「この子供も自分を売ったのだろうか?」
僕は奴隷市場にいた少年の方に目を向けながら、
彼は少し考えて、答えてくれた。
「そんな子供なら親に売られたかな。
後は
そういや、最近は人
とんでもない話だ。子供を売ったり、
しかし、こういうことも含めて乱世なのだろう。何とか助けることができればいいんだけど。
「そうだよな。子供が自分の意思で奴隷になろうとなんてしないよな。
しかし、そんな酷いことが平気で行われているなんて⋯⋯。
そう尋ねたが、
「おいおい、話を聞いてたか?
コイツは子供だから、もうちょっと値段は安くなるだろうが、それでもポンと出せる額じゃねぇよ」
「そりゃそうだよな⋯⋯。
すまない、今はまだ僕は無力なんだ。せめて、良い主人に買われてくれ」
そう言って、僕は柵の中の子に謝った。その奴隷の子は一言も発さず、ただ笑顔で手を振るだけで返した。その仕草に胸を痛めたが、感情をグッと
僕が我慢できずにその場から離れようとすると、それを感じとったのか、
「さて、いつまでも
そろそろ
確かにここで何時までも見ててもできることがない。今はただ、彼ら彼女らが少しでも優しい主人に買われることを祈るしかできない。
歴史通りに行くならば、
「そうなっても、今ここにいる人たちを救うことはできない⋯⋯。
いや、やめよう。できないことをこれ以上考えてもどうにもならない」
僕は後ろ髪を引かれる思いで、奴隷市場を後にした。
そこから市場入り口までの帰り道、重苦しい空気が流れた。いや、正確には僕一人が重苦しい空気を発していた。三人は雑談をしながら来た道を戻っていたが、僕は話を振られても、「ああ」とか「うん」とか簡単な返事しかできなかった。ただ、前の三人を追いながら、
「おい、あいつなにしてやがるんだ?」
何事かと思い
指差す先は市場の入り口。そこには市場を利用する客の馬が何頭も止められていた。
彼が奴隷であることを除けば、少年がうろついているだけのこと。何処にでもある光景だ。
だが、よくよく目を凝らすと、その少年は止めていた
「まさか、馬泥棒か!」
僕がそう呟くとほぼ同時に、
「待ちやがれ!!!」
だが、間一髪、間に合わなかった。
既に
「野郎、待て!」
走り去る馬泥棒の少年を追いかけて、
「待て、
馬相手に走って追いかけるつもりか!
ここは
そう言い、
「こんなことなら門兵にいくらか握らせておくべきだった。
すまんが、
「任せてくれ!」
僕は胸を叩き、自信満々に答えた。
「頼むぞ、
僕はすぐさま、愛馬・
既に少年は彼方の先にいる。彼は南に向かって爆速で駆け抜けていっている。
「この人混みの中を縦横無尽に進んでいる。
あの少年、一体何者なんだ?」
そんな状況でも少年は一度も立ち止まることも無く、通行人の隙間を
僕らが連れてきた四頭の馬はいずれも軍馬だ。他の移動用の馬に比べればどれも
「僕らの馬が狙われるのも分からなくはない。
しかし、あの子は四頭の中から
この
この四頭の中だと
だが、それを見ただけであの子は見抜いた。なかなかの目利きの持ち主だ」
一体、あの少年は何者なのか。興味が尽きない相手だ。馬の目利きも乗馬技術も一級レベル。あんな少年がこれだけの水準のものを持っているなんて。
しかし、そうしている間にも少年は見えないほど遠くへと走り去ってしまっていた。
「あの少年は街の地図が頭に入っているんだろう。
対して、僕はまだ
だが、幸いにも
そして、騎乗のまま市場に入れば市吏に捕まる。高級住宅街に行っても目をつけられる。
ならば、あの子が向かう先は一般の住宅街!」
僕はあの子の行き先にアタリをつけて馬を走らせた!
それらを潰していけば、少年が進む方向はある程度絞ることができる。
僕は
しかし、よくよく目を凝らせば、道の先に僕らとは違う方向に驚いている人物を見つける事ができる。
「あそこだ!」
僕はその方向を目指して住宅街を突き抜けた。抜けた先のちょうど目の前に、先ほどの少年が
「当たった!
さあ、僕らの馬を返せ!」
先ほどまではるか後方にいたはずの僕が、すぐ目の前に現れて、馬泥棒の少年は驚いた様子であった。
だが、捕まるまいとその馬泥棒の少年も必死に馬を走らせて逃げようとする。
少年は
だが、少年はまるで落ちる気配がない。それどころか体の身軽さを利用して、馬上で体を左右に大きく揺らし、巧みに体重を移動させて馬をさらに加速させていく。
「なんて子供だ!
ジョッキーにしたいぐらいの乗馬技術だ!」
しかし、それはあくまであの四頭の中での話だ。
誰でも彼でもがすぐに乗りこなせるような馬ではない。
「それをあんなに乗りこなせるなんて⋯⋯。
ただの馬泥棒にしておくのは惜しい才能だ」
先ほどからあの子の乗馬技術は傑出していると思っていたが、これほどまで乗りこなせるとは思わなかった。
「だが、今はあの子を捕らえることに専念しなければ。
相手が大人顔負けの馬乗りとはいえ、こちらはプロのジョッキーだ。負けるわけにはいかない!」
僕は
《続き》