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10「JINGO」

 鷹司家の倫理観は世間のソレはズレている部分がある。不倫や浮気などの話は一切出てこないというのも、良いことではある反面………宗家はおろか、分家でも全く出てこないというのも流石におかしいと言える。


世の中で当たり前のように蔓延り、あちらこちらに加害者と被害者が生まれ、弁護士を交えた示談やら民事裁判やらが起こり続けている。


結衣も離婚案件で荒稼ぎをしているため、荒稼ぎできてしまうほどの案件の多さには他人事ながらも呆れてしまっているようだ。


そんな世間と反して、何一つ下半身による不祥事が見受けられない一族。記録に残っている最も古い記述から現在まで、そういう浮ついた話というものが一つも出てこない。


一夫多妻制が認められている時代背景があった中でも、歴代当主を初め、一族の男全員が正妻と一生を添い遂げるという稀有な体制を続けていたのだ。


離婚は少なからずあったようだが、その離婚すらも数は多くはない。この貞操観念の在り方も鷹司家の謎の一つとしても囁かれている。


他の名家や旧家に起きた不倫騒動などを耳にした際に、鷹司家の情事関連の話をすることもある。その時に「何故、うちの一族はそういった不祥事が全く無いのだろう」と話題に上がる。


上げたところで誰も答えられずに、自然消滅する話題。


いとこ婚というのは当たり前のように行うような家系である割に、そういった不祥事が全く無い点が、世間の多数派が持つ倫理観とは大きく異なると言える。


いとこ相手ならば、未成年であっても行き過ぎない劣情を抱く分には平然と見逃されるのも、やはり鷹司家の独特の感覚なのだろう。


伯父さんも、よく倫理観からして世間のものとは違う家柄に婿養子として来たものだと思う。


名家の長男であり、正式な嫡男として当主としての期待を寄せられていたのにも関わらず、金の稼ぐこと以外に突出した部分が何もない家系に婿入りは、やはり伯父さんも鷹司の一員になるだけの素質があったということなのか。


夫婦、恋人関係というのは人間性が非常に似ている者同士が結ばれる傾向にある。圧倒的大多数と言ってもいい。


嫁がキチガイなら、その旦那もキチガイ。それは何度も見てきた光景だ。結衣は特に、弁護士という仕事を介して俺以上に遥かに見続けている。


不倫関連の被害者も人格破綻者の確率が高く、巡り合わせで民法上に置ける不倫という違反行為の被害者になっただけの、文字通りの犯罪者予備軍のような人間が多いとのこと。


話が全く通じない、こちらの言うことを理解しない、問題行動を勝手に起こしては弁護士としてのフォローが到底出来なくなる………といったケースは、離婚案件では当たり前のように見掛けるようだ。


加害者も被害者も同程度に正気の沙汰ではないのが不倫というもの。それを扱う弁護士の頭が徐々におかしくなっていくのも無理はない。


離婚案件ばかりを扱う弁護士の中には、それなりの高い割合で人格に問題があると結衣は話していたが、そういった話を一度聞くと、先天的ではなく、後天的な問題で人格が歪んでしまったのだと、少々同情したくなる気持ちも湧く。

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