リーゼロッテの身体の準備が出来ていないのにも関わらず、アントンはもう我慢ができなくて身体を一気に繋げた。
「ああっ! ア、アントン様! い、痛いです!」
硬い床に押し倒されたままの背中と初めての行為の痛みでリーゼロッテの我慢は限界になり、つい痛いと口走ってしまった。
でもアントンの目はイってしまっていて妻の苦痛の言葉が耳に入らないようだった。アントンは、処女だったリーゼロッテ相手にガツガツと乱暴に律動し続けた。リーゼロッテの背骨と尾てい骨は硬い床に押し付けられ、局部だけでなく、背中や臀部も痛くて堪らなかった。痛みがあまりに長引いて彼女の気が遠くなりそうになった頃、ようやくアントンが唸って達した。
「ロッティ! ロッティ! ああっ、うううううっ!」
アントンは、そのまま彼女の上に倒れこんだので、リーゼロッテは重さと背中の痛みにとうとう我慢できなくなって彼の背中を叩いた。
「アントン様! 重いです!」
「ああ?! ロッティ! ごめん……なんて事だ……」
アントンはリーゼロッテの身体の上から身を起こすと、彼女の肌のそこかしこに残る歯形や吸い痕が見えて我に返り、頭を床につける勢いで謝罪した。
「いいんです……アントン様の本当の妻になれたから……」
「で、でも……初めてだったのに床でこんな乱暴に抱いてしまって本当にすまない」
「そう思ったら、
「いや、駄目だ。次はない。ロッティ、これで分かっただろう? 発情発作が起こると、私は何が何だか分からなくなってしまって野獣のように乱暴な性交をしてしまうんだ」
「それなら尚更、他の女性となんてできませんね。ああ、男性とも駄目ですよ?」
「ロッティ?!」
アントンは、男性とも関係を持っていた事をリーゼロッテに知られているとは思わず驚いた。
「私は案外嫉妬深いんです。アントン様を誰にも渡したくないです」
「去勢されたら、誰にも見向きもされないよ」
「そんな事ないです! 私がアントン様を離しません!」
「こんな男の元にいたら、駄目だよ。すぐに避妊薬を入手してくる。それを飲んだら、出て行ってくれ。当面の生活に十分な慰謝料を渡すよ。でももし修道院に入りたいなら、入る手続きは今からでも急ぎでしよう」
「アントン様は言いましたよね、ここを去ったら、私はどこに行くのかって。どこにも行く当てなんてないから、修道院に入るしかないでしょう。でも今は修道院に入るにも多額の寄付金が必要だって聞きました。残った貴重な財産をそんな事に使ってほしくありません。仮に修道院に入らないとしても、貴重な財産から慰謝料なんていただく訳にいきません。何より私はアントン様と一緒にいたい! アントン様の側以外、どこにも行く所なんてないんです。だから責任とって私をこのまま側に置いて下さい!」
「ああ、ロッティ……私は君に降参だ……」
アントンはリーゼロッテを抱きしめて泣いた。
「でも避妊薬は飲んでくれ。これから私達の暮らしは厳しくなるから」
「私はアントン様との子供を持てるなら欲しいです。アントン様が……すみません、こんな事言いたくないんですけど……去勢される前に私にチャンスを下さい。愛する人との間に子供が欲しいんです」
「でも私は平民になるんだ。明日から住む住居も2部屋しかないし……」
「アントン様と一緒にいられるなら何だってします! ましてや私達の子供が来てくれるなら、何だってできます! 働いてお金を稼ぎます。私は実家で下女のような仕事をしていたんですよ。外でも働けるに決まってます!」
「ああ……ロッティ!」
アントンは、リーゼロッテを再び抱きしめてむせび泣きした。
翌日、アントンはリーゼロッテと狭い新居に引っ越した。彼女は毎日、アントンの子種を欲しがり、アントンもそれに応えた。それどころか、アントンは1ヶ月間出仕せずに昼夜リーゼロッテを抱いた。その努力の甲斐あってアントンが仕事に復帰してまもなく、リーゼロッテの妊娠が判明した。
リーゼロッテは、仕事中毒の夫が出仕しないのを怪訝に思って2日目には夫を問い詰め、アントンは偽装去勢を打ち明けた。彼女は夫と協力してその秘密を守り続け、アントンも妻に誠実な夫であろうと努力した。2人はアントンの発作が勤務中に起きないようになるべく出勤前に身体を繋げ、アントンは万一王宮で発作が起きそうになっても自慰で何とかやり過ごした。
月が満ちてリーゼロッテが男の子を産み落とした後、2人は避妊を続けてアントンの秘密を守り、2度と子供を持つ事はなかった。