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第5話

「はい、着きましたよ。ここが今日から修也さんが通う学校です!」

「おお、なんというか……すごく普通のテンプレっぽい高校だ」


修也が案内されたのはごく普通のよくある高校だ。

校門も普通。グラウンドも普通。校舎も普通である。


「確かこの高校もあのショッピングモールみたいに地域の資産家が出資してるんだよな?」


登校中に蒼芽からそう話を聞いていた修也は改めて蒼芽に尋ねる。


「ええ、そうです」

「ということは分類的には私立だろ? メチャクチャ公立高校っぽいぞ」

「出資した人の意向らしいですよ? 生徒が変に気負わないようにという配慮らしいです」

「なんかよく分からん配慮だな……」

「でもここ、この町に住んでいる人は学費その他諸々が半分免除されるんですよ」

「それまたなんでだ?」

「お金がないなんて理由で十分な教育が受けられないのは不公平だ! ……とのことらしいです」

「それは凄いと思うけど……でも良いのかな?」

「何がですか?」

「俺、厳密に言ったらこの町に住んでる訳じゃないだろ? 住民票移してないし」

「え? うーん……どうなんでしょうね?」

「一度きちんと問い合わせてみるか……」


ややこしくなりそうなことは一旦置いといて、二人は校舎の中に入っていった。



「じゃあ蒼芽ちゃん、授業頑張ってな」

「はい、修也さんも手続き頑張ってください」

「手続きに頑張るも何も無いだろ……」

「ふふ、気分ですよぅ」


軽い冗談を言い合って二人は別れた。


「うん、修也さんのおかげで今日は気分良く授業受けられそう! さっきも守ってもらっちゃったし、お礼に今週末……ってもう明日か。お買い物は張り切って案内しないとね!」


上機嫌で自分の教室に向かって歩く蒼芽。

しかしその足がはたと止まった。


「……あれ? そう言えば修也さん、どこに行くんだろ? 多分職員室だと思うけど、場所知ってたっけ?」



「……分からん」


蒼芽と別れてしばらく廊下を歩いていた修也だが、部屋の配置が全く分からないことに気がついて足を止めていた。

目的地は職員室なので、1階の何処かにあるだろうと目星を付けたのだが、1階だけと言っても結構広い。

隅々まで探し歩くのは少々面倒だ。


「しかしまぁやるしかないか……」


少々辟易としながら再び歩き出そうとする修也。


「あ、良かった、まだそんなに遠くに行ってなかったんですね」


そんな修也の背後から蒼芽の声がした。


「あれ、蒼芽ちゃん。わざわざ戻ってきたのか?」

「はい。修也さん、部屋の配置全く知らないんじゃないかって途中で思いまして」

「うん、そうなんだよ。サッパリ分からん」

「この学校、外観は普通なんですけど中は結構ややこしいんですよね……」

「だからしらみつぶしに探そうと思ってたところなんだ」

「そんなことしてたらそれだけで半日過ぎますよ……案内しますよ、職員室で良いんですよね?」

「ああ、頼む」


こうして修也は蒼芽に案内されて職員室へと向かった。

ちなみに修也が行こうとしていた方向とは全くの反対方向だった。



「はい、着きましたよ。ここが職員室です」


大して時間もかからずに目的地である職員室に辿り着いた。


「ありがとう蒼芽ちゃん。ここまで来れば流石に大丈夫だ」

「では私は自分の教室に行きますね」


そう言って蒼芽はその場から去っていった。


「……よし」


何処の学校でも職員室に入るのは少々緊張する。

少し間を置いてから、修也は意を決して職員室の扉を開けた。


「失礼し……」

「いらっしゃーい! 待ってたよっ!!」

「うわぁっ!?」


想定とは全く違う展開に修也は驚く。

まさかドアのすぐそばに人が待ち構えていて『いらっしゃい』と歓迎されるなんて誰が想像できるだろうか?


「君が今日転校手続きをしに来た土神君だねっ? 私が担任の藤寺陽菜ふじでら はるなだよ! よろしくねっ」


そう言って手を差し伸べてくる陽菜。握手を求めているようだ。


「あ、はい、土神です。お世話になり……」

「歳は24、彼氏いない歴=年齢、3サイズは上からひ……」

「待った待った。それ先生が生徒にする自己紹介じゃないです。どっちかと言うと合コンとかでやるやつでしょ」

「合コンでも3サイズとか言わないよ?」

「知りませんよ、自分で言おうとしたんでしょうが」

「ぶー、つまんなーい。あ、私のことは『はるなせんせー』とか『はるちゃんせんせー』とか好きに呼んでくれて良いからねっ?」

「お世話になります藤寺先生」

「えー冷たーい」

「好きに呼んでくれて良いと言ったのは先生でしょう」


さらりと流された事に頬を膨らませて抗議する陽菜を修也は改めて観察する。

背は蒼芽より同じか少し高いくらいだ。

肩の下あたりまで伸ばしてる赤い髪が印象的だ。

いや、それよりももっと印象に残る部分がある。それは……


(……めっちゃデカいなこの人……)


