僕が賞金首の
彼女はその場にへたり込んで、
「
あまりのことに僕は冷や汗をかき、何度も髪を
「君は
その問いかけに、彼女は紅い唇をぎゅっとつむぎ、少し低めの声色で答えた。
「私は……
しかし、その声をどんなに低く装おうとも、まだ少女的な幼さの残る女性の声であった。
(やはり、彼女は
この世界は女性が武将になるというのか!
あれか女体化というやつか。何か違和感があると思っていたが、まさか女体化が出てくるタイプの三国志だったなんて!
そういう作品があるのは知ってるが、自分の転生先がそんな世界だとは思わなかった。
だけど、
僕は突然のこの事態に頭を
まさか、女体化武将が出てくるなんて、完全に予想の範囲外だ。僕にはどうにもお手上げ状態だ。
彼女の顔をまじまじと見る。化粧で飾ってはいないので、素朴な印象を受ける。だが、サラサラの髪に、パッチリとした大きな目の端正な顔立ちで、なかなかの美人なようだ。
(こんな美女がこの乱の首謀者だったなんて……)
戸惑っている僕の元に、大将・
「おい、
ん?……女?」
そんな
「ああ、
彼女が
「何、わけのわからんこと言ってんだ?」
さすがの
「だから、
「
そんな若い女なわけがないだろ」
「え、じゃあこの女性は……?」
「
だが、
しかし、女性は目線を
「おい、女。
答えないなら本当に
女性は目を下に落とし、観念したようにボソボソと答え始めた。
「私は
なるほど、それなら納得できる。やっぱり女体化武将なんていなかったし、この世界はそういう世界では無かったようだ。少し残念ではあるが……。
だが、それだと新たな疑問も生まれる。
「影武者というわけか。
しかし、なんでオッサンの影武者を女性が務めるんだ?」
オッサンの代わりなんていくらもいるだろう。何も性別も年齢も全く違うこんな女性に頼む仕事ではない。
「それは……」
女性は言い
「恐らく、
お前が
おい、コイツを人質に引き連れて、本物の
そのまま陣に戻ろうとする
「ま、待って!
……
その彼女の言葉に、
「
でなければお前はこのままは我らの捕虜にする。それに
その言葉に彼女はついに自身の正体を語り出した。
「私は……
その回答に僕らはギョッとする。
僕は思わず聞き返した。
「殺された?
「それに
さらには彼を皇帝に
何故、殺すことがある」
その問いに、彼女は一言一言噛み締めるように答えた。
「ええ、そうです。
始め、
ですが、次第に意見が対立するようになり、ついに
その話を聞いて僕は鼻息を荒くした。
「自分で皇帝に
「そうです。ひどい話です。
自身が皇帝に据えた人物を殺しては、せっかく集めた反乱軍が分裂してしまうと考えたのでしょう。
そして、娘の私を身代わりとして
さらには病気がちということにして、あまり表に出さないようにして誤魔化してしまいました」
「それで女性の君を身代わりにするのかい?」
「
「しかし、それにしても父の
そう僕は尋ねたが、彼女は首に横に振って答えた。
「既に私たちは
この乱が失敗すれば九族皆殺しになるぞと、
ですが、こうなってしまってはどうすることもできません。
この身を
彼女はその大きな瞳をカッと見開き、小さな拳をギュッと握り締めてそう答えた。
その目からわずかな
「そんな……!
劉備、
彼女の涙に胸を痛めた僕は
「そんなの処刑以外ない」
さらには横にいる
「大将、
どうしますか?
万一、逃げられないように足の一つも射抜いておきますか?」
そう言いながら
「そんな!
戦意のない女性の足を射るなんて人のすることじゃないぞ!」
僕は激しく抗議したが、弓を構える
「しかし、逃げられてからでは遅い!
「待ってくれ、
僕と
「
百金といえば中家(中流家庭)の資産の十倍の額だ。
それでもその女を選ぶか?」
僕は
「金のためにこんな年端もいかない女性を差し出すことはできない!」
「百金といえば百万銭だ。
安い馬なら一頭四、五千銭。上を見ればきりが無いが、二十万銭も出せば良馬が買えることだろう。
百金とはそれだけの額だぞ」
「うう……う、馬を出しても駄目だ!
馬欲しさに女性を売るなんてできない!
それに僕には既に
僕は寄り添う愛馬・
「今回の我ら役目は敵の撹乱と
その女を逃せば、我らの役目は半分しか果たせないことになる。それがわかっているのか」
「わ、わかっている。君たちには申し訳ないと思っている。
でも、こんな若い女性と引き換えに得たものは、誇るべき戦果とは言えないはずだ。
これから天下に名を上げる
「ふふ、天下に名を上げるか……。
よし、わかった!
この娘を捕らえたのは
その娘の処遇を決める権利は
そう言い、
「いいのか、
「ああ、お前がどういう決断に従おう。誰にも文句は言わせん!
好きにしろ!」
本当に全てを受け入れるといった堂々とした態度だ。
始め
しかし、今では彼の部下になって本当に良かったと思える。
やはり、
「恐らく、僕の判断はこの時代の人からすればとてつもない甘いのだろう。
でも、彼女は、ただ
それをさらに命を奪おうなんて、僕にはとてもできない!
「わかった。
だが、一つ言っておく。お前の今回の手柄は無しだ。この埋め合わせはいずれしてもらうぞ」
そう言われ、僕は大きく
「ああ、わかった。
この借りは必ず返すよ」
「よし、お前の判断に従い、この場は逃がそう」
弓を構える
「良いのですか、大将!
この娘がいるかいないかは、我ら全体の手柄に影響しますよ」
「構わん。
部下の手柄を横取りするのは大将の仕事じゃねーよ」
その態度に、僕は思わず頭を
「ありがとう、
そのやり取り彼女は立ち尽くして、いや、座り尽くして聞いていた。そして、僕らの出した結論に彼女を丸くしながら聞き返した。
「あの……よろしいのですか。
私は
「ああ、
死ぬほどの理由じゃないよ」
そう言って僕は彼女を勇気づけた。
「すみません……
ありがとう……ございます」
そう言いながら彼女は震えながら、
「
安全なところまで送ってやれ」
そう
「さて、では行こうか。
えっと、君の名前は何かな?」
「え、私の名前ですか……それは……」
僕の問いかけに、彼女は少し顔を赤らめながら言い淀んだ。
だが、その時、一本の矢が僕らを乗せる
「その女を置いて去れ!」
荒々しい怒声と共に現れたのは、一人の烏桓兵であった。赤い服に毛皮を
彼は立派な馬に
《続く》