僕は
しかし、余程の理由がないと
僕はさらに周囲に目を向ける。
宿舎のすぐ隣には、僕らの職場である庁舎が並ぶように建っている。
「庁舎の二階からなら宿舎の様子が見えるかもしれない。行ってみよう」
僕は庁舎に入り、二階の宿舎側の窓へと向かった。
僕は二階の窓より宿舎を見下ろした。
「すぐ隣と思っていたけど、改めて見ると庁舎から宿舎までは結構離れているな。これは飛び移るのは無理か。
……いや、二つの建物の間に馬小屋がある!
まずはこの窓より外に出て、一階の屋根を伝って馬小屋まで行く。そして、馬小屋に飛び移って、さらにそこから宿舎の土塀の上に飛び移る……。
うん、多少危険だが、出来なくも無さそうだ!」
宿舎の方も外に対しては警備が厳重だが、庁舎側からは手薄だ。まあ、官舎を通り道にする泥棒もいないだろうから当然とも言える。
「あまり、時間を掛けすぎてもいけない。
よし、行こう!」
僕は
僕は窓より出て、屋根に降りた。
庶民の民家なら屋根は
しかし、ここは官舎。屋根には瓦が使われている。それに周囲には官吏が何人もいる。音には要注意しなければならない。
この時代は役所の中でも土足厳禁だ。おかげで今、裸足なのだが、足音を考えたら正解だったようだ。
僕はペタペタと屋根瓦の上を歩いた。
「思ったより馬小屋との間に距離があるな。二メートル以上はありそうか。
しかし、立ち幅跳びは騎手学校の入試試験にもあるぐらいだ。
オマケに若返っている今の僕の足腰ならこれくらいの距離は余裕のはず」
僕は乗馬で鍛えた足で瓦を踏みしめて跳び上がった。久しぶりの立ち幅跳び。
だが、この世界にきて身体が若返っている。そのこともあって、予想以上の飛距離を跳ぶことが出来た。
しかし、勢い余って「ドン」と音を立てて落下してしまった。
僕は慌てて身を隠し、周囲を見回した。
「どうやら誰の目にも止まらなかったようだ。
よし、行こう」
今度は土塀へと跳び移らなければならない。
「距離は先ほどより若干遠い。それも問題だが……塀の幅は一メートルくらいか。馬小屋より着地する幅がないから気をつけないとな」
僕は少し助走を付けて跳び上がった。しかし、力加減を間違えた。思った以上に跳び上がり、土塀の端に着地し、そのまま足を滑らせてしまった。
「しまった!」
僕はそのまま落下。庭の植木へと落ちていった。
「イタタ……木のおかげで怪我はせずに済んだか……」
身体は若返ったおかげで運動能力は向上した。だけど、未だに慣れておらず、どうにも力加減が上手く出来ない。
思えば宿舎に侵入するなんて無謀なことも、若返った故の暴走だったのかもしれない。
しかし、今さらそんなことを思っても、既に後の祭りだ。
「何事だ!」
顔を見上げると、二十代ほどの少し肉付きの良い男性がこちらを
(この人は……文官特有の黒服。
それに懐にあるのは
間違いない。この人が
その
「
官舎に入るとはなんと堂々とした奴だ!
おい、県兵を呼べ!」
まずい、このままでは泥棒になってしまう。僕は慌てて
「お、お待ち下さい!
塀上から失礼しました!
私は
本日は
僕が口上を述べると、
「
そんな男が私に何の用だ?」
「はい、我らの仲間・
彼の身柄を引き渡すよりも
どうか、彼を連行するのはお止めください」
僕はその場で頭を下げ、
だが、それに対する
「そんなことを言いにわざわざ来たのか。
なかなかの行動力だな。
しかし、君の主の
君の行為は
督郵の目が鋭く光り、彼の問いかけが僕に突き刺さる。
確かに彼の言う通り僕の行為は
「そ、それは……。
しかし、望んでのことではありません。
どうか、彼を連れて行かないで頂けないでしょうか!」
僕は再び頭を深く下げ、必死に
だが、
「わざわざ侵入してきて、何を言い出すかと思えば情に訴えるだけか。
聞くところによれば、君らと
それなのに何故、そこまで彼のために動くのだ?」
「それは……」
僕は一瞬、言葉に詰まった。
今できるのは、この二、三ヶ月で起きた盗賊退治の話だけで、しかも、それは先ほどして終わったばかりであった。
「
今の僕にはどうしてもそれ以上のことを言うことができなかった。
当然、督郵の態度は冷ややかであった。
「特に理由も無しか。激情に駆られての行動といったところか。
しかし、君のような行動力があり、他者へ慈愛の心を持つ人物を私は嫌いでは無いぞ。
どうだ? このまま私の味方につかないか?」
「な、何を当然?」
戸惑う僕に、相手は構わず話を進めていく。
「
君のような激情家の方が信用に値する。
君と
私に協力すれば十分な恩賞を与えるぞ」
どうやら相手は
当然、そんな話に乗ることはできない。
僕は毅然と
「そんな誘いには応じられない」
僕の言葉に、
「頑固な奴だな。
君は
それなら私が働きかけて郡の官吏に推薦してやろう。
君のような行動力のある人物ならば、頑張って務めれば
対して
「冗談じゃない!
そんな地位と引き換えで、
僕の言葉に、
「出世には興味が無いとは、思ったより無欲な男だな」
「別に出世に興味が無いわけじゃない。
でも、郡の属吏程度では裏切られない!」
そりゃ地位が高いことに越したことはない。でも、郡の属吏で一生を終えるつもりなんてない。僕の将来の夢はもっと大きいんだ。
しかし、その言葉は
「郡の属吏程度だと……!
貴様、
しまった。
「貴様、私を侮るなよ!
この一件さえ終われば、私は
だが、僕はその
「ん?
この一件が終われば、
さては、貴方は自身の
なるほど、
僕がそう指摘すると、
「ウッ……!
そ、それがどうした!
お前のような出世に興味のない奴にはわからぬかもしれぬ。
だが、私の出世は世のためだ。私のような男が治めれば、その分、世の中は良くなるんだ。
わずかな
僕の耳には随分、自分勝手な言い分に聞こえる。だが、自分が正しいと信じて疑わない
「貸せ!
お前に正義の
怒った
《続く》