結衣も俺も、鷹司家の公平性を求めすぎた後継者争いというものに辟易していた。確かに、実力至上主義であり、陰湿な蹴落としあいなどによって無能が上に立つことは無くなるのだが、それを追求しすぎるのも破滅への階段を下ることになると危惧している。
このやり方で安定した繁栄を続けているのだから、間違っているとは思わない。
鷹司家が興った当初からの風習………俺達の先祖が何を思ってここまでの規律にしたのかは読めないが、必要悪という観点については、俺や結衣のように自ら堕ちていく存在が出てくることを見越して、狙わずとも必要悪が生まれることを見据えた上での規律とも考えられる。
あくまでも、どこまでも憶測の話になってしまうが。数百年前に死んだ故人の考えなんて、現代技術ではどうしたって分かるわけが無い。
ただ、数百年前単位……それ以上の未来を明確に見据えた上で一族を繁栄させようとしたことは事実と言っても過言ではない。
歴史に大きく名を残すことも無かった鷹司家の初代当主、
公家の出身だったが、武闘派の一面もあり、旧朝廷内だけでなく、旧幕府とも繋がりがあったともされている。
二重スパイのような立ち回りをしていたことも文献に残されているあたり、初代当主から人を騙すことに関する技術は高かった模様。
遺伝子単位で脈々と受け継がれていった結果としか思えないな。
「そういや、和也って朝飯食った?」
「食ってねぇけど。てか、俺は朝そんなに食わねぇタイプって知ってるよな?」
「当たり前じゃん。和也が腹ん中にいる時から知ってるのに、今更和也の知らないことなんてないよ」
「気持ち悪ぃからそれ以上言うな。伯父さんと伯母さんにも挨拶したいから、とりあえず中入れてくれや」
「どぞどそ〜」
屋敷の中に入り、適当に靴を脱いで、結衣の後ろについていくような形で伯父さんと伯母さんの元へ向かう。
伯母さんは母親の姉であり、伯父さんは将軍家足利氏の直系の子孫であり、現在は大手芸能事務所の社長である。
伯父さんは長男坊で元々当主として跡継ぎに選ばれていたが、家柄などを気にするのが下らないと言い、自分は芸能事務所を立ち上げたいと大学生の頃から思っていたらしく、親族の反対を押しのけて起業し、紆余曲折を経て成功を収めている。
その紆余曲折している時に伯母さんと出会い、同じように名家の出身であり、名家の人間としての在り方に同じ疑問を抱えていた者同士で意気投合して授かり婚をしたようだ。
授かり婚に誘導したのは伯母さんの方らしい。子供さえ妊娠してしまえば、反対も出来ないだろうということで。
その時に伯母さんが身篭っていた子供が結衣というわけだ。うちの母親と伯母さんは年子の姉妹であり、結婚したタイミングも近かったのだが、伯母さんの方が授かり婚だったため、結衣と俺との年の差が出来たのは、そういう経緯も関わっている。
そんな生々しい話を甥っ子にするものではないと世間的には思われるかもしれないが、これが鷹司家だ。