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57話 アランの願い

───白き塔・屋上


 屋上に辿り着き、扉を押し開く。


 そこには黒い翼に上半身裸の男……。


 原初ノ神カオスがアランさんを見るなり、鼻で笑った。


「フッ。我を封印した、転生者か…。良く生きていたな! せっかく、呪いをつけてやったのになぁ?」


のせいでセレナを失ったんだ!! もう1度! いや。もう2度と、この世界に現れないように消滅させる!!」


 アランさんは杖を取り出し、原初ノ神カオスに白魔術を唱えた。


神聖な雨セイクリッド・レイン!!」


 上空に魔法陣が現れ、原初ノ神カオスに向かって、光が雨のように降り出した。


 だが、原初ノ神カオスには、その攻撃は効かなかった。


 光が当たった部分は焼けたが、すぐに再生してしまったのだ。


「フハハハハハ!! 我に勝てると思っているのか? 転生者よ!!」


「うるさいっ!! 光の炎ホーリー・ファイガ!!」


「シュネーもお願い!!」


 私は、使い魔友達のシュネーを呼び出した。


 彼女の助けも必要だと思ったからだ。


 小さな魔法陣が現れ、シュネーが私の周りを1周してから、目の前に止まった。


「任せてよ!! ルナのためなら私、何でもするわ!!」


「ありがとう。シュネー!!」


 シュネーは私の頬に口をつけた後、雪女を召喚した。


 私も応戦するように杖を構え、原初ノ神カオスに魔法を放った。


絶対零度アブソリュードゼロ!!」


「効かぬ!!」


 原初ノ神カオスは全く私たちの攻撃によるダメージを受けない。


 反対に、その攻撃をダークホールみたいなので吸い込み始め、それを私に目掛けて投げつけてきた。


 つかさず、防御魔法を唱えた。


霜の壁フロスト・ウォール!!」


 霜の壁フロスト・ウォールを張るが、すぐに壊れてしまい、反射的に目を瞑った。


 すると、いつになっても攻撃による痛みが来ない。


 恐る恐る、目をゆっくりと開くと、そこには私を抱きしめ、庇っているアランさんの姿があった。


 私は目を見開き、アランさんの名前を呼んだ。


「アランさん!?」


「ルナ…。よく聞きなさい。僕が意識を失う前に、この呪いを解いてほしい」


 アランさんは突然、【呪いの解除方法】について話し始めた。


「えっ?」


 私は戸惑う中、アランさんは真剣な眼差しで、話を進めた。


「ルナは、セレナに会ったことがあるんでしょ? 僕にはわかるさ。君の師だからね」


「あ、らんさん?」


「セレナに会っているなら、僕の呪いのことについても、聞いているはずだよ。僕の呪いを解く方法は……」



───転生者が転生者を殺すことだよ



 彼の口から絶対に聞きたくない言葉を、今耳にしてしまった。


 耳を塞ぎたくなるような言葉。


 アランさんの言う通り、私はあの夢を見た時、セレナから呪いの解除方法を教わっていた。


 でも、他にいい方法があるのではないのかと。なのに、中々いい方法が見つからなかった。


「別の方法も、きっとありますよね?」


 私はアランさんに問い詰めると、頷くことなく私の顔を無言で見つめた。


 アランさんのローブの袖を掴み、頷くのを待ったが、一向に頷かない。


「アランさん!! お願いだから頷いてよ!! ねぇ、!!」


「ルナ……。君が僕の呪いを解いてくれたら、呪いをかけた張本人も、まとめて消滅できる。だから、君しか止められないんだ」


「嫌だ!! アランさんがいなくなるのは嫌だ!!」


「ルナッ!!」


 拒絶している私に、アランさんは私の名前を呼んだ。


 私は肩をビクッと震わせ、顔を上げると、アランさんのアクアマリンの瞳と、私の赤色の瞳が混ざり合った。


 次の瞬間、アランさんはローブの袖からナイフを取り出し、私の手にそのナイフを握らせた。


「あ、あぁ……!! 嫌だッ!!」


「お願いだルナ。僕をセレナの元に逝かせてくれ。僕と、この世界を救うために」


「あら……ん。ッツ!?」


 アランさんは私を力強く抱きしめ、ナイフがアランさんの腹部に食い込んだ。


 そして、腹部から赤い液体が流れ始めた。


 ナイフを握っている手に、赤い液体が纏わりつき、生暖かい温度を感じた。


「アランさん!? やめてよッ!! 抱きしめないでよ!! 出血止めるから!!」


「いや、このままでいいよ。これでいいんだ」


 痛みを感じているのか、額に汗を流し、段々顔色も青白くなっていくアランさんは、私の頭に手を置き、子供をあやすかのように優しく撫でた。


「居なくならないでよ! 私! まだアランさんから、教えてもらいたいこといっぱいあるのに! セレナの話も聞きたい!! いっぱいお話ししたかったのに!! 離してよッ!! お願い…。居なくならないで」


「ごめん、ね。この方法しかなかったんだ。ねぇ、ルナ。僕のお願い聞いてくれる?」


 微笑むアランさんに、私は涙を流しながら頷いた。


「はい」


「ありがとう。僕のお願いはね、この先。僕と同じ道を歩んでいる者がいるかもしれない人たちを、救ってほしいんだ。この方法ではなくて、君の言う違う方法で。僕は呪いが解けたとしても、あの時から時がとまっているから、肉体が崩壊していただろう。

 だから、で【呪い】を解いてほしいんだ。そうしたら、その子らの命は救われると思うから。

僕の部屋、好きに使っていいから。資料やまとめたノートとかもあるから……。好きにしなさい」


「アランさん……」


「そんな顔しないで。最期くらい、笑顔で見送って欲しい、な?」


 アランさんはいつもみたいに笑った。


 私はナイフから手を離し、涙を手で拭い、それでも溢れてくる涙を、グッと堪えて、笑顔でアランさんを見つめた。


 すると、アランさんは安堵の笑みを浮かべた。


「ふふ。安心した。セドと幸せになって。僕は何時でも見守って…いる、からさ」


 アランさんはどこか幸せそうに目を閉じ……。










───永遠の眠りについた。

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