僕の目の前に現れた一頭の馬。
これはただの馬ではない。
全高は僕の愛馬・
体毛は
馬体側面には
その
しかし、僕はそれだけで満足できず、
そして、
「『馬は頭が王なり、方形なるが良い。目は
この馬は頭は真っ直ぐ四角い形をしている。目は大きく光り輝き、背骨は長く、筋肉質だ。胸は細く張りがあり、四肢は長く強靭だ。
うん、ことごとく条件に適っている。これは天下の名馬だ!
これこそ
恐らく、未来の競馬で使用されるサラブレッドの源流となったアラブ種、もしくはその近似種なのだろう。
つまり、この世界において最もサラブレッドに近い馬。それが
「
僕はまるで推しのアイドルにでも出会えたかのような感動に打ち震え、その場に立ち尽くしていた。
「お、お客さん、将来の
どうだい、うちの馬は?」
そう言って、ここの店主だろうか、商人にしてはやたら大柄な男性が姿を現した。
身長は
浅黒く日焼けした顔、太く黒々とした眉、豊かな
相手はにこやかに応対してくれているが、こういかつい人が出てくると、ついつい
ちなみに彼の言う「
「あまりにも見事な馬で、つい見入ってしまいました。
これは
僕が尋ねると、そのいかつい店主は豪快に笑いながら答えてくれた。
「ハッハッハ、そうだ。
コイツは生まれこそ
天下の
いかつい店主は自信満々にそう答えた。
「確かにこれは名馬だ。
しかし、背の張りを見るに、歳はかなり若そうだ」
「ほお、歯を見ずに年齢がわかるか。
コイツの歳はまだ二歳、成人までは少し時間があるな」
馬は歯を見れば年齢がわかる。しかし、馬相手に歯は簡単に見せてもらえるものではない。そんな時は背の
なお、馬は四歳で大人になる。二歳と言えばまだ少年だ。
だが、競馬の世界では一歳で訓練を行い、早ければ二歳でレースにデビューする。競馬的にいえば適齢期か。
いや、この時代はまだ数え年のはずだ。つまり、未来で言うところのまだ一歳か。ならば、これから訓練しなければいけない。
これだけの名馬を自分で訓練できるのも面白い。一歳で体高が百五十センチもあるなら、成馬になれば百六十センチも夢ではない。
これは育て甲斐がある。是非とも欲しい。
「店主、この馬の⋯⋯」
僕が値段を尋ねようとした時、後ろから
「おい、
「すまない。馬が見えたもので、つい」
確かに急に飛び出した僕に落ち度がある。僕は
すると、
「お前、馬商人なのか?
馬商人の体格には見えねーな」
そう言い、彼は店主の体つきをジロジロと見回した。
「おい、
失礼だぞ!」
さすがの
「でもよ、兄貴。
コイツの体つきは只者じゃねーぞ」
この店主、馬商人にしては随分、体がいかつい。このまま馬に乗せて、矛の一つでも持たせれば、戦場で大活躍しそうだ。同じ馬商人でも、
しかし、店主はそれに対して、困った顔をしながらも、豪快に笑って答えた。
「お客さん、勘弁してください。私はただの馬商人ですよ。
ただ、私は西の彼方、
私の故郷では
僕らがこの前戦った
「まあ、お前だって
「変に突っかかってすまねぇ。
貴方があまりにも歴戦の戦士のような貫禄を漂わせていたからつい気になっちまった」
頭を下げる
「別に気にしちゃいないさ。
しかし、歴戦の戦士なんてやめてくれよ。私はまだ二十二歳だ」
なんだ、この人まだ二十二か⋯⋯二十二!
僕は店主の言葉に吹き出しそうになったのを、必死に
この人、まだ二十二歳なのか。彫りの深い顔立ちだから老けて見えるのかな。三十二と言われてもまだ少し老けているように感じてしまう。
「ほお、二十二か。
それなら私と同い年だな」
そう言い出したのは、これまた二十二歳には見えない立派な
そうだった。この人も二十二歳だった。僕と一つだけ上なだけなのに、二人とも貫禄は十年分くらい上だ。一体、わずか一年の差にどれほどの苦労が刻まれているのか。
「しかし、同い年とは何かの縁。
どうですかな、私と一戦、手合わせを願えないかな?」
この店主は苦笑いも豪快だ。
「ハッハッハ。お客さんまで勘弁してくださいよ。こんな馬商人とやったって勝負は見えてますよ。
それより、お客さん方、
どうせなら、
まあ、相手は中国史に名を轟かす
それにしても、
やはり、同じく参戦していた
「
今の
この反乱のために
治安は著しく悪くなったが、今は徐々に回復してきている。
今も兄貴⋯⋯
だけど、辺境を守る
そして、あの乱では、一人の女性のことを思い出す。
「ああ、
先日、市場に首が
店主が突然、そう答えた。
寝耳に水のこの話に、僕らは一様に驚いた。
僕が転生して最初に対面した敵・
《続く》