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7「俎上」

 鷹司の分家の異端児である結衣の実家の平屋の屋敷まで、初心者マークを前後に貼り付けた中古の軽自動車で一人で向かい、家から車で三十分ほど走らせたところで目的地に到着。


鷹司家は都内ではなく、埼玉に宗家の屋敷を置いて、分家も基本的には同県内に家を構えている。


結衣の実家の桑久保家は所沢。宗家は朝霞市にある。他の分家は浦和、大宮、わらび、和光市あたりだったか。


都内だと板橋や北区あたりか。都内と言えども、埼玉方面に居る分家が多い。都心部には鷹司の家から完全に離れていった人間しか住んでいないと聞く。


鷹司の家の風習としては、去るものは追わず。来るものはある程度の見極めをした上で受け入れる。一度去ったものは身内以外は受け入れない。身内でも一族に害をもたらす存在は追い返す。


それが徹底されているため、元宗家の当主であっても、同様の処置がとられることになる。


徹底するべきだけを徹底した人間の管理が、一族の繁栄を長期化させている。徹底しない部分には甘い判断を下すという余裕があるからこそ、一族内での騒動も殆ど起こらずに何百年と続いている。


そこまで安定して高い地位を長年築いている名家となれば、それだけで人が集まってくる要素になる。


人柄や努力だけではどうにもならない基礎の環境が卓越している。やればやるだけ評価され、結果や実績に確実に繋がる環境に産まれて………運命と神様には感謝しかない。


今いる環境に環境に死ぬまで感謝し続けられるような人生を与えてくれた事は、閻魔への冥土の土産するにも高過ぎるくらいと言い切れる。



平安時代の寝殿造を模した、だだっ広い屋敷と中庭を横目に、指定の駐車場への車庫入れを済ませ、ダッシュボードに置いているタバコとライターを上着のポケットに雑に突っ込み、石畳を歩いて屋敷の表玄関へと向かう。


小川が下に流れるアーチ状の石橋と芝生を越え、点在している桃の花を香りに包まれた玄関のインターフォンを鳴らす。


結衣は実家で暮らしているが、俺がそろそろ一人暮らしを始めるというタイミングで、それに合わせて俺と同じ街に引っ越そうと企んでいる。


俺は既に、知り合いの不動産のマンションから一括で購入の手続きを進めており、来年の春から住めるように段取りを組んでいる。場所は和光市である。最寄りである和光市駅までは歩いて10分は掛からない距離。朝霞の実家からも近く、数キロ南下すれば東京に入ってしまうほどの立地。


そのため、都内で仕事をしている分家の人間も多い。東京の方で色々な仕事に携わるための前情報なども仕入れやすい環境だからこそ、和光市を選んだ。


俺が和光市にマンションを買って済むということで、同じ市内に駅まで徒歩20分程度、俺が南口方面ならば、結衣は北口方面の場所に暮らすことが決まっている。


2キロあるかないか距離しか無いので、車で5分、徒歩では30分も掛からないくらいで、ジョギングのペースならば10分前後で着くほどの距離ではある。


方角の違いが真逆であるため、若干の生活圏の差異が生まれる。お互いに関わり合いたいという意思が無ければ、基本的に顔を突き合わせることもない。


俺の場合は、今後とも接点を持ちやすくする理由も考慮した上での最終的な落とし所がそのような形でまとまった経緯がある。


その経緯があって関わらないということはまず有り得ない。対面でのコミュニケーションを取りやすくするための意図を重きを置いている。やり取りが何も無い方がおかしいというものだ。



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