僕たち
先頭を進んでいた大将・
「さあ、お前たち。
もう
いよいよ作戦開始だ」
その言葉に自身の呼吸が早くなるのを感じた。
まだ、山の
それを今から僕らは攻めなければならない。一見すれば到底、不可能な状況。しかし、僕らには味方がいる。
「お前たち、あそこの陣が見えるな」
劉備は山腹にある一つの陣所を指差した。
「あそこに見えるのが、我らに寝返りを約束した
そう、その指差す陣所こそ僕らに味方してくれる
今回の作戦はまず、敵の内側から
「まずは
彼の
彼の名は
残念ながら僕は彼の名を知らない。
前出てきた
「ここに
お前の弓の腕であそこの陣まで手紙を届けてくれ」
「任せておけ」
ここから相手の陣までは三百メートルくらいはあるだろうか。聞くところによると矢の届くギリギリの距離だという。
僕は心配になって
「あの陣までとなると随分あるけど矢は届くのかい?」
それに対して
「的を射抜こうというわけではない。
あの陣の中に届かせられれば良いだけなら……
その回答に大将・
「おう、我が軍一の弓の腕前、見せてやれ!」
弓に矢を
間違って別の敵陣にでも落ちれば作戦は失敗だ。緊張感の中、部隊は静まり返り、ゴクリという
その時、体に
「今だ!」
「見事!」としか言いようの無い射撃であった。
その腕前にヤンヤヤンヤの大喝采……と言いたいところだがここは敵陣の側近く。皆、声を上げるのを我慢して静かに彼を
(あんなに離れていても矢を届かせるなんて。
歴史に名を残さなくても凄い人っているんだな)
しばらくすると、
「あれが合図か?」
僕は
「ああ、鏡で光を反射させて作る合図だ。
どうやら了解したようだ。
さて、では
僕たちは
「皆、黄色い布を頭に巻いてるな。
俺たちは
目標は
「
寿命も短かったこの時代、六十歳といえばかなりの高齢なのだろう。
「しかし、奴は皇帝を勝手に名乗っている。捕らえれば莫大な恩賞が貰えるだろう。
恩賞の半分は俺たちの部隊の取り分とする。残り半分は捕えた者の自由にしてよい!」
その言葉に皆、静かに目を輝かせた。
「
一金で貧家は一年を過ごし、十金で中家は暮らしている。
千金の半分の五百金でも、お前たちの暮らしはガラリと変わることだろう。
具体的な金額を言われ、思わず僕も手に力が
そのためには、何としても
それから間もなく、
どうやら作戦開始の時間が来たようだ。
「では、我らも突撃だ!」
僕らは
「我らは
これ以上、お前たちに付き合うことはできない!
これより反旗を
冷静に対処すれば、見抜ける程度の簡単な偽装だ。しかし、西では
この二手からの攻撃に、
「千金はどこだ!」
僕は愛馬・
一攫千金の大チャンス。これを逃す手はない。
しかし、この混乱の中、
「
いくら大将とはいえ、一人だけを見つけ出すなんて至難の業だ。
他の
「さすがにこの中で一人だけを見つけるのは無理か……」
諦めかけたその時、一人の騎馬兵の姿が僕の目に入った。
「あの人も布をかぶって顔をわからなくしてある。
だが、それは他の人も同様だ。
しかし、あの人の馬の乗り方は抱きつくような、まるでこちらの世界に来たばかりで乗馬方法がわからなかった頃の僕そっくりだ。あれは馬に乗り慣れてない人物。
それに体格も他の兵士に比べて小さい。張挙は確か病気がちな五十を過ぎた高齢者……もしや!」
僕はその騎馬兵を追って馬を走らせた。
それを見つけた
「どうした
「わからない!
だが、追う価値はある!」
それだけ言うと、僕は
「あの兵士か……。
うーん、五分五分か」
「どうしますかい、大将?」
猫背の男・
「ここは
俺たちで
「待て!」
僕は逃げる覆面の騎兵を追った。改めて見ても馬の乗り方は明らかに素人のそれだ。だが、なかなか相手との距離を縮められない。
「病気がちと聞いたが、だいぶ
恐らく、僕よりもだいぶ体重が軽い。重量差だけは
前世の僕はジョッキー時代、厳しい食事制限で体重をだいぶ落としていた。だが、この世界に転生した僕は顔は似ているとはいえ、体は別物だ。
他の屈強な兵士に比べればまだ
対して相手は随分、体重が軽いのだろう。とても兵士向きな体つきとは思えない。相手が
「おまけに防具まで付けている。今すぐ重量を減らすことはできない。
だが、そこは技術でカバーだ!」
相手は逃げ惑う人や積まれた物資を踏み越えて、がむしゃらに走り抜けている。恐らく乗り手は急かすばかりでろくに指示を出していないのだろう。馬は物を踏み越える度に
それに対して僕は愛馬・
「素人の乗馬、軽い体重、雑な操縦。
間違いない、この騎兵こそ
確信を得た僕はさらに彗星を加速させようと、その腹を足で押す。
だが、そこに敵兵が立ちはだかる。
「単騎で走っている奴がいるぞ!」「コイツを討ち取れ!」「壁を作って足を止めろ!」
単騎で駆け抜ける僕を絶好の餌食と見られたようだ。数名の敵兵は道を遮り、矛を前に構え、まるで防壁のように僕と彗星の前を塞いだ。
「止まれ!
さもなくば串刺しだぞ!」
敵の警告が辺りに轟く。
しかし、ここで速度を落としてはあの張挙にはもう追いつけない。僕は勢いそのまま、敵の壁目掛けて突っ込んだ。
「止まらぬなら串刺しだ! お前たち構えろ!」
敵兵の矛先はこちらに向けられ、今にも突き出さんばかりだ。
僕は全力で駆け、敵の矛先が届くギリギリで高らかに跳び上がった。
「今だ! 突き刺せ!」
……と、見せかけて、彗星を後ろ脚だけで立ち上がらせるに止めた。
跳び上がったと思い込んだ敵兵は誰もいない空に矛を突き刺した。
「しまった!」
「今だ!」
敵はすぐに彗星を狙うが、一度、突き出した以上はその動作はワンテンポ遅れる。それが僕の狙いだ。
敵がこちらに構え直すより先に、彗星の下ろす脚で目の前の敵兵を踏みつけた。さらに周囲の敵兵を蹴飛ばし、蹴散らした。
「見たか、馬の脚力を!」
僕は敵兵を散々に討ち破ると、すぐさま張挙を追跡した。
「まだ、追い付ける! 行くぞ!」
勢いのついた彗星はドンドンと張挙との差を縮めていく。ついには後少しで手が届くところにまで接近した。
「もう少しだ!
あと少しで千金の首に手が届く!」
だが、
「このままだと逃げられる。
千金の首、逃すわけにはいかない!」
僕は飛びかかり、
我ながら大胆な行動に出たと感心する。
草の上で多少は衝撃が和らいだといえ、落馬の激痛が全身に駆け巡った。
「痛い!
だが、それより賞金首だ!」
僕は痛みを
「捕まえたぞ、
しかし、その
それらを見た僕は思わず固まってしまった。
「
《続く》