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第58話 発情発作

 アントンが個人的に影として雇っているペトラは、クーデター後、王宮で侍女をしながら元宰相派の残党や不穏分子を監視しており、その合間に性欲が昂ぶってしまったアントンの相手もしている。ペトラが我慢できなくなった時には部下の自分から誘えず、自慰で済ませるしかないから不公平ではある。でも発作の辛さを知っているので、断れなかった。ついこの間も、突然やって来たアントンに物陰に押し込まれ、後ろからいきなり挿入された。アントンは3度中出ししてやっと発情発作が収まり、ペトラを解放した。


「ペトラ、ありがとう。助かったよ」

「アントン様、いつもの避妊薬をお願いできますか」

「すまん、この間渡したのが最後なんだ。クーデター後、薬品の輸入が滞って中々手に入らない。入手したらすぐに渡すよ。でもいつもし、君は長期間この薬を飲んでいるだろう? まずできる心配はないよ」

「そうですね。それならまず大丈夫だと思います」


 長期間、避妊薬を服用すると不妊になりやすい副作用があった。ペトラは家族を持つのを諦めていたし、調査対象者の子供を産みたくはなかったから、影の規則に従って服用していた。でも今はハニートラップにかける調査対象者はおらず、ペトラが関係を持っているのはアントンだけだ。だから父親の分からない子供ができる可能性はない。万一できたら、アントンの前から去って1人で産もうとペトラは考えていた。でも妊娠する可能性はおそらくほとんどない。


「それより避妊薬を必要としている女性達が早く手に入れられるようにして下さい。というか、そんな被害がなくなるようにお願いします」

「すまないね。早急に対策を立てたいのだけど、色々思惑が絡まって調整が大変なんだ」


 元宰相派の家門の女性が修道院以外で働く場合、罰として子孫を残させない為に避妊薬を投薬しており、避妊薬の需要が高まっていた。その上、強姦された女性が避妊薬を必要としなければならない事件が最近、多発しており、ますます避妊薬の供給が追い付いていない。クーデター後、治安が悪化して強姦や強盗が増加しており、特に領主のいなくなった元宰相派の貴族の元領地で発生率が高い。


 治安維持にあたる騎士でも元宰相派の貴族の家門に所属する者は、去勢と出家の罰を受けたので、騎士が圧倒的に足りない。王都以外の治安維持にあたるのは軍だが、それを統率している高官レベルはほとんど騎士爵を持っている者なので、軍の指揮系統は滅茶滅茶だ。


 外国からその隙に攻め込まれるから、騎士に限って恩赦を与えてはどうかと議会で話が出た途端、その話がなぜか地下牢にいる囚人達に洩れて履歴を詐称する者が続出し、その話はなくなった。


 誰が後任の領主になるのか、ずっと議会で揉めていて代理を置いているが、自分の物でない領地の事を本当に考えて骨身を削る者は中々いない。


 ルイトポイトの味方だった貴族で元々領地を持っていた者も、自分の領地拡大、それも豊かな場所を狙っている。領地を持たない王宮貴族は、領地を得られるのを待望しているし、どうせなら良い場所を下賜されたい。平民の議員でも貪欲な者は、クーデター前の民主化の理想を忘れ――元々、持っていなかったのかもしれないが――叙爵と領地を狙っている。目標を達成した後、共通の敵がいなくなり、皆それぞれ自分勝手に利益を得ようと必死になって昨日の味方を蹴落とす事ばかり考えていてルイトポルトとアントンは頭を抱える毎日だ。


 そのストレスのせいなのか、アントンは以前にも増して発情発作が起き、ペトラやその他の部下と頻繁に身体を繋げていた。

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