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1話 転生完了

 寒い。


 異様な寒気に襲われた私は、重い瞼を開き、めちゃくそ怠い身体を無理矢理起こし、辺りを見渡した。


 そこは、氷の結晶で出来た薄暗い洞窟らしき場所だった。


 息を吐くと白くなった。


───そう言えば、私。仕事終わらせて、コンビニに寄って帰ろうとしたときに、トラックが突っ込んできて、そのまま撥ねれて……。


 うん、死んだ。


 それで? ここはどこ? 私は誰? いや、自分の名前は分かるけど。


 私は、氷が反射していることに気づき、もしかしたら、自分の姿を確認できるのではないかと思い、何の覚悟かは知らないが、覚悟を決め、自分の姿が反射する氷の柱に顔を覗かせると、映ったのは薄紫色のポニーテールに、水色のローブを身に纏った愛らしい少女の姿だった。


 ん~? 


 いや誰だよっ!


 若々しい少女は!? これって本当に私なの?


 眼鏡っ子の私だった時とは、大違いじゃない!


 しかも、裸眼で物を見るっていいわね! クリアに見える。


 1人で、自分の姿を見て興奮していると、コツコツと足音が聞こえた。


 音がする方に振り向くと、そこには白銀の男性がたたずんでいた。


「これも、またなのか」


 男性は私を見るなり、透き通る声でそう呟いた。


 


 というかイケメンやな!


 スタイルもいいし、顔面のパーツも整ってやがる……。


 声かけづらいけど、仕方がない。


 私は渋々、男性に声をかけた。


「あの~、どなたでしょうか?」


 声をかけると、男性は突然、私に抱き着いてきた。


「やっと会えたね!」


 やっと会えたねって、どういう意味?


 というか力つよ! 細い割には筋力はあるのね……。


 いや、そう思っている状況じゃなーい!


「離してください! いきなりなんなんですか!?」


 私は、何とか白銀の男性を突き飛ばした。


 よろけた白銀の男性は、すぐに体制を整え、私に謝罪の言葉をかけた。


「おっと……。すまなかったね。君をずっと見守ってきた者さ! と言っても意味わからないよね? まず自己紹介をしよう。僕の名はアラン。『』と呼ばれているよ」


 アランという男性は、私から離れ、氷でできた床に腰を下ろした。


 え、冷たくないの? と思ったがそれよりも先に気になっていたことが口に出ていた。


「私を見守っていた? それに破滅の魔術師って?」


「順番に話すよ。君は生前この世界とは違う世界で、生活していた。

 だけど、トラックに轢かれて、この世界に転生した。君の姿の持ち主が、次の転生者の依り代として、身を捧げたんだ。

 次に、僕が『破滅の魔術師』と呼ばれている理由は、あるモノに呪いをかけられてね。そのせいで、僕が死んだら、世界が破滅してしまうことになったさ。呪いを解く方法は、だから、君を見守っていた。姿の持ち主も、身を捧げたんだ。契約をしたと同じものさ」


「だから、私を見守っていたと言うのは……」


 アランさんが言う意味がわかると、アランさんは笑顔で『正解だよ』と言った。


「僕がこの世界から消える日まで、その呪いは解けない」


 呪いが解けない。


 だから、この姿の持ち主は、アランさんと契約をし、自らこの人に身を捧げ、次の転生者の依り代になった。


「でも、前の転生者も貴方の呪いを解けなかったんですよね?」


「そうだとも。だから。まぁ、人それぞれの考え方もあるのだろうね」


 人それぞれか。


 私もこの人と契約して、アランさんのために依り代にならなければならないなんて、不満すぎる!


 転生したんなら今度こそ、やりたいことやって、自由な異世界転生ライフを送りたい!


 でも、この世界が破滅したら元もこうもない。


 だったら……!


「人それぞれなら、私と契約してください」


「元からそのつもりだけど、それで契約内容はどうするんだい?」


 そりゃ勿論。


「貴方の呪いを解く。それでどう? 世界も貴方も、この姿の持ち主の意思も全て、私が受け入れて見せる!」


「あはははは!! 面白いね! 僕の呪いを解くということは、君の自由を奪うことにもなるよ?」


 アランさんの問いに強く頷いた。


「最初からそのつもりです。この姿の持ち主の意思も、無駄になってしまいますし」


 まぁ、どういった契約内容だが知らないけど。


 呪いが解ければ、何もかもうまくいく。


 それまでの辛抱だと思えばいい。


「そうか。じゃあ、契約成立だ。僕もいい加減呪いを解きたいと思っていたからね。よろしく頼むよ。ルナ」


 ルナ?


 この姿の持ち主の名前かしら?


「ルナっていうのは……?」


「君の新しい名前さ。転生者に新しい名前を名付けるのさ」


 自分の持ち物に、名前を書くのと同じことか。


 なるほどね。


「そうなんですね。これからよろしくお願いします」


「うん、よろしくね」




───アランさんと契約を結んだ私は、新しいこの姿で、アランさんの呪いを解くために。


 そして、私の自由な異世界転生ライフを手に入れるために!


 今、この瞬間『ルナ』という新たな名で転生が完了し、第2の自由を目指す人生が、始まったのであった。

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