シェルが頭を下げ続けていると、今までの話を聞いていた国民たちからパラパラと拍手が巻き起こり、それは一気に王宮を包むまでになった。シェルはその拍手の渦に驚いて思わず顔を上げてしまう。すると、
「姫様ー! 王子ー! お幸せに!」
「我らに平和を!」
「本当の意味で友好国にしてください!」
そう言った声が聞こえてきた。シェルはそんな温かな言葉たちに思わず涙ぐんでしまうが、泣くことはぐっと堪えた。そんなシェルの様子に、ゼールは柔らかく
こうして幕を閉じたシェルたちの演説は大成功と言っていいだろう。国民たちは再びシェルたちの婚約を祝福するようになっていた。
「あんな
「悪い話も出てくるかもしれないが、今後も姫様たちを信じるよ」
「そんなに素敵な演説なら、自分も行きたかった」
そんな声が町には広がっていた。
「良かったな、シェル」
ゼールは人間国の国民たちが鎮まったことを確認するとシェルにそう言葉をかけた。シェルもその言葉に笑顔を返した。
「ゼール様のお陰で、本当の意味で国民たちと分かり合えることができたように感じました」
「俺は別に、何もしてない。シェルが頑張ったんだ」
ゼールはシェルの言葉にそう言うと、シェルの頭をポンポン、と軽く
国民たちが祝福ムードに戻ったこともあり、人間国王宮ではこれから、王侯貴族に向けたシェルとゼールの婚約パーティーが開かれることになっていた。シェルの悪い
「さぁ、行こうか、シェル」
「はいっ!」
シェルは差し出されたゼールの手を取ると、パーティーの会場となっているダンスホールへと向かって歩き出した。
それから二人の登場に合わせて
そのまま曲調が変わり、二人は手を重ね合わせダンスを披露した。王族同士のきらびやかなダンスに、その場にいた誰もが
シェルは真っ直ぐにゼールを見つめながら、三回目となるダンスを踊る。こうしてこれからも何度も一緒に踊ることになるだろう。それはなんて幸せなことだろうか。
シェルはそんなことを思う。顔は自然と笑顔を作っていた。
そうして一曲が終わった後だった。
シーンと静まりかえるダンスホールの中央で、ゼールはシェルの手を取りひざまずく。それからしっかりとシェルの目を見つめながら、
「シェル、もう一度言う。俺と、結婚してください」
「はいっ!」
今度はシェルは泣かなかった。代わりに顔には満面の笑みを浮かべている。そんな二人に、ダンスホール中から割れんばかりの拍手が響くのだった。
そんな中、二人の元へヴァンが歩み寄ってきた。その手には大きな花束を抱えている。それからヴァンはシェルへ、
「おめでとう、シェル」
そう言って花束を差し出した。思わぬサプライズにシェルは驚いてしまった。それから笑顔でヴァンから花束を受け取った。
ヴァンはシェルに花束を渡した後、ゼールに向かってこう叫んだ。
「シェルを泣かせたら、許さないからなっ!」
それはヴァンなりの強がりと、ゼールへの歩み寄りだった。ゼールはヴァンがいつも恐怖から震えていたのを知っていた。だからこそ、この叫びに対して余裕の笑みを浮かべると、
「お任せください、ヴァン王子」
そう言って礼をとる。思ってもみなかったゼールの行動にヴァンはそっぽを向く。そんなヴァンの様子をシェルはクスクスと笑って見つめているのだった。
それからの日々はあっという間に過ぎていく。
シェルは獣人国での婚儀のため準備に追われ、ヴァンは次期国王としての執務に終われる。ゼールも獣人国へと戻り、婚儀の準備を調えていった。
そうしてとうとう、シェルが獣人国へと嫁ぐ日が来た。一緒に獣人国へ来ることを望んだ侍女と供に、シェルは獣人国へとやって来た。侍女はシェルの花嫁姿を見ると、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら喜んでくれた。
シェルはそんな侍女の気持ちに胸が一杯になりながら、婚儀が行われる祭壇へと向かっていく。
祭壇の先にはタキシード姿のゼールが立って待っていた。シェルははやる気持ちを抑えながらゼールの
シェルが歩くヴァージンロードの両サイドには両国の王族、貴族が集まっている。みなシェルの美しさに息を飲んでいるようだ。
それからゼールの隣に立ったシェルに、ゼールはシェルにだけ聞こえるような声でこう言った。
「
その優しい声音にシェルは一気に顔が赤くなってしまうのが分かった。
それから婚儀は何事もなく進んでいく。
最後に司会進行をしていた獣人族の聖職者に問われる。
「
「誓います」
「誓います」
「では、誓いのキスを」
聖職者からの言葉に、ゼールがシェルの両肩に手を置く。それから、そっと見上げるシェルにキスを落とすのだった。