寒い。
異様な寒気に襲われた私は、重い瞼を開き、めちゃくそ怠い身体を無理矢理起こし、辺りを見渡した。
そこは、氷の結晶で出来た薄暗い洞窟らしき場所だった。
息を吐くと白くなった。
───そう言えば、私。仕事終わらせて、コンビニに寄って帰ろうとしたときに、トラックが突っ込んできて、そのまま撥ねれて……。
うん、死んだ。
それで? ここはどこ? 私は誰? いや、自分の名前は分かるけど。
私は、氷が反射していることに気づき、もしかしたら、自分の姿を確認できるのではないかと思い、何の覚悟かは知らないが、覚悟を決め、自分の姿が反射する氷の柱に顔を覗かせると、映ったのは薄紫色のポニーテールに、水色のローブを身に纏った愛らしい少女の姿だった。
ん~?
いや誰だよっ!
若々しい少女は!? これって本当に私なの?
眼鏡っ子の私だった時とは、大違いじゃない!
しかも、裸眼で物を見るっていいわね! クリアに見える。
1人で、自分の姿を見て興奮していると、コツコツと足音が聞こえた。
音がする方に振り向くと、そこには白銀の男性が
「これも、また
男性は私を見るなり、透き通る声でそう呟いた。
というかイケメンやな!
スタイルもいいし、顔面のパーツも整ってやがる……。
声かけづらいけど、仕方がない。
私は渋々、男性に声をかけた。
「あの~、どなたでしょうか?」
声をかけると、男性は突然、私に抱き着いてきた。
「やっと会えたね!」
やっと会えたねって、どういう意味?
というか力つよ! 細い割には筋力はあるのね……。
いや、そう思っている状況じゃなーい!
「離してください! いきなりなんなんですか!?」
私は、何とか白銀の男性を突き飛ばした。
よろけた白銀の男性は、すぐに体制を整え、私に謝罪の言葉をかけた。
「おっと……。すまなかったね。君をずっと見守ってきた者さ! と言っても意味わからないよね? まず自己紹介をしよう。僕の名はアラン。『
アランという男性は、私から離れ、氷でできた床に腰を下ろした。
え、冷たくないの? と思ったがそれよりも先に気になっていたことが口に出ていた。
「私を見守っていた? それに破滅の魔術師って?」
「順番に話すよ。君は生前この世界とは違う世界で、生活していた。
だけど、トラックに轢かれて、この世界に転生した。君の姿の持ち主が、次の転生者の依り代として、身を捧げたんだ。
次に、僕が『破滅の魔術師』と呼ばれている理由は、あるモノに呪いをかけられてね。そのせいで、僕が死んだら、世界が破滅してしまうことになったさ。呪いを解く方法は、
「だから、私を見守っていたと言うのは……」
アランさんが言う意味がわかると、アランさんは笑顔で『正解だよ』と言った。
「僕がこの世界から消える日まで、その呪いは解けない」
呪いが解けない。
だから、この姿の持ち主は、アランさんと契約をし、自らこの人に身を捧げ、次の転生者の依り代になった。
「でも、前の転生者も貴方の呪いを解けなかったんですよね?」
「そうだとも。
人それぞれか。
私もこの人と契約して、アランさんのために依り代にならなければならないなんて、不満すぎる!
転生したんなら今度こそ、やりたいことやって、自由な異世界転生ライフを送りたい!
でも、この世界が破滅したら元もこうもない。
だったら……!
「人それぞれなら、私と契約してください」
「元からそのつもりだけど、それで契約内容はどうするんだい?」
そりゃ勿論。
「貴方の呪いを解く。それでどう? 世界も貴方も、この姿の持ち主の意思も全て、私が受け入れて見せる!」
「あはははは!! 面白いね! 僕の呪いを解くということは、君の自由を奪うことにもなるよ?」
アランさんの問いに強く頷いた。
「最初からそのつもりです。この姿の持ち主の意思も、無駄になってしまいますし」
まぁ、どういった契約内容だが知らないけど。
呪いが解ければ、何もかもうまくいく。
それまでの辛抱だと思えばいい。
「そうか。じゃあ、契約成立だ。僕もいい加減呪いを解きたいと思っていたからね。よろしく頼むよ。ルナ」
ルナ?
この姿の持ち主の名前かしら?
「ルナっていうのは……?」
「君の新しい名前さ。転生者に新しい名前を名付けるのさ」
自分の持ち物に、名前を書くのと同じことか。
なるほどね。
「そうなんですね。これからよろしくお願いします」
「うん、よろしくね」
───アランさんと契約を結んだ私は、新しいこの姿で、アランさんの呪いを解くために。
そして、私の自由な異世界転生ライフを手に入れるために!
今、この瞬間『ルナ』という新たな名で転生が完了し、第2の自由を目指す人生が、始まったのであった。