───1年控室
第2回戦を制した、
「ルーカス部長」
「ルナ・マーティン。今度は、貴女とですね」
「嫌です。と言いたい所ですが、受けて立ちますよ! こんにゃろ!」
「どんだけ嫌なんだよ……」
いまだに、レオナにしがみついている私は、猫のようにシャー! と威嚇した。
その様子を見ていたセドは、呆れながらため息をついた。
「楽しみにしています」
ルーカス先輩は微笑み、控室から出て行ってしまった。
一体、何をしに来たのだろうか?
「ルナちゃん! 始まるよ~!」
「う、うん」
マリアンヌに手招きされ、彼女の隣に腰を下ろし、モニター画面に目を向けた。
*
『これより、第3回戦を行います。候補者は、前へ』
ルイさんを挟むように、右からエレノア先輩。
左からは、ユノ先輩が会場に姿を現した。
ユノ先輩は身体を小さく震わせ、杖を両手で胸の前に握りしめた。
『では、始めッ!』
ルイさんの合図で結界が張られ、エレノア先輩が先制攻撃を仕掛けた。
『
魔法を詠唱するエレノア先輩。
すると、一瞬でモニター越しでも見えないくらいに、会場が霧に包まれた。
『
小さい声が聞こえたと同時に、霧が晴れていった。
だが、そこにはエレノア先輩の姿がなかった。
『姉様…。そこですかっ!
左横に向かって、拘束魔法を唱えたユノ先輩。
エレノア先輩が冷風に捕らわれる姿が、モニターに映った。
『姉様の狙いは分かっています……。どうかこの試合、私に勝たせて』
『ユノ。無理なお願いですよ、
拘束されていたはずのエレノア先輩が突然、跡形もなく消え去り、ユノ先輩の背後に、日本刀らしきものを持つ、エレノア先輩が突如現れ、ユノ先輩の背中を斬った。
だが、背中を切ったのにも関わらず、血は出ずに、ローブが斬られただけだった。
『ねえ……さま』
『ユノもまだまだですね。本来なら風は、霧に強いはずですが? それに、こんな
『うるさいうるさいうるさいうるさい!!
後ろにいるエレノア先輩に向け、
誰もが、これはユノ先輩の勝利だと確信していた。
だが、私や
そう、
幻影と入れ違った先輩は、魔法を放ったユノ先輩を抑え込み、霧の杖をユノ先輩のこめかみに突き付けた。
『そこまで! 勝者、エレノア・カトレア!』
軍配が、エレノア先輩に上がった。
エレノア先輩はユノ先輩を解放し、手を差し伸べたが、その手を取らず、ユノ先輩はゆっくりと下を向いたまま、会場を去って行った。
*
「ユノ先輩……。先輩の所、行ってくる!」
「おい、ルナ!!」
私はユノ先輩が心配になり、2年の控室に向かった。
*
その途中の廊下で、ユノ先輩と遭遇した。
「ユノ先輩!!」
「ルナ、ちゃん?」
先輩の顔はとても悪く、唇も少し白っぽくなっていた。
「大丈夫ですか!? 顔色悪いですけど……」
「だいじょうぶ。しんぱいしないで。わたしのことなんて。わたしさえいなければ。わたしさえいなければ」
「ユノ先輩?」
私は、ユノ先輩の体温を測ろうとおでこを触ろうとした瞬間、私の手を叩き落とした。
そして、耳を両手で抑え、何かに怯えるように肩を震わせた。
「わたしさえいなければ。わたしさえいなければ。わたしさえいなければ……。なんでねえさまより、よわいの? ねえさまは。ねえさまは!! ねえさまは、どうしてわたしよりもつよくて、みんなにあいされるの? ねぇってば!!」
すると、突然。ユノ先輩は、私の首を両手で強く締め始めた。
ギチギチと骨が軋む音が廊下に響き渡る。
苦しい……。
「あなたもよ、るなちゃん。あなたもなんでみんなにあいされているの? てんせいしゃだから? わたしもてんせいしゃだったらあいされていたの? かぞくからもねえさまからも。まほうにも。おねがいだからわたしとかわって? しんでよ。おねがいだからしんでよッ!!」
首を締め上げる力が、強くなっていくたび、私の意識が消えそうになる。
「ゆ、のせんぱ、い」
「アハハハハハハ!!」
狂気じみた笑い声が、静かな廊下に響き渡る。
もう駄目だと思った私は、自然と左手首に結んであるミサンガに触れた。
次の瞬間。体が軽くなり、息がしやすくなり、自然と後ろに倒れそうになった所を、誰かに受け止められた気がする。
受け止められた時、一瞬だけおひさまの匂いが、私の嗅覚を刺激した。
「君はお眠り」
聞き覚えのある優しい声。
目を開くと、目の前にはアランさんがいた。
そして、私の首を絞めていたユノ先輩は、アノールに抱きかかえられていた。
「アラ…ンさん? それに、アノールまで……」
「説教は後だ。アラン様、あとはこいつをお願い致します」
「うん」
アノールはそう言うと、転移魔法で何処かへ行ってしまった。
私とアランさんだけとなった廊下で、力強くアランさんに抱きしめられた。
微かに、アランさんの身体が震えている気もする。
「はぁ……。良かった。間に合って。君は、本当に何でもかんでも、巻き込まれるね」
「うっ。返す言葉もありません」
「そうだね。でも良かった。生きていてくれて。君を失ったら、僕はこの世界を恨みそうだ。それに、呪いを解いてくれないし」
「あはは……。すみませんね」
苦笑いをすると、アランさんに頭を撫でられた。
「もう、このまま閉じ込めようか?」
「監禁ルート完全拒否しまーす!」
「フフッ。嘘だよ。半分はね?」
アランさんは、ドス黒い笑みを浮かべた。
激重感情向けられる、私の身にもなってくれよと思っていると、アランさんが突然、私にあることを聞いてきた。
「ねぇ、ルナ。この状態で聞くのもなんだけどさ」
「ん?」
「僕のこと、好きになってくれた?」
アランさんは愛おしそうに、私を見つめた。
だが、私はありのまま素直に、自分の気持ちを伝えた。
「アランさん。私ね、良く分からないの。恋愛の仕方も分からないし。でも、少なくとも私は……」
「うん。もう、その先を言わないで。立ち直れなくなる」
「分かりました。でも、これだけ……アランさんのこと、師として好きです」
「それだけで、うれしいよ。ありがとう、ルナ。これからもよろしく頼むね」
私の気持ちをアランさんに伝わり、これからも師弟としての関係を続けることとなった。
だんだん眠くなってきた私は再び目を閉じ、次に目を覚ますと、控室のソファーに何故か、セドの膝の上に頭を乗せていた。
そこには、アランさんの姿は見えなかったのであった。