───1年控室
マリアンヌとレオナと共に、セドとレオン先輩の試合を、控室のモニターで観戦していた。
前回と同様、レオン先輩はセドに水の入ったガラス瓶を使い、勝利しようとしていたが、先輩の杖を砂で拘束し、攻撃を耐えきったことにより、セドに軍配が上がった。
試合が終了し、レオン先輩は会場を後にした。
セドとルイさんが会場内に残り、ルイさんは会場内から、私とルーカス部長に向けて、次の試合の説明をし始めた。
*
『次の試合は、ルナ・マーティンさんとルーカス・グレイナ君の試合となります。1時間の休憩を挟みますので、1時間後にお2人はこちらに戻ってきてください。では、また』
説明が終わると、モニター画面が次の試合表に切り替わって、私とルーカス部長の線が赤く色がつき、くっついて一直線になっていた。
セドとエレノア先輩も同じく。
「不安だぁぁぁぁぁ!!」
「ルナちゃん、1時間もあるんだから、気を落ち着かせましょ?」
「ルナちゃんなら大丈夫! 私、応援しているから!」
「マリアンヌー!!」
私はまた、マリアンヌに抱き着いた。
今日で何回目なのだろう? と思っていると、控室の扉が開き、ファリス寮のローブを左腕に掛けた、セドが入ってきた。
その瞬間、私はマリアンヌから離れ、セドに駆け寄り、彼に抱き着いた。
その場にいたレオナとマリアンヌの2人は、そそくさと控室から出で行ってしまい、私とセドの2人だけとなった。
*
互いの微かな呼吸音。
心臓の音が、静かな控室に響き渡った。
数秒間、この体制のまま時間が過ぎ、セドが口を開いた。
「……おい」
「ん?」
「一体、どういうことだ? 俺はどうしたらいいんだ?」
いつもより掠れている声で、私にそう尋ねてきた。
「少しそのままで」
「ん……」
セドはそっぽを向きながら、私の背中に手を回した。
「それで、いきなりなんだ?」
「セドが、無事で良かったっていう意味」
「そうか。そんなに心配していたのか?」
セドの問いに頷く私。
顔を上げると、左腕で口元を覆い、赤面しているセドがいた。
「そんなに、見るな……」
「無理なお願いね。一応、私の方が年上だからね」
「生前は。だろ? 今は同い年だ。それで、この感じだと俺は、返事を聞いてもいいのか?」
「良いけど……。言っておくけど、私。恋愛は良く分からない」
私は、セドに自分の気持ちを打ち上げた。
「生前は、恋をする暇なんてなかったし、相手もいなかったわ」
「あぁ」
「アランさんには断ったよ。恋愛が分からないし、アランさんのこと好きだけど、そういう好きとは違って、師として好きというのが当てはまったの」
「あぁ」
「でも、セドの試合見てたら心配になって……。怪我とか、私の元から去って行ってしまったらとか。そんな気持ちが溢れ出て。何故か分からないけど、セドの顔を見たら安心して。
それでも、胸が苦しくてさ。こうすれば楽になるかなって思ってても、治らないの。こんな気持ち、初めてだよ」
セドの胸に顔をうずめ、背中に回した手の力を強めた。
すると、セドも背中に回した手の力を強めた。
「ルナ。俺も、そんな気持ちなんだ。この気持ちが、何なのか俺は知っている。レオナに教えてもらっていたからな。改めて言わせてもらう」
「うん」
「俺は、お前のことが好きだ。異性として。俺は、お前を置いてなんか行かないし、どんな姿であろうとも、お前のことを愛し続ける。絶対にだ」
「セド……」
「だから、俺から離れるな」
セドの黒い瞳と私の赤い瞳が交わった。
真剣な眼差しで、私の答えを。
返事を待つセド。
緊張しているのか、セドの心臓の動きも早く感じる。
私の体温もだんだん上がって、今の私の顔も赤いのだろう。
この気持ちは、アランさんとは違う気持ち。
私、彼のことが好きなんだと実感させられる。
───
私が【転生者】としての役割があるとしても、役割を果たし、その先の未来がどうなろうとも、彼は私のことを愛してくれるんだ。
アランさんの呪いを解いて、【転生者】としてのある意味、呪いから解放されたら、目の前にいる彼と共に、生涯を過ごしてみたいと思えてくる。
それを言ったら、重い女だと思われるだろうけど、それが正直な話だ。
彼となら、私は……。
「セド、私。
「当たり前だろ。俺を受け入れてくれてありがとう。ルナ」
セドは、私を愛おしそうに微笑んでくれた。
すると、控室の扉がバン! と勢いよく開く音がすると、マリアンヌとレオナの2人が、控室の中へと入ってきた。
しかも、レオナだけ泣いてるし。
「れ、レオナ!? マリアンヌまで、どうしたのって! ちょ、セド離して!?」
「嫌だ。離さないと、言っただろ?」
「違う違う! そうじゃない、そうじゃない!」
セドから離れようと
「よがっだね!!」
「そうだね~。ルナちゃんを泣かしたら、許さないからねぇ。セド君?」
「あぁ」
「セドちゃんがやっと! やっと、ルナちゃんとくっついてくれたわぁぁぁぁ!! 今日は、お赤飯よぉ!!」
いや、結婚じゃないんだから!?
先が思いやられるわ~。
「甘いのは嫌いだ。せめて、雑穀米で頼む」
「そういうことじゃないわ!! てか、この世界に雑穀米あるなんて知らんかったわ!! そっちの方が驚きだわ!!」
───こうしてセドと私は無事、第1回目のトーナメントを制し、両想いになり、その1時間後、私は試験会場へ戻り、ルーカス部長との試合に臨むのであった。