「団長……。あたしと、マツリ・ラ・トゥールと【結婚】してください!」
マツリが執務室に集まる皆に読めるように【近傍限定チャット】で、そう告げる。このチャットは、自分のキャラクターより半径10メートルの範囲までしかメッセージが届かない。さらには、執務室のような部屋の中だと、自分の言いがその部屋の外には漏れない仕様なのである。
「えっ!? いきなり【結婚】を申し込んでこられても、先生、非常に困るんですけど!?」
ハジュン・ド・レイが困惑するのも仕方が無かったことと言えよう。何の意図があって、マツリが自分と、つがいになろうとしているのか成り行きがさっぱり不明だからだ。
「ガハハッ!
「いやいやいや! カッツエくん! 先生はマツリくんとの【結婚】を受け入れる気はありませんからねっ!?」
ハジュンは間髪入れずにカッツエに否定の言葉を送る。カッツエは所作『やれやれ』を
「
「カッツエさんなら、きっと良い女性が現れますっ! それよりも、団長、あたしと【結婚】してください! もちろん、【結婚】したら、団長の【ウエディングドレス・金箱】を、団長の奥さんとなるあたしに譲ってくれますよねっ?」
マツリがそこまで言いをすることにより、ハジュンは、ああ、なるほどと納得するのであった。マツリにとって大事なことは自分と【結婚】することではなくて、【結婚】システムを利用することであった。
【取引不可】属性アイテムを夫婦同士で【取引可能】属性として扱えることであるところが重要であり、結婚システムを用いてでも、自分が引き当てた確率0.1%の【ウエディングドレス・金箱】が欲しいことなのだと。
ハジュンこと
「マツリくんは【結婚】システムについては、どれほどの知識を持っています? ノブレスオブリージュ・オンラインにおいて【結婚】は夫婦間で【取引不可】アイテムを【取引可能】となるだけではないのですよ? それに【結婚】に至るまでにはいろいろ面倒くさい手続きが必要です。その辺りはわかっています?」
「あたしが知る限りでは、まず課金アイテムである【
「なるほど。では、その課金アイテムである【
ハジュンとしては当然の主張であった。【結婚】システムは【結婚詐欺】を防ぐためにもノブレスオブリージュ・オンラインの運営がいろいろと制約を設けている。そのひとつとして【
さらには、マツリは
そこから考えれば、【結婚式】には
「【
「おい、ちょっと待て! マツリの
「何よっ! あたしが【ウエディングドレス・金箱】を手に入れて、その装備の見た目で合戦中を駆け巡る姿を見たくないの!? あたしたち、すっごく目立つはずよ!?」
マツリが真紅の双眸から強い光を醸し出しながらデンカを睨みつける。VR機器を通して感じる、マツリの強い意思にデンカはほとほと困り、助け舟をトッシェに出してもらおうと、首だけ回して、トッシェのほうを見るのだが、そのトッシェと言えば
「俺っち、ちょっと実家に帰省する予定が出来たッス。デンカさん、済まないっすけど、1カ月ほどインしなくなるんで、マツリちゃんの結婚式の準備は任せたッスよ?」
「ちょっと待てや! お前、そもそも実家暮らしだろうがっ! 帰省って、どこに帰省するつもりだよっ!」
「そんなの、母方の実家に決まっているッス。意外と近所なんで、徒歩10分ってところッス。マツリちゃん、俺っちは結婚式にはちゃんと出席するッスから、その点は心配しなくて良いッスよ?」
なーにが心配しなくて良いだ、この野郎! とディスコで直接文句を言ってやろうと思っているところ、ピロロ~ンと言う音が
あいつ、逃げやがった……。
トッシェの逃げ足は速い。過去、マツリがことあるごとに無茶な注文を
しかし、今回ばかりはナリッサと言えども、断るだろうな……と
【結婚式】の会場を押さえることはもちろんとして、
自分の結婚式ならいざ知らず、マツリと団長との結婚式なのだ。
1番の問題なのは、トッシェもナリッサも、少なからずマツリに好意の感情を持っているのだ。それを
「デンカ? さっきから黙っているけど、何か不都合でもあった? トッシェがディスコ通話から退出しちゃったんだけど? あたし、何か不味いことをしちゃったかしら?」
不味いも何も、1年半くらい前にマツリ、自分、トッシェ、ナリッサと
「さ、さあ? トッシェの母親辺りが、トッシェの部屋にやってきたんじゃね? んで、急遽、ディスコを落とす必要があったんだろ。マツリは別に気にする必要は無いんじゃないか?」
「そう……。それなら良いんだけど。デンカ、申し訳ないけど、あたしと団長の【結婚】が上手くいくように、皆を説得してね? あたしはどうしても、団長から【ウエディングドレス・金箱】を奪い取りたいからっ!」