自分の人生はもう終わりだと、絶望していたときに落札してくれたのがこのヴェルナントだったのだ。
「ヴェルナント様のお屋敷に来た私は、一生懸命、求めてくれるヴェルナント様のために尽力しました。その結果、私はヴェルナント様に見初められ、妻にしていただいたのです」
妻となった今、人間国のように一夫多妻制ではないこの獣人国の一夫一妻制の良さが骨身にしみているのだという。
「ヴェルナント様は確かに、異種族の女性を収集するクセがございますが、ゼール様のように私の存在を無視することもなく、保護もしないような薄情な方ではございません」
むしろ手厚く保護していると言ってもいいのだと、ピエネーは訴えてきた。
「あ、あの! 他の生贄となった女性たちも、この屋敷にいるのでしょうか?」
ピエネーの訴えを聞いていたシェルは意を決して気になっていた言葉を口にした。それを聞いたピエネーはシェルへと視線を向けると、ようやくその存在に気付いたようで、
「えっ? シェル姫様っ?」
驚いたような声を上げる。シェルは人間国の王宮から外へはあまり出たことがなかったが、それでも数度、国民に顔を出す機会があった。この獣人国への生贄として送り出されるのはそれ相当の身分の娘であるため、ピエネーはシェルの顔を知っていたのだ。
「どうして、姫様がこの獣人国へ……?」
「説明は後にします。私の質問に答えてください。他にも、生贄となった女性たちはこちらにいらっしゃるのですか?」
シェルは再度、強めの言葉で問いただした。ピエネーは深呼吸をして自分を落ち着かせると、シェルの質問に答えた。
「ええ、いらっしゃいます。元生贄の人間たちは、ヴェルナント様が保護しておられます」
「そうだったのですね」
ピエネーの言葉にシェルは
確かにこのヴェルナントが人身売買オークションに参加していた事実は褒められたものではない。しかしヴェルナントに落札されたからこそ、保護され、この獣人国の良さをしり、生活することができたのだろう。
シェルはそう考えると、頭ごなしにヴェルナントを責めることはできなくなるのだった。
「しかし、あなたが人身売買オークションに参加した事実は、国王にも報告し、それなりの処罰を受けてもらいますので、そのつもりでいてください」
そう伝えたのは、今まで黙っていたフォイだった。ヴェルナントは苦々しい顔をしていたが、遅かれ早かれこういうことになると覚悟はできていたようで、分かった、と返事をした。
「今度からは、もっと堂々と保護目的だと主張しろ。そうすれば、俺たちも悪いようにはしない」
ゼールはヴェルナントにそう言うと、先に馬車へと戻っていった。シェルはピエネーの元へと行き、自分が今までの生贄たちの行方を捜していたことを軽く説明した。もちろん、ゼールの『極上の生贄』に志願したことなどは話さない。
「そうだったのですね……。シェル姫様にはご心配をおかけいたしました。私は、ヴェルナント様に愛されて幸せですよ」
ピエネーはそう言うと、初めて笑った。その笑みから、彼女が心底幸せなのが伝わってくる。他の元生贄たちの様子を聞くと、
「他の者たちも、ここでの生活を楽しんでおります」
そう返ってきた。シェルはその言葉に
今回の件については生贄を送るだけ送り、帰り方を用意しなかった人間国側にも落ち度はある。人間国から出た生贄について、人間国側がもう関与しないために起こったことだと言っても過言ではない。
更に人間国で認められている一夫多妻制の制度についてもやはり、獣人国を見習って改変した方が良いのではないかと感じられた。
「ヴェルナント様、人間の元
シェルはヴェルナントへ頭を下げると、ゼールを追って馬車へと戻るのだった。