───1年控室
ユノ先輩に首を絞められていた所を、アランさんとアノールが助けに来てくれて、アノールがユノ先輩を何処かへ連れて行った後、私はアランさんと少しだけ言葉を交わし、自然と意識を失った。
そして今、目を覚ましたら……。
「起きたか」
セドの膝の上で、寝ていたのだ。
「セド君よ。なーぜ、あんたの膝の上で寝ているのかを教えてくれませんでしょうか?」
早口で事情聴取を始めた私。セドは少し戸惑いながらも、この状況を話し始めた。
「じじ……アランさんにお前のこと頼まれて、寝かせる場所がなかったから、レオナとマリアンヌが座っている椅子をくっつけて、俺が枕代わりだ」
「うん。出来れば、マリアンヌが良かった!!」
身体を起こして叫ぶが、マリアンヌ本人や姿はどこにもなかった。
それに、レオナとアランさんの姿も。
「アランさんは、校長に会いに行った。マリアンヌとレオナは、お前のために飲み物を調達しに、売店へ行っている」
「そう……」
私は体を起こそうとしたが、首がピリッと痛み、顔を顰めた。
「まだ、大人しくしておけ。一応、アランさんが応急処置をしてくれたが、しばらく痕は消えないだろうな」
首元を触ると、包帯が巻いてあるのを気付いた。
「もしかして、アランさんから聞いた?」
私はセドにさっきの出来事を聞いたのかと尋ねると、真顔で『おう』と返されてしまった。
思わず、右手で顔を覆った。
「まいったなぁ~」
「次、隠そうとしたらゆるさん。というか、もう許す気ないからな?」
「あら、ルナちゃんがお目覚めじゃないの!!」
セドが半ギレしている所に、レオナとマリアンヌが人数分の飲み物を抱え、控室の中に入ってきた。
「レオナ!! マリアンヌー!!」
マリアンヌに飛びつくと、嬉しそうに私の頭を撫でてくれた。
「ルナちゃん大丈夫~?」
「うん! 心配かけてごめんね」
「ルナちゃんが、無事ならそれでいいの~!」
「そうよ! でも、あまり無理しちゃだめよ?」
レオナはそう言って、私に水を渡してくれた。
「はーい。それで、ユノ先輩はあの後どうなったの?」
「心配ない。医務室で寝かせている」
いつの間にか、扉に寄りかかっているアノールが教えてくれた。
いや、いつからいたねん。気づかんかった。
「アノール先輩」
「セド、こいつ見ていてくれて感謝する。ユノは精神的に不安定なんだ。普段は良い奴なんだが、姉であるエレノアが関わると、気が変になってしまうことがあるから、気をつけろって言うのを伝え忘れていた。でもまぁ、いい経験になっただろ?」
アノールの言う通り、例え、部員同士や先輩後輩の関係であろうとも、深く関わろうとすれば、痛い目に遭うことは確かだ。
生前では、これを恐れていたからね。
でも今は、生前のよりも人と関わることに、ためらいもなくなった。
それに、誰かのために生きるという意味も見つけた。
だから私は……。
「良い経験になったけど、私はユノ先輩のことをもっと知りたい。だから、これからも関わるよ。例え、首を締め付けられようが、心臓に穴をあけられようともね」
私はアノールに伝えると、ため息をつかれた。
「はぁー。良いが、無理はするなよ? 危険を感じたら、すぐに魔法で対抗しろ。自分の身は、自分で守ってくれ。約束できるな?」
「うん」
「それなら良い。それで、次の試合はセドだったな?」
アノールに名前を呼ばれたセドは、私に掛けていたローブを椅子から取った。
「はい」
「レオンに勝て。そんでもって、レオンとの勝負を楽しんで来い。1度手合わせをしているお前なら分かるが、魔道具を使用してくる戦法だ。弱点を突かれたくなければ、一瞬で勝敗をつけれる魔法を使え。俺からのアドバイスだ」
セドの頭に手を置いた後、控室から出て行ってしまったアノール。
そんなアノールの背中を見つめ、セドはどこか嬉しそうに口元を緩ませた。
「あらま、セドちゃんが笑ってるわ!」
「ホントだぁ~」
レオナと2人で、にやつきながら笑っていると、セドに頬を抓られた。
しかも、私だけ。
「うるせえよ。まぁいい。それよりも、ルナ」
セドはファリス寮の白いローブの裾を腕に通しながら、こっちを見てきた。
「なに?」
「ケイン先輩に勝ってくる」
「うん! 必ずね!」
「あぁ」
ローブを身に纏ったセドは、私の頭に手を置き、控室から去って行った。
セドの背中を見つめ、試合が始まるであろう、モニターに目線を向けたのであった。