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50話 アランの想いとルナの想い

───最終日


 あっという間に、魔法強化週間の最終日となった。


 フィリスさんとアーサーさんのおかげで、魔法の種類が増えた。


 それと同時に、魔物の発生率が一挙に減っていき、明日に備えているのだと感じる。


 そして、ここ最近。


 師匠のアランさんが何気なしに、ぼーっとしていることが多く、明日のことに関係しているのかと思ってしまう。


 そう思ってしまうのは、彼の過去を知ってしまったせいなのだろう。


 今も胸の内で、セレナのことを悔やんでいるのだと思うと、私まで苦しくなってくる。


 それに、セレナが教えてくれた【呪いの解除方法】も……。


「ルナ。ちょっといいかい?」


 休憩中、アランさんは私を呼び出し、洞窟の中に連れ込まれた。






───初めて彼と出会った場所に。



 氷の結晶が覆っている洞窟の中で、私はアランさんにセレナのことを尋ねると、優しい声色でセレナのことを教えてくれた。


「セレナは、僕の師なんだ。魔術の師匠。僕も【転生者】の1人。

 転生した当時、彼女に拾われ、あの学園にも通った。ルイやブライアンと出会って、この世界で生きていた。充実していた。

 ウィザード・セクト候補試験に合格した僕は、初代【月の騎士ムーンナイト】の称号を授かり、世界の秩序を保っていた。そして、僕のことを大切にしてくれていたセレナのことを、異性として愛していた。

 彼女と共に暮らしていたんだ…この洞窟で。

 セレナは転生した当時から身体が弱く、陽の光にも当たってはいけないくらい弱かった。だから、シュネーと共にこの洞窟で暮らし、たまたまこの場所に転生してしまった僕を拾った」


 アランさんも…転生者。


 しかも、初代月の騎士ムーンナイト


「だんだん、彼女と時を過ごすようになって、いつの間にかセレナに惹かれていた。

 あの愛らしい笑顔を、今でも思い出す。彼女も僕に好意を持っていたのは知っていたさ。

 でも、それに応じることはできなかったし、互いに分かっていたからね。

 いつ、何があるか分からないから、この気持ちを抑えた。僕はウィザード・セクトの一員だし、彼女は身体が弱い。それにね、原初ノ神カオスがこの世界に降り立つというのは予知していたから。

 その通り、原初ノ神カオスが現れ、ウィザード・セクトは壊滅の危機、初代騎士ナイトらは僕を残して、この世を去ってしまったから、命を懸けてこの世界を……。セレナを、守り通すことが出来た。そのはずだった!!」


 優しい声色がだんだん怒りを表すかのような、声色へと変わっていった。


 それでもアランさんは、語るのを辞めなかった。


「僕が瀕死状態になった隙に、原初ノ神カオスは俺に呪いをかけた!!

 そのせいで、セレナは!! 俺のために命を絶ったんだ!!

 何故、あの時僕が倒れなければ、セレナは生きていたはずなのに!! 僕が最初からいなければ、セレナはもっと幸せだったはずなのに、僕さえいなければ!! 生まれていなければ!!」


───パシン


 乾いた音が洞窟内に響き渡った。


 右頬を抑え、動揺しているアランさんに自分の想いを伝えた。


「馬鹿じゃないの!! セレナは貴方のために、貴方に生きていてほしくて選んだ道なのに! 否定しないであげて!! それに何? 自分がいなければって……。

 そんなことを言われるために、セレナは貴方を生かしたんじゃない!! 貴方の笑顔が、貴方と過ごした日々が、貴方の声が、アランという存在が大好きで生かしたの!! 自分を! セレナを否定しないで。もう2度と!! 約束して!! アラン!!」


 初めてだ。


 こんなに感情を露わにしたの。


 レオン先輩に嵌められたときはキレたけど、それとこれは違う。


 セレナを。アランさん自身を否定された瞬間、私の中で何かかブッと切れた。


 それに、私自身も否定された気分もした。


「……セレナ?」


 アランさんは、私の顔を見て呟いた。


 私とセレナを被せているのだろう。なんか色々複雑だけど、自我を取り戻したアランさんを見て、一安心した。


「ごめん…。もう言わないから。怒らないでほしい」


「怒ってませんよもう。私こそ、怒鳴った挙句、叩いてしまって。痛くないですか?」


 恐る恐るアランさんの頬に手をかざすと、抱き寄せられた。


「痛くないよ。ありがとう。それでさ僕、ルナのこと好きって前に言ったよね?」


「え、はい」


「今でものことが好きだ。でもね、それは今日でお終いにするよ。これで」


 アランさんはどこか寂しそうな顔を見せた後、私の唇を


 数秒の出来事なのにも関わらず、とても長く感じた。


 互いの唇が距離を取ると、アランさんが口を開いた。


「僕はもう君のことを諦める。それと、この世でだって、改めて思い知らされたからね。君は僕の弟子。ではなく、だから。

 ありがとうルナ。色々と吹っ切れたよ。でも、そこにいるクソガキに愛想ついたら、僕の元においで!」


「だーれが、貴様の元にやるか! 爺!!」


 後ろを振り向くと、クラスメイト兼ライバル兼彼氏のセド・レナードが、仁王立ちしていた。


 私は今までの一部始終を見られていたことに気づき、動揺を隠せずにいた。


「せ、せせせせせセド!?」


「お前もお前だ。師にキスされてんじゃねぇ」


「う、うるさいわい! わかんなかったもん!!」


 セドに言い訳(事実)を言うと、小さく『可愛いな』と呟いたのが聞こえた。


「あー恥ずかしい!! もう2人とも知らない!!」


 恥ずかしくなった私はそっぽを向き、恥ずかしさをなんとか紛らわした。


 すると、セドはこちらに歩いてきて、今度はセドに抱き寄せられた。


「これで、こいつは俺のもんだな」


「ルナを泣かさないでよね。クソガキ」


「泣かすものか。爺」


 なんなんだよこいつら……。


 でも、いつものアランさんに戻ってよかった。


 それと、セド。この話最初から聞いていたみたいだし。


「2人とも戻るよ! フィリスさんとアーサーさんに、迷惑かけちゃう!」


 私は2人の手を引っ張り、歩き出した。


「それもそうだね」


「フン」


 デレデレするアランさんと、私に手を引っ張られて嬉しいのか、照れ隠しをするセド。


 色々あったけど、一件落着したのであった。




───そして、魔法強化週間が終わり、次の日を迎えた私たちは教会に集まり、ルーカス部長とユノ先輩に立ち向かうため、作戦会議が行われたのであった。

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