胸が物凄く大きいのだ。

『バレーボールでも詰めてんですか?』とか『足元見えないんじゃないですか?』と問いたくなるくらい激しく自己主張している。

さっき『ひ……』と言いかけたという事がもし事実ならサイズは少なくとも100を越えていると見て良いだろう。

さらにかなりの童顔なのも加わりアンバランスさが凄い。

これだけインパクトがあるのだ。目を向けるなという方が無理だ。

しかしあまりジロジロ見るのも失礼だろう。修也は視線を極力向けないようにする。


「あ、やっぱり気になっちゃう? 初めて会う人は絶対目を向けちゃうんだよね」


しかしそんな修也の様子に気付いたようで、そう言って自分の胸元に視線を落とす陽菜。


「あ、すみません」

「いーのいーの。自分でも分かってるから。『何食ったらあんなに育つんだド畜生がッ!!』て怨念が籠った目を向けられたのは1回や2回じゃないんだから」

「いやそんな目は向けてません」

「えー向けてよー」

「向けて欲しいんですかい。と言うか男の俺がそんな目を向けるのは色々おかしいでしょ」

「後はねー、『少しくらい分けろコノヤロウめッ!!』って鷲掴みにされたり揉まれることも数十回……」

「そろそろ逆セクハラで訴えますよ?」

「えーつれないなぁ。でも緊張は解れたでしょ?」

「え? あ……」


そう言えば職員室に入る前にあった緊張感はキレイサッパリ消えている。


「ふふん、こう見えても先生だからね。生徒のケアはお手の物だよっ!」


そう言って胸を張る陽菜。前で留めてるブラウスのボタンが悲鳴をあげそうになっているが大丈夫なのだろうか。


「あ、大丈夫だよ。ブラウスの下は前開きじゃないインナー着てるから万が一ボタンがちぎれ飛んでも問題無し!」


表情から思考を読み取ったのか、修也が聞く前に陽菜は答える。


「えらく準備が良いですね」

「人間は学習する生き物だからね。何度も同じ目に遭えば対策も考えるってものだよ……」

「なんかテンション下がってません?」

「土神君、君は公衆の面前でブラウスのボタンが全部はじけ飛んでブラジャー姿を大公開してしまった時の私の気持ちが分かるかい?」

「あー……」


思わぬ黒歴史の暴露になんと言って良いか分からず言葉を濁す修也。


「せめて可愛いやつだったら救いはあったんだけど、これだけ大きいと可愛いのなんて無いんだよっ!!」

「あれ、なんかデジャブ」

「まさにあれが私の大公開後悔時代っ!」

「上手いこと言ってるつもりですか」

「という訳で同じ失敗はもうしないんだよっ!」

「まぁ……頑張ってください」


修也は適当にエールを送る。


「話を戻して、じゃあさっきの話は俺の緊張を解すために作ってくれた物なんですか?」

「いや、あれは9割マジの話」

「えっ……残りの1割は?」

「数十回ってのが嘘」

「ああ流石に誇張でしたか」

「百から先は数えていないっ!」

「まさかの下方修正!?」


何故か腰に手を当ててドヤ顔で威張る陽菜に呆れる修也だった。



「……うん、これで書類は全部だね」


陽菜は手続きの為に必要な書類をまとめてファイリングする。

あちこち脱線したがやっと本来の目的を遂行できた。


「教科書は前の学校のと同じで助かりました」

「そうだね、違ってたら一から買い直しだもんねぇ。でも流石に制服と体操服は同じって訳にはいかないよ?」

「それだったらこっちに来る前に採寸してデータは送ったと思いますが」

「あー、来てたね。ちゃんと発注してるからもう届いてるはずだね。持ってきておくからその間土神君には行って欲しい所があるんだよ」

「行って欲しい所?」

「うん。場所はこの職員室のすぐ隣だから迷う心配も無いよ」

「それなら大丈夫そうですね」

「そんなに時間はかからないと思うからサクッと行ってきてね」

「分かりました」


陽菜に見送られ、修也は職員室を出てすぐ隣の部屋へ行く。


「すぐ隣って……え? ここ?」


しかし部屋のネームプレートを見て修也は戸惑う。

ネームプレートにはこう書かれていたからだ。




『理事長室』と。


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