シェルが
「姫様! 姫様、いらっしゃいますかっ?」
シェルの住んでいる離れの戸を
侍女は血相を変えて、慌てふためいている。
「とんでもないことをしてしまいました。あぁ、どうしましょう……」
「落ち着いて? 何がどうしたの?」
「本当にごめんなさい! 姫様、わざとではなかったのです!」
「分かったから、落ち着いて?」
シェルは侍女を何とかなだめすかし、話を聞くことができた。
それは後宮内での出来事だったという。とある人間国国王の
侍女から話を聞いた
「だって、普段からシェル姫様のことをよく思っていなかった彼女たちが、今回ばかりはこぞってシェル姫様を褒めるものだから……」
ついつい
「それがまさか、こんな形で世間に広まってしまうなんて……。あぁ……、私は何てことをしてしまったのでしょう……」
取り乱している侍女は今にも泣き出してしまいそうだった。
シェルはそんな侍女の肩を優しくさすると、
「大丈夫よ。あなたが私のことを思ってくれていることは伝わっています。いつも、ありがとう」
「シェル姫様……」
シェルの言葉を聞いた侍女はとうとう我慢の糸が切れてしまったようで、声を上げて泣き出してしまった。シェルはそんな侍女の背中を優しくさすりながら、この先のことを考える。
自分のことをよく思っていない後宮に住まう妃たちが情報をわざと悪意に満ちたものにして
いや、誤解と言うには少し語弊があるかもしれない。記事に書かれている『自ら志願して』と言う部分はあっているし、見る人から見たら、ゼールに抱かれた自分は既に『傷物』にも見えるかもしれない。
(それでも、ゼール様がいなければ今の私はいなかった)
シェルの譲れない思いはここにあった。だからこそ、シェルは国民への対応を間違ってはいけないと言う思いに駆られる。
しかしさすがにすぐに妙案が浮かんでくるはずもなく、シェルはどうしたものかと頭を抱えるのだった。
それから数日、シェルは公務で町に出ることを控えることとなった。暴徒化しそうな国民の様子は、それだけ危険だと判断されたのだ。王宮内にある離れで、シェルは歯がゆい思いをすることとなった。
シェルが表舞台から姿を消したことをいいことに、大衆向けの情報誌は好き勝手にシェルのことを書き、民衆の心情を
それらを目にしたシェルの心は痛むばかりだった。
今までの祝福ムードは一変し、シェルや、ひいてはゼールのことや獣人族のことすらも
(早く、早く何とかしないと……)
このままでは今まで築き上げてきた王家の信頼も地に落ちてしまう。自分一人のせいで権力の失墜をしていいほど、この王家は新しくない。古くから人間国の王として存在していたベルヴィン家を
シェルの焦りは募るばかりだったが、一向にこの事態を鎮める手立てが浮かんでは来なかった。
(やっぱり、私が直接言葉をかけるしか……)
シェルは自らが町へと出て、暴徒化しそうになっている町民たちへの説明を行うのがいちばんだと考えていたのだが、
「バカかっ? そんなこと、シェル一人にさせられるわけないだろうっ?」
そう、ヴァンに言われてしまった。父王もそれに激しく同意しており、シェルが町に出ることは
「そもそも、清廉潔白だとか、
ヴァンは今回の騒動で相当憤っているようだ。シェルは苦笑いを浮かべると、
「それでも、彼らの期待を裏切ってしまったのは事実だから……」
「シェルはお
憤慨するヴァンはシェルの言葉を聞いても止まらないようだった。