その沈黙が、シェルの中で次々と自分の過去を振り返るきっかけになり、芋づる式に自分の考えが恥ずかしいものだったのではないかと思えてくるのだった。
そうしてとうとう、シェルが何も言えなくなり
「別に、理想を持つことは悪いことじゃない。その理想を実現させるために、考えることをやめないことが大事だと、俺は思う」
ゼールはそう言ってシェルの頭を
しばらく泣いていたシェルだったが、そのまま気付いたら眠ってしまったようだ。ゼールはシェルを担ぐと隣の部屋へと運んでいく。
(コイツ、軽い……)
シェルの
翌日。
シェルたちはフォイが用意してくれたチケットを手に、町の中心にある大きなサーカステントの前へとやってきていた。
「うわぁ……!」
「
シェルは思わず笑顔でゼールたちへと言う。そんなシェルにゼールは、やれやれと言った表情をした。
「シェル様、あまりはしゃぎすぎませんよう……」
フォイもシェルに対して困ったように言葉をかけてきたのだが、初めて感じる賑やかな空気にはしゃぐな、と言う方が酷だろう。
シェルはキョロキョロと辺りを見回しながらテントの入り口へと向かうのだった。
「ようこそ! こちらをお持ちください!」
テントの入り口でチケットを見せた三人にパンフレットが渡される。中には今日の演目について書かれていた。
「火吹き芸に、玉乗り……。サーカスって感じがしますね!」
シェルはウキウキしてしまう気持ちをもう抑えられない。そうしてテントの中に入った三人は、適当な位置に座ると開演の時を待つのだった。
ブ――――――……
程なくしてサーカスの開演を
ピエロの玉乗り曲芸や、空中ブランコ、火吹き芸に火の輪くぐり……。
ゼールとフォイはと言うと、このサーカスに乗じた不審な点がないかをテントの隅々まで目を配って見ていたのだが、特に変わった様子は見られなかった。
そうしてあっという間にサーカスの時間が終了する。
客席の電気がつき、中央のステージには誰もいなくなっているにもかかわらず、シェルはさっきまで観ていたサーカスの余韻に浸っていた。
「シェル、帰るぞ」
そんなシェルへ、ゼールはぶっきらぼうに声をかけた。しかしシェルにはその声が聞こえておらず、気付いたらサーカステントの中で一人になってしまっていた。
「え?」
慌ててシェルが外に出ようとしたとき、
「お嬢さん」
急に誰かに声をかけられた。驚いて振り向いたシェルは、声をかけてきた人物を見てますます驚いた。そこに立っていたのは、今までステージに立っていたはずのピエロだったのだ。
「お嬢さん、こちらへおいで」
不気味な笑顔を張りつかせたピエロに手招きされたシェルは、思わずそのピエロの誘いに乗ってしまった。
普段のシェルなら警戒していただろう。しかしあれだけ素晴らしいショーを見せてくれたピエロに、シェルは無条件で心を許してしまっていた。
そうしてシェルは、ピエロに手招きされる形で、そのままサーカステントの中で行方不明になってしまったのだった。
「あのバカっ! 一体どこをほっつき歩いてやがる!」
「落ち着いてください、王子」
宿屋に戻ってきたゼールはシェルがついてきていないことに驚き、悪態をついていた。
「とにかく、サーカステントへと戻りましょう」
フォイの提案に、ゼールとフォイは再びサーカステントへと向かった。
サーカステントの前は昼間見た
ゼールたちを見つけたそのスタッフは、中に入ろうとする二人を引き留めた。
「ここから先は、関係者以外立ち入り禁止です」
「実は、忘れ物をしまして……」
フォイの説明にスタッフはじーっとゼールとフォイの姿を見る。それから、はっ! と何かに気付いたようで、
「これはこれは! 失礼致しました。こちらを付けて、中にお進みください」
そう言って、スタッフが付けているのと同じような仮面を手渡し、中へと入れてくれる。
さすがに不審に思ったゼールだったが、今は中に入ってシェルを見つけることが先決だろう。そう思ってフォイと共にサーカステントの中へと入っていくのだった。