「おう、
お前なら奴らを蹴散らせるはずだ!」
盗賊の頭目は目の前に立ちはだかる
進み出てきたその男の身の丈は他の盗賊より頭一つ高く、全身を筋肉で覆われたような巨漢。
彼は馬より降りると上衣を脱ぎ捨て、その身体に刻まれた無数の傷を相手に見せつけた。
「俺こそは
腕に覚えがあるならかかってこい!」
「このまま県兵を差し向けてもいいのだが、
「兄者、お任せを」
彼の挑発に応じ、
相手の
「我が名は
いいだろう、お相手いたそう」
敵の
「お前、随分、身体がデカいな。
だが、デカいだけの奴なんて俺はいくらも倒してきたぜ。
この
「ドスン」という音とともに
そして、頭を失った彼の身体はその場にゆっくりと崩れ落ちた。
そのあまりの光景に、周りは静まり返った。
そんな中、
「すまんな。
あまりにも悠長に喋るものだからつい殺してしまった。
おや、新品の矛だったのに、私の力に耐えかねて砕けてしまったか。
やむを得んな。後の者たちには腰の剣で相手をすることにしよう」
そう言いながら刃の砕けた矛を捨て、腰に手をかけて前に進み出る
「
頭目、どうしやすか?
あれ、頭目?
……あの野郎、一人で逃げやがった!」
盗賊たちは頭目に助けを求めたが、彼の姿は何処にもない。
盗賊の頭目は
「なんであんな強い奴らがこんな田舎に来てんだよ!」
彼方に逃げる頭目の姿を追って、
「頭目め、部下を置いて逃げやがった。
「ああ、もちろん!」
ここでようやく僕の出番だ。僕は愛馬・
その様子を見た盗賊の手下たちは冷ややかな言葉を浴びせる。
「頭目の馬は
あんなに離れてちゃ、もう追いつけないぞ!」
そんな言葉を、
「そいつはどうかな。
今から追いかけるのはうち一番の……いや、中華最速の男だ!」
僕の股下には先日、
「新しい
これでようやく全力疾走ができるぞ!」
僕は
なるほど、頭目が乗るだけあって、敵の馬はなかなかの
だが、頭目の乗馬はまるでなっちゃいない。振り落とされないようになのだろうが、馬に無理な姿勢でしがみついている。そのために馬がヨロヨロと無駄に左右に揺れ、せっかくの健脚を殺している。
やはり、
「騎手としては落第だが、追いかける相手としてなら最適だ。
さらにスピードを上げれば追いつけるな。
よし、あの乗り方に挑戦してみよう!」
僕は
これは未来の日本で競馬のジョッキーが主流としている乗り方・『モンキー乗り』だ。木の枝に
この乗り方は騎手の体重が前方にかかるため、馬の負担が少なく、よりスピードを出すことが出来る。
だが、モンキー乗りは
「よし、このまま速度を上げていくぞ!
行くぞ、
僕と
サラブレッドに比べて過小評価されがちな日本在来馬だが、本気を出せばその速度は時速四十キロにも達するという。
しかし、
「僕は
目標は時速四十キロだ!」
よし、四十キロだ!
まるで僕と
「なんだコイツは!
身体が羽ででも出来てるのか!」
敵の頭目は突如姿を現した僕らを見て、悪態を叫びながらドタドタと馬を走らせる。
「行け、
最速の男を見せてやれ!」
「おっと、追い抜いちゃダメだった」
僕らはすぐに反転し、相手の真横を駆け抜けて、敵の頭目を
「なんだよ、この速え馬わよ!」
敵の頭目は僕らの速さに
僕らはこの速さを活かして、さらに何度も横を通過して、彼らを
「おい、離れやがれ!」
敵の頭目は剣を抜き、振り回して僕らを追い払おうとしている。
だが、片手を手綱から離したのはかえって好都合だ。
「
行くぞ!」
僕らは振り回される剣の間をくぐり抜け、隙をついて敵の馬体に体当たりをくらわせた。
「ウ、ウワーッ!」
敵はバランスを失い、そのまま勢いよく落馬していった。男の身体は
男の身体がようやく止まり、頭をゆっくりと持ち上げた。だが、その目の前には既に僕らが剣を抜き待ち構えていた。
「さあ、観念するんだ!」
僕は頭目を捕縛し、彼が乗っていた馬を
「よし、頭目を捕らえたか」
「おい、
頭目が始めたのはなんと買収であった。
だが、それを
「俺をその辺の
しかし、断られても頭目もすぐには諦めない。彼はさらに言葉を続けた。
「わかった、八割やろう。
いや、全部やる! だから……」
頭目はどんどん額を吊り上げる。だが、
「俺は
それを蹴ってまで、そんな
お前もケチな盗賊なんて辞めて真面目に働け」
真面目に働け、その一言で頭目はみるみる顔を強張らせ、烈火のごとく怒りだした。
「真面目に働けだぁ!
戦乱で田畑を荒らされ、家を失ったりしなけりゃ俺たちも真面目に働いてたさ!
お前たちはいつもそうだ! 俺たちみたいなケチな盗賊は取り締まれても、戦乱一つ無くせねぇ!」
頭目は
しかし、
「盗賊に
それを一つずつ無くしていくのが平和への道だ。
よし、コイツらを連れて行け!」
盗賊たちは縄で縛られ、文句を垂れ流しながら県兵に連行されていった。
だが、その
彼らも被害者だ。こんな乱世じゃなければ普通の人として暮らせたかもしれない。状況さえ変われば、まだ更生の余地があるんじゃないか。
そうだ、まだ彼らはやり直せるはずだ。
僕は思わず
《続く》