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第5話:面従腹背王

「まあ、良いわ。ちょうど運営から色々とことあるごとにプレゼントされてたノブレスメダルの無料分が6200枚貯まってたし……。もったいないけど、これで1回だけ、10連ガチャ5000円くじを引いてみようかしら……」


「まあ、出たら出たで、向こう3年分くらいの運を使っちまいそうだけどな? しかし、よくもまあ、そんなに無料分のノブレスメダルを貯め込んでたな?」


 ノブレスメダルには有料分と無料分という2種類が存在していた。有料分とは、ノブレスオブリージュ・オンラインの公式ページ等で、ノブレスメダルを購入すると、購入した分のノブレスメダルが有料分というところに表示される。


 では、無料分とは何かと言えば、ノブレスメダルを購入する時に、多額の量を一度に買うと、おまけで付随する分だ。3000メダルの場合は無料分がその3%の90メダル。5000メダルの場合は無料分が6%の300メダル。そして、1万メダルにもなると15%の無料分として1500メダルが配布されることになる。


「しっかし、こっそりとまあ、ノブレスメダルを買ってたんだな? いったい、何のために買ってたんだ?」


「6200円分も無料分をもらえるほどノブレスメダルは購入してないわよ。この半分は、ノブレスオブリージュ・オンラインの臨時メンテナンスや、サーバー停止に伴う、お詫びメダルよ? いくら、あたしがこのゲームを気に入っているからと言って、メダル購入だけで、これだけの無料分メダルを稼ぐわけがないじゃない」


 それもそうかとデンカは思ってしまう。マツリは確か、このノブレスオブリージュ・オンラインを始めたのはちょうど2年前ののシーズン8.0が実装されたばかりの頃だったはずだ。そこから、約2年後にはノブオンは大型拡張アップデートでシーズン10.0となり、さらには先月はシーズン5.1となったんだったなと。


 どのMMO・RPGでも、そうだと聞くが、基本、拡張アップデートや、大型アップデートが実装されてから数週間は、プレイヤーたちの手により不具合が多数発見される。そして、運営側は週1でおこなう定期メンテナンス以外に、緊急・臨時メンテナンスをおこなうそうだ。


 ノブレスオブリージュ・オンラインも例に漏れず、シーズンが進む時には、臨時メンテナンスの嵐であった。プレイヤー側からはノブレスオブリージュ・オンラインではなく、稼働レス・オンラインと揶揄されるほどであったのはデンカの記憶にも新しい。


 特にシーズン8.7から10.0に拡張アップデートされた時は、相当、ひどかったことをデンカは覚えている。合戦を含めての過去のコンテンツを改良・改善していくというコンセプトの下でシーズン10.0【オルレアンの娘】が実装された。


 しかしだ。やはり10年もの歳月を費やして、コンテンツを増やしていったノブレスオブリージュ・オンラインであり、過去、作ったシステムに手を加えたことにより、サーバー側の処理が過大となる症状が起きてしまった。


 そのため、【オレルアンの娘】が実装されてから2週間近くは臨時メンテナンスにつぐ臨時メンテナンスが行われ、ノブレスオブリージュ・オンラインのメインコンテンツである合戦すら、運営が1カ月間、開催をストップするという異常事態が起きたのである。


 このゲームを10年近くプレイしてきた武流たけるもさすがにこの異常事態の時は、物理的にノブレスオブリージュ・オンラインが終わってしまうのではないかと危惧したほどである。


 しかしながら、運営側の血と汗と涙がなんとか、いつものノブレスオブリージュ・オンラインを復活させることに成功させたのであった。シーズン10.0が実装されてから3週間目には、何の支障も無く、通常プレイが可能となり、ノブオンプレイヤーたちは、ほっと胸を撫で下ろしたのであった。


 そして、年が明けて、1月半ばには、改良された合戦にも参戦できるようになり、合戦を主に活動の場とするプレイヤーたちも、続々とノブレスオブリージュ・オンラインに戻ってくることになる。


 しっかし、運営側も太っ腹だよなとデンカは思う。運営側は臨時メンテナンスが行われた日×300メダルを月額課金を続けていたプレイヤーに配布したんだからな。その時の配布量は1プレイヤーに対して、2700メダルだったはずだ。


