「ふむっ。どうやら、マツリくんは【結婚】については軽くは知っているようですね?」
ハジュンが含みのあるような言葉をマツリに送る。
その
「【結婚】には、まだまだ特典があります。実はですね? 夫婦となったキャラたち用に新婚用屋敷がありましてね? それが買えるようになります」
それがどうしたのかしら? とマツリは思う。いまいち、ハジュンの言いたいことがわからないのであった。
「わからないって顔をしてますね? これはゲーム内で結婚した夫婦プレイヤーから聞いた話なのですが、その新婚用屋敷の中では、相手キャラの服を脱がすことが出来るのですよ。もちろん、装備品って意味ではありません。装備を外しても、パンツやブラの下着類を外せませんが、その屋敷の中では素っ裸にできるのですよ」
「へっ!? それってどういうことなの!? ノブレスオブリージュ・オンラインって、いつから18歳以上指定のゲームになったのよ!?」
「やっぱり知らなかったんですね? ノブレスオブリージュ・オンラインの【結婚】は、ただ、データとして結婚するわけではありません。運営がプレイヤーの年齢をチェックして、その審査に合格しないと【
「する……。あたし、それでも【結婚】する……」
「お、おい……。マツリ。お前、いくらデータ上のキャラクターと言えども、この変態団長に素っ裸に剥かれちまうんだぞ!? それでも良いのかよ!?」
「ダメッス! 団長はうちの
今まで静観を決め込んでいたトッシェすらも、公然と団長の変態っぷりを非難する。しかし、トッシェはハジュンにジロリと睨みつけられて、たじろいでしまうのであった。
「うっ……。そんな非難めいた視線を飛ばされても、俺っちは引かないッスよ! カッツエさんが団長は変態でもうす! って、俺っちに教えてくれたッスから!」
「カッツエく~~~ん? ちょっと、きみに言いたいことがあるので、皆さんが退席してから、先生と居残りですからね?」
「ガハハッ!
カッツエの言いに、ハジュンはうぐっと口を閉ざす以外、方法がなかった。確かに、
ハジュンは一度、ゴホンッと咳払いをし、マツリに次の言葉を告げる。
「というわけで、先生は皆が認める超弩級変態です。マツリくんが愛の住処に連れ込まれて、先生にいやらしいことをされるのは嫌でしょう?」
「あ、あたしは構わないわっ! 団長には少なからず憧れを抱いているもの……。だから、改めて言うわ。団長、あたしと【結婚】して、【ウエディングドレス・金箱】を譲ってください!」
マツリがそう言うと同時に所作『お辞儀』を
『デンカくん。なんで、こんなことになる前にマツリくんを止めれなかったんですか? これでは、デンカくんをマツリくんのお目付け役とした意味が無いんですが?』
『い、いや。止めようとはしたさ。でも、マツリは一度、動き出したら止まらない性格だってことは、団長だって知っているだろうが。だからこそ、俺をわざわざ同じ
『猫に鈴をつけたつもりでも、鳴らなければ意味がないとはまさにこのとことですね。ふーーー、さって、どうして断ったものでしょうか?』
『何か無理難題でも押し付けたら良いんじゃねえの? それこそ、団長やカッツエさんの最上級職
デンカの言いにハジュンはなるほどと思うのであった。確かにそういうことにチャレンジさせれば、クエストクリアに失敗したとしても、マツリくんの成長に繋がるし、自分はマツリくんと結婚しなくても良いということになる。よしんば出した課題をクリアしてしまった場合は、その時、また別で対処すれば良いとタカをくくっていた。
「マツリくん。あなたが先生とそれほどまでに【結婚】したいという意思は感じ取ることが出来ました。そういうわけで、カッツエくんとちょっと相談したいことがありますので、15分ほどまたあとで、先生たちが居る執務室へとやってきてくれませんか?」
「はっ、はい……」
マツリの頭の中では押してダメなら引いてみろという言葉がよぎり、一旦、矛を収め、デンカとトッシェと共に、団長に言われるままに彼の執務室から退出するのであった。
それから15分後、マツリは団長から直に個人チャットをもらい、再び、3人で団長の執務室へ訪問するのであった。
「えー、では、カッツエくんとの協議の結果、マツリくんが先生と【結婚】するための条件として、【忘れられた英雄の墓場】の最奥までクリアしてもらい、『修羅属性』をゲットしてきてもらうことにします」
「えっ? 【忘れられた英雄の墓場】っていうダンジョンは知っていますけど、『修羅属性』って何……です? 初めて聞いたんですけど!?」
「あれ? デンカくんからは『天使の御業』については聞いたことが無いんですか? デンカくん、マツリくんの教育係として、その辺り、どうなっているんですかね?」
ハジュンはそう言うと、ジロリとデンカの方へ視線を向ける。その視線を受けたデンカは、はっ! とした顔つきになり
「そういや、今の段階のマツリに説明しても意味があんまり無いって思って、マツリには言ってなかったなあ?」
「ちょっと、どういうことよ。デンカ? あたしに隠し事は無しだって、
マツリまでもがデンカに対して、ジロリと非難めいた視線を送る。デンカは困ったぞ? とばかりに自分の頭を右手でコリコリと掻くことになる。
「いやな? マツリにだけ意味がないってわけじゃないんだよ。そもそも『天使の御業』を修得できるまでに、ノブオンをやり込んでいるプレイヤーがほとんど居ないから、今の段階のマツリに言わなくても良いかなと思ってただけだ。その証拠に、トッシェ。お前も『天使の御業』について、詳しく知っているか?」
「ん? 俺っちッスか? いや、噂程度にしか耳に挟んでないッスね。ノブレスオブリージュ・オンラインのとあるダンジョンの最奥には運営が用意したチートクラスのスキルが眠っているとしか……ッス。それが『天使の御業』と呼ばれているんっスか?」
トッシェの口ぶりからして、割りと情報通のトッシェですら『天使の御業』については知っていないことをマツリは理解する。それと同時に、団長が自分に対して、その『修羅属性』を手に入れることなど、到底、無理だということに気づかされるのであった。
「団長、ひどい! あたしにクリア不可能なことを条件にして、あたしとの【結婚】を断る理由にするなんて! 団長は乙女心を何だと思っているの!?」
「いえいえ。絶対にクリア不可能というわけではありませんよ? 事実、マツリくんと同レベル程度で、あの【忘れられた英雄の墓場】に潜り、そこの全30階層をクリアして、トッシェくんの言うところのチートクラスのスキルを手にしているプレイヤーもいますからね? ねえ、カッツエくん?」
「ガハハッ! そうでもうすな。あのダンジョンは、プレイヤー2キャラと【従者NPC】2キャラとの混合