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39話 第3回戦【ユノ・カトレアVSエレノア・カトレア】

───1年控室


 第2回戦を制した、騎士ナイト部長のルーカス・グレイナが、1年の控室に訪れてきた。


「ルーカス部長」


「ルナ・マーティン。今度は、貴女とですね」


「嫌です。と言いたい所ですが、受けて立ちますよ! こんにゃろ!」


「どんだけ嫌なんだよ……」


 いまだに、レオナにしがみついている私は、猫のようにシャー! と威嚇した。


 その様子を見ていたセドは、呆れながらため息をついた。


「楽しみにしています」


 ルーカス先輩は微笑み、控室から出て行ってしまった。


 一体、何をしに来たのだろうか?


「ルナちゃん! 始まるよ~!」


「う、うん」


 マリアンヌに手招きされ、彼女の隣に腰を下ろし、モニター画面に目を向けた。



『これより、第3回戦を行います。候補者は、前へ』


 ルイさんを挟むように、右からエレノア先輩。


 左からは、ユノ先輩が会場に姿を現した。


 ユノ先輩は身体を小さく震わせ、杖を両手で胸の前に握りしめた。


『では、始めッ!』


 ルイさんの合図で結界が張られ、エレノア先輩が先制攻撃を仕掛けた。


迷える霧ロストフォグ


 魔法を詠唱するエレノア先輩。


 すると、一瞬でモニター越しでも見えないくらいに、会場が霧に包まれた。


突風ガストオブウィンド


 小さい声が聞こえたと同時に、霧が晴れていった。


 だが、そこにはエレノア先輩の姿がなかった。


『姉様…。そこですかっ! 冷風クールウィンド


 左横に向かって、拘束魔法を唱えたユノ先輩。


 エレノア先輩が冷風に捕らわれる姿が、モニターに映った。


『姉様の狙いは分かっています……。どうかこの試合、私に勝たせて』


『ユノ。無理なお願いですよ、霧雨きりさめ


 拘束されていたはずのエレノア先輩が突然、跡形もなく消え去り、ユノ先輩の背後に、日本刀らしきものを持つ、エレノア先輩が突如現れ、ユノ先輩の背中を斬った。


 だが、背中を切ったのにも関わらず、血は出ずに、ローブが斬られただけだった。


『ねえ……さま』


『ユノもまだまだですね。本来なら風は、霧に強いはずですが? それに、こんなに惑わされるなんて』


『うるさいうるさいうるさいうるさい!! 爆風シェルファイアッ!!』


 後ろにいるエレノア先輩に向け、爆風シェルファイアを撃ち、身体の真中に穴が開いたエレノア先輩。


 誰もが、これはユノ先輩の勝利だと確信していた。


 だが、私や騎士ナイト部の部員や、ベテラン教師たちは違った。


 そう、爆風シェルファイアを撃たれる瞬間に、もう一体の先輩……。


 幻影と入れ違った先輩は、魔法を放ったユノ先輩を抑え込み、霧の杖をユノ先輩のこめかみに突き付けた。


『そこまで! 勝者、エレノア・カトレア!』


 軍配が、エレノア先輩に上がった。


 エレノア先輩はユノ先輩を解放し、手を差し伸べたが、その手を取らず、ユノ先輩はゆっくりと下を向いたまま、会場を去って行った。



「ユノ先輩……。先輩の所、行ってくる!」


「おい、ルナ!!」


 私はユノ先輩が心配になり、2年の控室に向かった。



 その途中の廊下で、ユノ先輩と遭遇した。


「ユノ先輩!!」


「ルナ、ちゃん?」


 先輩の顔はとても悪く、唇も少し白っぽくなっていた。


「大丈夫ですか!? 顔色悪いですけど……」


「だいじょうぶ。しんぱいしないで。わたしのことなんて。わたしさえいなければ。わたしさえいなければ」


「ユノ先輩?」


 私は、ユノ先輩の体温を測ろうとおでこを触ろうとした瞬間、私の手を叩き落とした。


 そして、耳を両手で抑え、何かに怯えるように肩を震わせた。


「わたしさえいなければ。わたしさえいなければ。わたしさえいなければ……。なんでねえさまより、よわいの? ねえさまは。ねえさまは!! ねえさまは、どうしてわたしよりもつよくて、みんなにあいされるの? ねぇってば!!」


 すると、突然。ユノ先輩は、私の首を両手で強く締め始めた。


 ギチギチと骨が軋む音が廊下に響き渡る。


 苦しい……。


「あなたもよ、るなちゃん。あなたもなんでみんなにあいされているの? てんせいしゃだから? わたしもてんせいしゃだったらあいされていたの? かぞくからもねえさまからも。まほうにも。おねがいだからわたしとかわって? しんでよ。おねがいだからしんでよッ!!」


 首を締め上げる力が、強くなっていくたび、私の意識が消えそうになる。


「ゆ、のせんぱ、い」


「アハハハハハハ!!」


 狂気じみた笑い声が、静かな廊下に響き渡る。


 もう駄目だと思った私は、自然と左手首に結んであるミサンガに触れた。


 次の瞬間。体が軽くなり、息がしやすくなり、自然と後ろに倒れそうになった所を、誰かに受け止められた気がする。


 受け止められた時、一瞬だけおひさまの匂いが、私の嗅覚を刺激した。


「君はお眠り」


 聞き覚えのある優しい声。


 目を開くと、目の前にはアランさんがいた。


 そして、私の首を絞めていたユノ先輩は、アノールに抱きかかえられていた。


「アラ…ンさん? それに、アノールまで……」


「説教は後だ。アラン様、あとはこいつをお願い致します」


「うん」


 アノールはそう言うと、転移魔法で何処かへ行ってしまった。


 私とアランさんだけとなった廊下で、力強くアランさんに抱きしめられた。


 微かに、アランさんの身体が震えている気もする。


「はぁ……。良かった。間に合って。君は、本当に何でもかんでも、巻き込まれるね」


「うっ。返す言葉もありません」


「そうだね。でも良かった。生きていてくれて。君を失ったら、僕はこの世界を恨みそうだ。それに、呪いを解いてくれないし」


「あはは……。すみませんね」


 苦笑いをすると、アランさんに頭を撫でられた。


「もう、このまま閉じ込めようか?」


「監禁ルート完全拒否しまーす!」


「フフッ。嘘だよ。半分はね?」


 アランさんは、ドス黒い笑みを浮かべた。


 激重感情向けられる、私の身にもなってくれよと思っていると、アランさんが突然、私にあることを聞いてきた。


「ねぇ、ルナ。この状態で聞くのもなんだけどさ」


「ん?」


「僕のこと、好きになってくれた?」


 アランさんは愛おしそうに、私を見つめた。


 だが、私はありのまま素直に、自分の気持ちを伝えた。


「アランさん。私ね、良く分からないの。恋愛の仕方も分からないし。でも、少なくとも私は……」


「うん。もう、その先を言わないで。立ち直れなくなる」


「分かりました。でも、これだけ……アランさんのこと、師として好きです」


「それだけで、うれしいよ。ありがとう、ルナ。これからもよろしく頼むね」


 私の気持ちをアランさんに伝わり、これからも師弟としての関係を続けることとなった。


 だんだん眠くなってきた私は再び目を閉じ、次に目を覚ますと、控室のソファーに何故か、セドの膝の上に頭を乗せていた。


 そこには、アランさんの姿は見えなかったのであった。

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