───1週間後
シュネーと契約を果たし、あっという間に1週間が経った。
ルイさんから、『ミステリウム魔法学園』の見学会があると誘われ、誘いに乗った私は、アノールと共にミステリウム魔法学園に来ている。
アノールは、今年3年生らしいので……。
「アノールパイセン! お願いしゃす!」
「やかましい」
頭を下げると、その頭をぺしっと叩かれてしまった。
「痛い」
「目立つからやめろ」
「えぇ~」
アノールをジト目で見ると『なんだ』と睨まれた。
「目つき悪いね」
「……知らん」
アノールはそう言うと、そっぽを向いてしまった。
怒ったかしら? と思っていると、背後から元気が良い声が聞こえた。
「おーい! アノールー!」
後ろを振り向くと、赤髪の癖毛が特徴の青年が、手を振って走ってきた。
青年を見たアノールは、ため息をついた。
「はぁ…。コケるぞ」
「大丈夫だ!」
「そう言って、コケるだろうが毎回」
「そうだったわ!」
青年はアノールに注意され、走るのをやめ、こっちに歩きながら向かってきた。
アノールの友達っぽい感じがするなと思いつつ、青年に頭を軽く下げた。
「おっ!? なんだ~? アノールに彼女いたのか! 教えてくれよ~」
「……。彼女じゃねぇ。
「違います! ルナと申します! 今年の編入試験を受けるために、見学をしに来ました! アノールとは兄弟でも恋人関係でもありません! 彼の家に居候しているだけの関係です!」
あっぶな!?
こいつ、変なこと言いだすのさ!
居候は本当だし。でも、これだけだと、なんで居候? ってなりそう!
どうすればぁぁ!!
脳内パニックを起こしている中、青年は何かを察したのか『そっか!』と笑顔で頷いただけだった。
「違うのか?」
「ちゃうわ!!」
素でツッコミを入れると、青年は満面の笑みでこちらを見つめてくる。
ま、眩しい!
「な、なんですか?」
「仲いいなーって! おっと、僕の名前を教えていなかったな。僕はライ! ライ・ブレス! よろしくな!」
ライ・ブレス先輩は自己紹介を終えると、手を差し伸べてきたため、その手を取り、握手を交わした。
アノールよりも体温が高い気がすると思っていると、ブレス先輩は私の手を握ると『冷たい』と呟いた。
氷魔法を得意としているのが原因とかってあるのかしら? と内心思っていると、アノールが『だろうな』と言った。
「こいつ、氷魔法の使い手だ」
アノールが私の得意魔法を勝手に答えると、ブレス先輩は顔を近づけ、私の顔をまじまじと、興味津々に見てきた。
アランさんとは又もや違う、イケメン顔や!?
若干、モブ顔だけど、モブの上級クラス的な感じだ!
先輩に見つめられていると自然に、体温がだんだん高くなっていく感じがする。
きっと顔、やばいことになってそう……。
「な、なんでしょうか?」
「氷魔法って稀少なんだ! だから、こうして出会えてうれしいよ!」
「あ、アハハハ……。そうですか~」
やばっ。イケメンに微笑まれたんだけど!
悔いなしと心の奥底でイケメンの微笑みを保存していると、アノールが私とブレス先輩の間に無言で入ってきた。
それを見たブレス先輩は、ニヤッと笑った。
「ライ」
「ハイハイ、分かってる分かってる~。それで、ルナちゃんは見学しに来たって言ったね?」
「は、はい」
「んじゃ、まず女子寮の部屋を見に行こうか!」
そっか、
ん? でも、男子生徒が女子寮に入るのってなんか違和感が……。
「あんたが、思っていることは何もない。女子寮に行く前に、俺たちのクラスに向かう。そこに、女子寮の監督生がいる。そいつに、女子寮の案内をしてもらうから安心しろ」
「エスパーなの? アノールって」
そう言うと、アノールは小さい声で『馬鹿なことを言うな』と、あしらわれてしまった。
なんだかんだ、面倒見がいいお兄さん的ポジにいるなと改めて思った。
*
───3年教室
そして、3階にあるアノールたちのクラスに着くと、1人の女子生徒が何やら、資料みたいなものと睨めっこをしていた。
教室に入るとブレス先輩が大声で、女子生徒の名前を叫んだ。
「おーい! エレノア!」
「静かにしてください。今、生徒会に資料をまとめているところなんです」
エレノアと呼ばれた女子生徒は、こちらに首だけを向けた。
紫色の細いフレームの眼鏡。
薄紫色の髪色をポニーテールに結んでいるのが、特徴的な女子生徒。
しかも、美人!
こんな美人に出会ったことがない!
こりゃー。イケメンと美人さんに対する免疫力をつけないと、多分この学園では過ごせない気がする。
本能的に! いくらアランさんやルイさん、アノールに慣れていようとも、初対面は無理や。
話しかけられたら失神モノや! どう生活しろというのかね!?
今すぐにでも、この感情を表に出したい! 出したら社会的に死ぬけどさ!
「ちょっと、こいつに女子寮の案内をしてやって欲しいんだが?」
アノールはエレノア先輩? に私の顔に指をさしながら言った。
おい、人に対して指をさすんじゃないわよ。
学校で習わなかった? と言いたいけど、今は我慢だ。
「あら、今年の編入試験を受ける子かしら? 初めまして。私はエレノア・カトレアと言います。貴女の名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
エレノア先輩は椅子から立ち上がり、私に自己紹介をしてきた。
背も高い! 美人! 良い匂いっ! 最高すぎん?
そんなことを思いながら、エレノア先輩に頭を下げた。
「初めまして、ルナと申します。以後お見知りおきを」
「礼儀正しいですね。ルナさんよろしくお願いします」
私はそのままエレノア先輩に、右手を握られた。
美人と握手できるとは!! この手一生洗わん! そう誓った私だった。
まぁ、それは冗談として(少しは本気だったけど)。
自己紹介を終えた後、私はそのままエレノア先輩に引き取られ、女子寮に向かったのだった。
続く