今朝の夢で、アランさんの過去を知った私。
心の奥底がモヤモヤしている中、ウィザード・セクト候補試験の最終試験に臨む。
……そのはずだった。
*
───廊下
マリアンヌたちと共に、朝食を取ろうと、食堂に向かっていた。
その途中、ファリス寮と食堂が繋がる廊下で、ファリス寮の生徒らが集まっているのを発見した。
私たちは、そこに駆け寄ってみると、
「フィリスさんとアリアさんだ」
ボソッと呟いた瞬間、フィリスさんと目が合い、アリアさんに肩を叩き、こちらに目線を向けた。
そして、アリアさんとフィリスさんが、私の目の前に来た瞬間、フィリスさんに手を掴まれた。
「え、えー!?」
「ちょっと借りるよー!!」
何故か私は、そのままフィリスさんに何処かへと、連れてかれてしまった。
その光景に、ファリス寮生(主に女子)の黄色い歓声が上がったが、私とフィリスさんは、完全無視をしたのであった。
*
───教会
フィリスさんに連れられた場所は、
中に入ると
そして、ルイさんとブライアン校長が集まっていた。
何やら深刻そうな顔をしていたアノールは、私の顔を見るなり、安堵の笑みを浮かべながら、こちらに駆け寄ってきた。
「ルナ!」
「アノール? どうしたの? 皆さんも……」
「フィリス! この子たちも、連れてきましたけど」
私の後に、アリアさんとセドたちが教会の中に入ってきた。
「うん。この子たちにも手伝ってもらおう。いいよね、アリエス?」
「えぇ。では、皆さん。どうぞ、お座りになってください」
アリエスさんに言われるがまま私たちは、椅子に座ると、フィリスさんが口を開いた。
「ウィザード・セクト候補試験が、中止となったのを知っているかい?」
ん? ちゅうし?
「中止って、あの中止?」
「それしかないだろ……」
隣に座っていたセドは、呆れながら言った。
「彼の言う通りだよ。中止になった理由は、セフラン王国周辺で、魔物が大量発生してしまったこと。そのせいで、僕たちが派遣されることとなったのさ。
そこで1つ。ある事件が起こったんだ。この場にいない2人が、試験を受けた後、行方不明となってしまったんだ」
私は周りを見回すと、部長のルーカス部長とユノ先輩がいないことに気づいた。
「えっ、 ユノ先輩とルーカス部長が!?」
「うん。それで、この魔物の大量発生と、何か関係があるんじゃないかって思った僕たちは、君たちにこのことを伝えるため、呼んだのさ。何か知っていることが、あれば教えてほしい」
あの2人が行方不明になるって。
しかも、魔物の大量発生……。一体、この国では、なにが起きているんだ?
「確か、ユノがルナの首を絞めたとか?」
突然、レオン先輩があの時、その場にいなかったのにも関わらず、私がユノ先輩に、首を絞められていたことを、知っていることに対し、目を見開き驚いた。
もしかして…と、私は左隣にいた、アノールを睨んだ。
アノールは、目線を横に逸らした。
「す、すまん。一応、レオンに言った方がいいかと……」
「ルナさん大丈夫でしたか!? 妹が迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした!!」
初めて、この話を聞いてしまったエレノア先輩は、椅子から立ち上がり、頭を下げた。
私は慌てながら、エレノア先輩に声をかけた。
「私は大丈夫ですから! ユノ先輩のこと、気にしてあげてください!!」
エレノア先輩にそう言うと、どこか辛そうに俯き、ユノ先輩のことについて、静かに話し始めた。
「そうね……。ユノとは、学園でも話したことがありません。幼い頃から私とユノは、引き離されていましたから」
「どういうことだ?」
「アノール。今から教えます。私が10歳、ユノが9歳の頃。父は病で倒れ、母は父を失ったことで、私ではなく、ユノに対して当たりが強くなってしまいました。父に似ている私。母に似ているユノ。おそらく、母は自分に似るユノが、気に入らなかったのでしょう。
臆病者に似た、自分と同じ性格であるユノを。
父に似て、魔力量も多く、固有魔法も使いこなせる私を、母は
ユノは、
