───1年控室
決勝進出が決定した私は、1年の控室に戻り、扉を開くとセドと鉢合わせになった。
どうやら次の試合に向け、会場へと向かうらしい。
「ルナ」
「セド。私、勝ったよ。次はセドの番! 待ってるよ!」
「あぁ。 必ず勝ってくる!」
セドは、私の右肩に手を置いた後、試合会場へと歩いていった。
控室の中に入ると、マリアンヌが駆け寄ってきて、私の両手を手に取り、その場でウサギのようにぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「ルナちゃん! 決勝戦進出! おめでとう!!」
「ありがとう。マリアンヌ! ところで、レオナ。なーんで、泣いてるのよ?」
マリアンヌの後ろで、両手で顔を隠しながら、涙を流すレオナがいた。
「ルナちゃんと、セド君が付き合ったことに、まだ感動+ルナちゃんが決勝戦に行くっていうので、感動してるの~。まいったねぇ~」
「そうだねぇ~」
マリアンヌを堪能した私は、レオナに雪模様が刺繍されたハンカチを渡し、彼の隣に腰を下ろした。
その横に、マリアンヌもちょこんと座った。
「ありがと~。ルナちゃん」
「いい加減泣き止んで? 目腫れちゃうよ?」
「そうよね……。でも、あのセドちゃんが、誰かを好きになるなんてありえなかったし、幼馴染として嬉しいの」
そういえば、セドとレオナって幼馴染だったんだっけ?
ふとそんなことを思い出しながら、レオナはセドについて話し始めた。
「セドちゃんには両親がいないのよ。親からの愛を受け取ったことも無い。
5歳くらいの時かしら? ご両親を事故で亡くしたの。
事故で両親を亡くしたセドちゃんが、病室で1人泣いているところを見つけて、そこから仲良くなって、退院後、セドちゃんは親戚に預けられたけど、アタシもその後退院して、学校も同じで、意外と楽しく過ごしていた。
中等部に通っていた頃、セドちゃんの親戚の方も、歳でなくなってしまって、行く当てがなく、孤児院で過ごすことになった。学校には来ていたけど、腕に痣が出来ていたり、顔に傷を負ったり…」
「それって!?」
私は気づいてしまった。
セドの身に何が起きたのか。
それを悟ったレオナは頷き、答えてくれた。
「ルナちゃんの思う通り、孤児院で先生らに暴力を受けていたのよ。小さい子供たちを守るために、1人でね。
孤児院に行ってから荒れていたわ。段々授業にも参加せずに、魔法ばかり極めて行った。
でも、成績はいいのよねぇ~。
多分、成績に支障が出ないように、独学で勉強していたと思う。
中等部ではクラスが違ったし、アタシも他の子たちとは違って、色んな意味で目立って浮いていたから、セドちゃんに迷惑を掛けたくなくて、遠くから見守ることしかできなかった」
「レオナ……」
「もし、あの時。一緒に居たら、何かが変わっていたのかもしれない。
でも、この学園に編入した時、セドちゃんも同じで、もしかしたらやり直せるのではないかと思った。
1次試験で、久しぶりにセドちゃんを見たときはびっくり!
荒れていたセドちゃんの面影はどこにもなくてね! そして、ルナちゃん」
レオナは私の名前を呼んだ。
「貴女と目が合った時、この子ならセドちゃんと仲良くなってくれると思っていたの。
最終試験の時に話しかけた理由は、セドちゃんが貴方のことを気にするだろうと思ったとの、個人的に興味が湧いたという理由。
そして、セドちゃんと再会することが出来て、貴女たちの戦いを見ていると、セドちゃんが楽しそうに見えて。
中等部の頃より荒れていないようだったし、貴女がセドちゃんに手を差し伸べてくれたおかげで、アタシもセドちゃんも救われた。その後、セドちゃんとも仲直りできたし、貴女たちと過ごしていくたび、セドちゃんがルナちゃんのことが好きだと分かって。
愛を知らない幼馴染が、誰かを愛すことを知って、ますますセドちゃんが成長してくれたことに、感動を覚えたの。
ルナちゃん、マーちゃん。本当に、アタシやセドちゃんと出会ってくれてありがとう!」
レオナは涙を流しながら頭を下げた。
震える両手に握られている自分のハンカチをレオナから取り、彼の涙を拭いた。
顔を上げるレオナの、緑色の瞳と赤い瞳が混ざり合い、レオナの瞳は黄色に変化した。
「こちらこそ。レオナやセド、マリアンヌたちに出会わなければ、ひとりぼっちだったし、転生者だというのも、誰にも言えずに苦しかった。こちらこそ、友達になってくれてありがと!」
「私もルナちゃんたちと、お友達になれて良かった!!」
横からマリアンヌが抱き着いてきて、3人で笑い合った。
セドとレオナの過去を知れて、また一段と友人として近づけた気がする。
何があっても、この子たちのことを裏切らない。
そう決めたのであった。