 さらには、シーズン10.1にバージョンアップした時も、2日ほど臨時メンテナンスが行われて、それにも600メダルを配布したものだ。よっぽど、運営側はノブレスオブリージュ・オンラインからのユーザー離れを危惧していたんだろう。


 まあ、ノブレスオブリージュ・オンラインを未だにプレイしているようなユーザーは鍛えあげられたエイコウ信者だらけであり、臨時メンテナンスが行われても、【またかよ、しっかりしてくれよ運営さんたちよ】程度の感想しか抱いてなかったりもする。


 それでも、10年も続いているようなゲームでありながらも、ご新規さんというモノは存在しており、そういったある意味、MMO・RPGに鍛えられてないユーザーがツイッダー上で大暴れしたという話は有名だ。


 その副産物として、お詫びメダルの配布に繋がったのであろうが、これは鍛えられた古参プレイヤーにとっても、ご褒美であったため、次に臨時メンテナンスがある時には、またお詫びメダルが配布されるであろうから、そんなことをしなくても良いんだよー? 的なことは誰一人、言い出さなかったのも面白い話である。


「ねえ? ちょっと聞いてる? デンカ、また何か考え事をしてて、あたしの話を聞いてないでしょ?」


 ヘッドセット越しに詰問するかのようなマツリの声が、デンカ武流たけるの耳に突き刺さる。


「おっと、悪い悪い。俺もそういや、無料分のノブレスメダルが貯まっているかなって、チェックしてたんだよ。そしたら、予想以上の無料メダルが貯まってたから、何に使おうか考え込んじまってたのさ」


「ったく……。どうせ、【逆襲のシャルル7世くじ】でも見てたんじゃないの? この10連3000円くじのやつ」


 マツリがそう言うので、武流たけるは話を合わせるためにも、メニュー画面から課金アイテム一覧を参照し、その【逆襲のシャルル7世くじ】とやらの詳細をチェックする。


「うっわ。なんだよ、このくじ。【逆襲のシャルル7世・金箱】が確率5%もあるんだけどよ!?」


「そりゃそうよ。ジャンヌ・ダルクのファンが多いのは当たり前として、その獅子身中の蟲がシャルル7世だもの。運営も意地悪よね。ジャンヌの衣装は確率0.1%なのに、シャルル7世は確率5%もあるんだから。これならデンカの運でも、2~3回も引けば、金箱を引き当てれるはずよ?」


 マツリの声には明らかにクスクスと笑みの感情が混ざっていることがわかる武流たけるである。


(ったく、ネタとして買っておくか? マツリが【オルレアンの娘】で、俺が【逆襲のシャルル7世】なら、合戦場でより際立つことにもなるからな?)


 そう思いながら、武流たけるは、くじの詳細から、【逆襲のシャルル7世・金箱】に入っている【面従腹背王の鎧一式】を選び、試着ボタンを押してみる。


「うっわ、なんだよ、この髑髏をあしらった冠に、さらには外套マントにはでかでかと棘の冠を被った頭蓋骨が刺繍されているのはよっ!」


「あははっ! ちょっと、デンカで試着している姿をスクリーンショットで撮って、その画像をあたしに送りなさいよ!」


 くっ! このアマっ! と思いながらも、武流たけるは、律儀にも、【面従腹背王の鎧一式】を試着したデンカの姿をスクリーンショットで撮り、ディスコを用いて、画像ファイルをマツリに送りつける。


「ひーひひっ! あなた、似合いすぎでしょ! こんなにこの鎧を着こなせるのって、ノブレスオブリージュ・オンラインでも、あなただけくらいよっ!?」


 マツリは笑いのツボに入ったのか、それから10分間近くも笑いっぱなしであった。しかもだ。マツリはディスコを用いて、他のノブオン仲間にも俺が送った画像ファイルを配布したようで、ゲーム内の傭兵団クランチャット欄には、デンカさん似合いすぎっス! 今度の合戦では、是非、これを装備していってほしいッス! などと言われる始末となるのであった……。

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