「どうやら俺たちの勝ちのようだな」
勝ち誇った敵の大将である
敵陣に単騎突っ込んだ僕はこの
しかし、敵の馬から体当たりを食らわされ、馬から落とされてしまった。さらに敵の大将に剣まで
(後ろの
味方の
僕は……負けたのか……)
「観念しろだったか。
その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」
そう言いながら
「こんなところで……僕はまた死ぬのか……」
呼吸が荒くなり、手足が震える。
僕の前世は落馬事故で死んだ。記憶こそあるものの、一瞬の出来事であった。だが、今回は痛みに苦しみながら死ぬことになりそうだ。その事を思えば、恐怖で押し潰されそうになる。
もはや、絶体絶命の状況だ。例え
とても、ここからは逆転できそうにない。
転生して現代知識で無双なんて話をよく見るが、現実はそう簡単ではなかったようだ。
(嫌だ! まだ死にたくない!)
そう強く願ったその時、どこからか太鼓を連打する音が聞こえてきた。
(太鼓は軍隊前進の合図!
後方の
いや、違う!)
その太鼓の音に合わせるように、東の
「あの兵装は
味方だ! 漢軍だ!」
突如、現れた騎馬隊は各々頑強な
「あの
その旗の名に思い当たる人物を胸に浮かべ、彼らの活躍に目を奪われた。
まるで腕と一体化したかのような
「な、なんだコイツら!
どこから現れやがった!」
この光景が僕以上に意識を奪われている者がいた。敵の
「今だ!」
その
「おい、待ちやがれ!」
「彗星に乗り込む余裕はない!
ならば!」
僕は左手に手綱を握ると、
「行け、
このままあの男に突っ込め!」
右手に握った短剣を前に突き出し、馬もろとも敵目掛けて突き進んだ。
「な、なんて奴だ!」
「そこまでだ!
敵の大将の前に現れたのは、見事な白馬に
彼は
他の騎兵と違う威圧感を放つその騎将に、思わず敵将はたじろぎ、後ろに振り返った。
「喰らえ!!!」
こちらに振り向いた敵将の
短剣は敵の
初めて人を殺した瞬間だった。
だが、緊張と興奮でただ呆然とするばかりであった。
頭真っ白で何も出来なくなってしまった僕に代わり、先ほどの騎将が
大将を失った
「皆の者、このまま敵を
白馬の騎将の指示により、規律の取れた騎馬隊は
多くの
残った
「そこの騎兵よ、よくやったな」
そう渋く低い声を発しながら、白馬の騎将が馬から降りて、こちらに近づいてきた。
「は、はい……」
しかし、僕は初めて人を殺した事実に体が硬直し、ろくに
「君はこれが初陣か?
その短剣を離せるか?」
言われて慌てて自分の右手を見た。短剣の刃先は折れて柄だけをしっかりと握りしめていた。手を開こうとするが、指が固まってしまい、全く開くことができない。僕は軽いパニックになってしまった。
「落ち着け。指をゆっくり開くんだ」
そう声をかけ、彼は僕の指を掴んで、一本づつゆっくりと開いてくれた。
「あ、ありがとうございます」
僕はやっとの思いで感謝の言葉を伝えた。
「初めて人を斬ったら皆こんな感じになってしまう。気にすることではない。
その内に慣れる。それが良いことかはわからぬがな」
その騎将に優しい言葉をかけてもらえたからか、段々と冷静さを取り戻していった。
考えたら前世の現代日本の世界で人殺しをしたのならもっとショックを受けていたかもしれない。
しかし、この世界では人殺しがそこかしこで行われている。
しかも、敵を次々と討ち取っていく様があまりにも勇壮でカッコよく、それが事態の
思えばこの肉体はこの世界の肉体だ。もしかしたら古代社会にもう順応しているのかもしれない。
僕の心身はこの世界に見合ったものになってしまったのだろうか。
それを僕は受け入れるべきなんだろう。それがこの世界で生きていくということなんだ。
そして、今、僕の目の前にいるこの騎馬隊を率いていた白馬の騎将。はためく『
そんな事を考えていると、僕の部隊の大将・
「
まさか、敵将まで討ち取っちまうとはな!
俺の目に狂いはなかった!」
それに遅れて劉備の部隊の皆も僕の元へと駆け寄ってきた。
僕が部隊に加入したばかりの時にはあまり歓迎していなかった面々だ。
そんな面々ではあったが、この度の一騎打ちで見る目を変えてくれたようだ。
「大将も見る目あるじゃねーか」「さすがウチの大将の見込んだ男だ」「見事な腕前だったぜ」「お前こそウチの切り札だ」
そんな歓喜の言葉が飛び交うようになっていた。彼らは僕の頭や肩を軽く叩き、彼らなり表現方法での
どうやら少しは僕のことを認めてもらえたようだ。僕はホッと胸を
しかし、まだまだ序盤だ。本当に仲間として認められるようもっと頑張っていかないといけない。
「兄貴、よく来てくれた。助かったぜ!」
「
久しいが、随分、部下が増えたようだな」
どうやら、二人は知り合いのようだ。
いや、二人の関係を僕は知っている。
「ああ、俺も今や百人の部隊を率いる隊長だぜ。
ほら、そこにいる
そう言って
僕は恐縮しながらも白馬の騎将に名乗った。
「そうか、君も
あの敵将を討ち取ったのは君自身だ。
君が今回の勲功第一だぞ」
そう渋い声色で、騎将は僕に
「
この人は俺の兄弟子でもある
やはり、この人があの
歳は三十代くらいだろうか。
身長は百七十センチほどで、ほどよく筋肉が付き、引き締まった体格をしている。その低く渋い声が、一層
そんな二枚目が白馬に乗ると、それだけでサマになっている。まるで銀幕のスターのようだ。
乗っている馬も、
この人と馬をこの世界で最初に見ていたら、間違いなく僕はこの世界を映画の撮影だと思ったことだろう。