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56話 ユノの決意

───白き塔・中心部 



 目の前で、姉様を失ってしまった。


 その証拠に、姉様の腹部に私が刺したナイフ。そこから流れ出る、赤い液体。


 私は…姉様を。


 姉様を!!


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」


「ユノ!!」


 姉様を失った私は、魔力の制御が出来なくなり、熾天使ラファエルが、私の魔力を吸い取っていく。


 これじゃまずい! でも止められない!!


「どうしよう!! 誰か助けて!! 怖い!」


 でも、このまま魔力吸い取られて果てれば、姉様と一緒に居れるのかな……?


 そうしたら、母様だって私がいなくなって嬉しいと思うし。


 それでいいんだ。姉様のいない世界なんて必要ない。姉様がいない世界で、私の存在価値なんてない。


 ルーカス様もきっと、私のことをもう必要ないって思ってる。


「あぁ…。このまま姉様と、一緒に逝きたい」


 私はぽつりと独り言を呟き、目を閉じた。


 その瞬間、誰かの温もりを感じた。


 ゆっくりと目を開くと、そこには花畑が広がり、温もりの正体は、マリアンヌちゃんだった。


「ユノ先輩? 貴女は独りじゃないんだよ? ルナちゃんやレオン先輩、ネオ先輩やアノール先輩、セド君やレオナ君。私もいるの。だから、先輩は独りじゃないんだよ? エレノア先輩も、ユノ先輩にそう伝えたかったの。落ち着いて? !」


 マリアンヌちゃんはその場に立ち上がり、翡翠色の魔法書を開いた。


「来て、木星の使いジュピター!」


 魔法書が開くと、黄緑色のバックレス・ドレスを身に纏った女性が現れ、両手を前に合わせ、指を絡ませながら、何かを願うように目を閉じた。


 すると、段々熾天使ラファエルの魔力が私に返ってきたのか、さっきまで寒かったのに、今は全く寒気を感じなくなった。


 そして、熾天使ラファエルは魔法書に戻って行き、私の魔力は暴走しなくて済んだ。


 それに、ダメージも回復していく。この花畑が現れた時からだ。


 私はマリアンヌちゃんに声をかけた。


「マリアンヌちゃん」


「ユノ先輩、エレノア先輩の分まで生きて。今まで、背負ってきたもの全部、私たちにも背負わせて」


 私はマリアンヌちゃんに泣きついた。


 そんな私をマリアンヌちゃんは、何も言わずにただひたすら、抱きしめ返してくれた。


 父が生きているとき、姉様と喧嘩して仲直りした際に、姉様が抱きしめてくれたのを思い出す。


 目の前で笑みを浮かべ、眠っている姉様。私のせいで、姉様をこの手で殺めてしまった。


 この間違いは、やり直すことなんてできない。


 これからも、その先も。


 それでも、私は彼女たちと、姉様の分まで生きていたい。この罪を背負い、償いながら。


 私は生きていく。


 だから、この出来事を終わらせる。


「マリアンヌちゃん、ありがとう。姉様を殺めてしまった私は、この罪を背負うよ。そして、償う! だから、力を貸して!!」


「勿論だよ~!」


「俺も忘れんなよ?」


 私はマリアンヌちゃんとレオンの手を掴み、その場に立ち上がった。


「忘れていないですよ」


「敬語なし! さっきみたいに、ありのままでいろ」


「うん! 姉様…。私頑張る!! だから見ていてね!!」


 私は眠っている姉様にそう声をかけ、ルナちゃんたちの元へ、走り出したのだった。







───頑張ってね。ユノ

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