んだ後


「だって、デンカって、あたしのすることは全部許してくれそうだからっ」


 にこやかな笑顔でマツリがそう言いのけるので、デンカは、はあああとため息をつくしかなかったのであった。

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