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58話 願いの果て

───白き塔・屋上


 アランさんが眠りについた。


 深い。


 とても深い眠りに。


 彼の願いを託された。


 アランさんは【呪いをかけた張本人も消滅する】と言っていた。その言葉通りに、原初ノ神カオスは今にでも消滅しそうに下半身から塵となっていた。


 だが、原初ノ神カオスはアランさんを見て愉快そうに笑った。


 私から、今までに感じたことのない怒りが込み上げた。


 すると、制御していた魔力がドッと溢れ出し、その魔力に反応した真っ白い魔法書が、ローブの懐から飛び出した。


 アランさんをその場に寝かせ、原初ノ神カオスの前に歩み、魔法書を手に取った。


「フハハハハハハハハハハハハ!! いい気味だ。転生者よ!! 呪いを解いたのはしゃくだが、まぁ許そう。お主の名はなんと申す?」


に名を教える必要など無い。ここで、貴様を消滅させる! 私の願い果て……叶えて!! 金星の使いヴィーナス!」


 魔法書を開くと、原初ノ神カオスの前に魔法陣が現れ、長い金髪の上に花冠が置かれている、白いプリンセス・ドレスを身に纏った女性が現れた。


原初ノ神カオス……。これでお終いよ。さようなら。


 私は原初ノ神カオスに別れを告げると、金星の使いヴィーナスは両手を真上にあげると、雨が降り始めた。


 それと同時に私の魔力も吸い取られていく感覚もした。


 だけど、これだけでは原初ノ神カオスを消滅できないと分かっている私は、赤い液体が付いた震える手で杖を構え、あのを唱えた。


 最初で、最後に見たあの魔術を。


「生命の光よ。悪き者を全て浄化する雨を降り注ぎたまえ! 神聖な雨セイクリッド・レイン!!」


 金星の使いヴィーナスの雨と同様の魔力量で、アランさんの白魔術・神聖な雨セイクリッド・レインが、このセフラン王国全体に降り注いた。


 原初ノ神カオスは皮膚が焼け、叫びながら塵となって消えていった。


 同時に、セフラン王国に出現した魔物らも、塵となり消えていくのも見えた。




───そして、原初ノ神カオスが消滅した。




 この世界から原初ノ神カオスの召喚魔法書も全て。


 金星の使いヴィーナスは魔法書に戻り、ローブの懐に戻っていった。


 今、ここにいるのは眠っているアランさんと、雲一つない青空に戻った上空を見上げながら、泣き叫ぶ私と、そんな私をただ見守るシュネーしかいなかった。





「ルナちゃん!!」


 暫くすると、マリアンヌとユノ先輩にレオン先輩が屋上にやってきた。


 赤い液体が、手と白いローブの袖に染み、横たわっているアランさんを見たマリアンヌたちは、目を見開き、驚いた表情を見せた。


 この光景だけだと、私がアランさんを殺めたという解釈になるだろう。


 マリアンヌたちは軽蔑するだろうな~。


 はぁ……。


 今度こそ、私の人生終わったな。そう思っていると、ユノ先輩が私の元に駆け寄り、優しく包み込んでくれた。


「ユノ、せんぱい?」


「ルナちゃん。本当に、ごめんなさい。ルーカス様に従った私も、ルーカス様も悪いの。原初ノ神カオスを復活させて、ルーカス様はお母様を罪人扱いをしたこの世界を消し、新しい世界を創る予定だったの。私も、姉様や母様を恨んで、ルーカス様の望むままに動いていた。本当にごめんなさい。そして、ルーカス様の野望を壊してくれてありがとう!」


「……」


「おい、ルナよ……。初代様が横たわっているが、どーした?」


 レオン先輩は私に問いかけた。


 私は今までのこと、【呪いの解除方法】について話した。


 すると、マリアンヌとユノ先輩は悲しそうに俯き、レオン先輩は前髪を掻き上げた。


「ふぅ……。そうか。そんな方法があったなんてな。こればかりはしょうがねぇな」


「しょうがなくない!! どんな思いで、アランさんを!!」


「方法はこれしかねぇかったら、しょうがないだろうがよ!! 俺だって、ルーカスと一緒に居たら! あいつのこと理解していたら、こうなることはなかったんだ!!」


 レオン先輩は、私に怒鳴った。


 初めてのことばかりで、私は混乱した。


「誰もが、こんな事態になるなんて思ってなんかねぇよ……。なぁセド」


 レオン先輩の後ろに、いつの間にかセドとレオナにフィリスさんがいた。


 セドはこちらに歩み寄り、ユノ先輩は私から離れ、セドに私を預けた。


「ルナ。遅くなってごめんな。もう大丈夫だ。お前を1人なんかにしない。俺もマリアンヌもレオナも。だから、悲しいときは泣け」


「セド……。うわぁぁぁぁぁぁぁ!! もう誰も!! 失いたくないよ!! みんなと一緒に居たら! アランさんみたいになってしまう!! だけど! 私、みんなと一緒に学校に行って、部活もして! 笑い合っていたいよッ!!」


 私はアランさんを失ったことで、失うことに対しての恐怖心が現れたことを、セドに泣きつきながら告白した。


 すると、マリアンヌとレオナも抱きしめてくれた。


「ルナちゃん、私もルナちゃんと一緒に居たい!」


「アタシもよ。ルナちゃん、これからも一緒に居ましょ? アランさんも、ルナちゃんが楽しく過ごしているところ見たいと思うしね!」


「マリアンヌ…レオナ!! ありがとう!!」


「アランさんのおかげで、お前は【破滅の呪い】も付けられることなんてなかったわけだし、原初ノ神カオスもこの世界から、魔法書ごと消滅したんだ。アランさんからの、贈り物だったんだよ。きっと。だから、この人の分まで生きて、幸せになろう。この人の願いも叶えて」


 私はアランさんの方に顔を向け、涙を手で拭い、感謝の気持ちを伝えた。


「アランさん、貴方と出会えて本当に良かった。あの騒がしかった日々、あの大切な思い出を忘れません。マリアンヌやレオナ、セドたちと幸せになります! だから、貴方の意思を継ぎます。それが私の……」


















───ですから。

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