ですが、私はユノのことを
エレノア先輩は悲しそうな表情を見せ、唇を強くかみしめた。
「そうだったんだ…」
「私に恨みがあるのかもしれないですが、ユノは
「分かったよ。では、ユノ君のことは、彼女にお任せしようか。それで、ルーカス君について何か知っていることはないかい?」
フィリスさんは、続けて私たちにルーカス部長について訊ねてきたが、何も知らない私たち1年と、エレノア先輩とネオ先輩にアノールは首を振った。
すると、レオン先輩がルーカス部長について話し始めた。
「俺とルーカスは、中等部からの仲でよ。あいつのこと知ってるんだ。あいつは、母親を亡くしているんだ。父親はいなく、シングルマザーとして1人で、ルーカスを育てていたんだよ。
んで、ルーカスが5歳の時、母親が家の中で、血まみれで亡くなっていた。
母親を殺したのは実の父だった。グレイナのファミリーネームは母親のもんで、グレイナ家は貴族でよ。ルーカスの親権を欲しがっていた父親は、地位もあったが、酒やギャンブルに溺れていたため、親権は母親のもんになっていたんだ。
だが、それを許せなかった父親は、ルーカスの母親を殺害した挙句、自作自演をし、ルーカスの母親に罪を擦り付けた。
そのせいで世間は、ルーカスの母親を罪人扱いし、墓さえも作られはしなかった。
その後、父親はルーカスの親権を勝ち取り、あいつを奴隷のように扱った。でも、ルーカスは父親から何とか離れ、グレイナ家をもう1度作り上げることに成功した。
あいつ、やたらと頭がいいからな。当主の器が覚醒したんだろう。
それで、父親の行方は知らないし、ルーカスの野郎は
レオン先輩の話を聞いていた、アリアさんは小さく『えっ』と声を出した。
「私は、その頃この学園に居ましたので、家のことは何も……。母が亡くなったことは知っていましたが、罪人扱いをされた話や私に被害がなかったのは…」
「
ルイさんは、アリアさんに事実を打ち上げた。
「学生の間は、私たち
ブライアン校長は常識のある人間だと、確信した。
しかし、ルーカス部長の過去が重い。
ユノ先輩の過去も重すぎる。
2人の共通点が
そうなると、この事件は……。
「皆さん。お揃いで」
突然、教会の扉が開いた瞬間、聞き覚えのある声と人影が見えた。
「ルーカス部長! それにユノ先輩まで!! 良かった~。無事でなによりです!」
安堵していると、ルーカス部長は私の方に目線を向け、細い瞳を開き、翡翠色の瞳で私を捕らえた。
「ルナ・マーティン。貴女に、宣戦布告します。次の満月の夜、この世界に復讐します。魔物を解き放ち、
「うん。姉様……待ってる」
「ユノッ!!」
「ルーカス!!」
ルーカス部長とユノ先輩は転移魔法で、何処かに去って行ってしまった。
エレノア先輩は、この事件に関わっているユノ先輩を知り、ショックを受けてしまったのか、瞳が揺らぎ、動揺を隠せずにいた。
「エレノア…」
「アノール。ユノが……」
「分かっている。大丈夫だ。なんとかする」
アノールは、エレノア先輩の背中を擦った。
「次の満月って、いつだ?」
「たしかね~。1週間後だよ~」
セドはマリアンヌに尋ねると、1週間後だと答えた。
って、1週間後!?
「マジか!!」
「ルナちゃん。マジだよ~」
「アリア」
混乱している中、フィリスさんはアリアさんに声をかけた。
「大丈夫よ、フィリス。ルナさん、力貸してもらえますか? 弟を止めるために。世界を救うために」
アリアさんは、真剣な眼差しで私の答えを待った。
私は力強く頷いた。
「勿論です」
「それなら、アランにも手伝ってもらいましょう」
ここにきてルイさんが口を開いた。
「アランさんに?」
「えぇ。アランだったら、何か対処方法を知っているのかもしれません。伊達に長年、魔術師をやっているわけでもありませんし。それに、1週間の猶予もありますし、今の発生している魔物を退治しながら、強化週間にしましょう。魔法の強化週間。実際に
───こうして、ルーカス部長に宣戦布告された私たちは、1週間後に向け、魔法強化週間として魔物討伐をすることとなったのであった。