「一千万! 一千万で落札だぁ――――!」
タキシード姿の男の言葉に会場が大歓声に包まれる。
「さぁ! 落札したあなた! ステージへどうぞっ!」
男の誘導でゼールはシェルがいるステージへ、ゆっくりと向かう。ステージに向かうときにゼールは視線を感じていた。その視線の主は先程の妖精の羽を持った女性を落札した男性だった。この男はシェルも落札しようと何度も数字を叫んでいたのだ。
(匂うな……)
ゼールはそう思いながらステージに上がった。
「おめでとうございます!」
ステージに上がったゼールに司会の男は笑顔だ。それからシェルの入っている柵の鍵を開ける。シェルは恥ずかしそうにゼールの元へと近付く。ゼールはシェルの方をチラリと見やるだけで何も言わなかった。その無言の視線が今のシェルには痛かった。
その後、裏にいたスタッフの元へとゼールとシェルが向かっている時だった。
「全員、動くなっ!」
突然、サーカステント中に大きな声が響いた。何事かと中にいた全員の視線が声のした方へと向けられる。その視線を受けた人物は臆することなく宣言した。
「人身売買オークションの現行犯で逮捕する!」
その言葉の後、間髪入れずに多くの獣人が突入してきた。ここからの展開はあっという間だった。フォイが動かした騎士団によって、サーカステントの中で行われていた人身売買オークションは中断を余儀なくされる。
シェルとゼールはテント内のどさくさに紛れて先に宿に帰ることにした。
帰り道、ゼールは何も話さない。シェルは気まずい空気の中で気付いたことが一つある。それはゼールの歩幅が心なしか狭くなっていることだった。
(もしかして、私の歩幅に合わせてくれてる……?)
そんなことはもしかしたら思い過ごしで、自分のことは何とも思っていないのかもしれない。しかしサーカスを見るためにやってきた時よりも明らかに遅い歩みに、シェルはどうしてもうぬぼれてしまうのだった。
宿に帰ってきたシェルはゼールの部屋にいた。相変わらず気まずい空気だったため、シェルは思わず口を開く。
「あっ、あのっ!」
その言葉にゼールがシェルに顔を向けた。その表情は無表情だった。シェルはその冷たい視線が怖くなって思わず
「ごめんなさいっ!」
勢いよくそう言うと、深々と頭を下げた。その間、ゼールの表情が見えないためシェルはガクガクと震えてしまう。どうしても震える身体を隠すことは出来なかったが、
「はぁ……」
「顔、上げろよ」
続いて降ってきた言葉は
「別に怒ってねーよ。結果として、オークション会場を
「でっ、でも……」
「俺がいいって言ってる」
ゼールの強い言葉にシェルは何も言えなくなってしまう。シェルが固まっていると、
「そんなに悪いって思うのなら、そうだな……」
ゼールはそう言ってシェルを見ると、ニヤリと笑った。
「お前、俺の『極上の
「えっ?」
思わぬゼールの言葉にシェルは何と返して良いか分からない。まさかここで『極上の
「俺のレイガーを抑えるのがお前の役目なんだろう? だったら、もう俺の
「……っ!」
ゼールの言葉にシェルの顔が一気に赤くなる。そんなシェルの様子を見ている端正なゼールの顔が意地悪な笑顔になる。その表情からシェルも自分が、からかわれているのが分かったが、高鳴る鼓動と熱くなる身体を隠すことが出来なかった。
(ど、どうしよう……。変な子って思われちゃうよ……)
先程とは違う羞恥心に襲われるシェルの様子を、ゼールはおかしそうに眺めていた。そんなゼールにシェルは何か言わなければと思い、何とか口を開いた。
「私は……、ゼール様のお
(ま、間違えたっ!)
シェルは自分の言葉にどうしようと混乱してしまう。しかしゼールにとってもシェルの言葉は思ってもみなかったものだったらしく、大きく目を見開いて驚いている。それからニヤリと笑うと、
「その言葉、
そう言ってニヤニヤと笑っているのだった。
シェルが顔から火が出そうなほど恥ずかしくなっていると、二人きりだったゼールの部屋の扉が開いた。そこに立っていたのは人身売買オークション会場に騎士団を呼んできたフォイだった。
フォイはゼールとシェルの様子に一瞬、目を見開いたがすぐに状況を察したようで、
「ゼール王子。あまり女性をからかってはいけませんよ」
そう
「オークション会場だったサーカステントは騎士団の働きにより、無事に取り押さえられました」
そう端的に答えた。