「カスヤン、俺はこれから大魔王と戦うんだ。お前の様な奴なんてもうどうでもいい。だが、それでも立ちはだかるのなら…」
「うるせえ!オイラだぅて、もうお前の事はどーでもいーんだよ!」
『召喚士』の職業を得たカスヤンは、人間世界に降り立ったと同時に、大魔王の城の床に魔法陣を描いた。
「カスヤン、何をするつもりだ?無駄だからやめておけ」
荷物持ちは神々を除けば間違い無く最強の存在だったが、彼には、相手の行動を観察してから動くという悪癖があった。故に、カスヤンが召喚の準備をしても、それを口で警告するだけで、実際に止めようとはしなかった。
「出てこいや、女神っぴ!!」
カスヤンが叫ぶと魔法陣が輝き、十メートル前後の巨大な女が床からニョキニョキと生えてきて、天井に頭をぶつけた。
「マケー!」
悲鳴を上げて倒れる女神。
「おい、ニモ。エリクサー使ってこの女を助けてくれ」
「え?あ、うん」
頭を押さえてのたうち回る女神の口にエリクサーを放り込む荷物持ち。彼は、目の前で美人が苦しんでたら取り敢えず助けるタイプの主人公だった。
「女神っぴ、もう大丈夫か?」
「うん」
「そんじゃ行こう」
「おけ!」
回復した女神はパンチで壁を破壊すると、カスヤンを肩に乗せて大魔王城の外へと向かう。
「カスヤン!どこへ行く気だ!」
「安心しろ、もう二度とお前の迷惑にはならねーから。じゃあな、ニモ。その子達と仲良くな」
カスヤンは女神と共に、大魔王城から…物語の舞台から離れて行った。
「いやー、上手く行って良かった!召喚士の能力を拡大解釈すれば、女神っぴをこちら側に召喚出来ると思って、駄目元でやったら大成功!」
「勢いで来ちゃったけどさ…、君、何でウチを連れ出そうって思ったの?」
「アンタが退屈してたとか、上司に逆らえないみたいな話を聞いてて思ったんだよ。アンタもオイラと同じで、何かに操られてるんじゃないかって」
カスヤンは頭が悪く、何度も他人に利用されてきた。特に女運が悪く、彼が悪の道に転落する時は必ずと言って良い程、女からの誘惑があった。なので、女神の事も過去の女と同類だと最初は思っていた。
だが、色々と話してる内に、自分と似た者同士だと思ったカスヤンは、二人で超エラい神の作った舞台から出て行こうと思ったのだ。
「そっか。うん、確かに似た者かもね。ところで、この先行く宛あるの?」
「ノープランだぜ!」
「じゃあさ、ウチ行きたい国があるんだけどそこ目指さない?」
「了解道中膝栗毛〜!」
この後、観賞用のオモチャが無くなったを知った神々が二人を連れ帰るかも知れない。カスヤンを許す気なんて無かった荷物持ちが追いかけて来るかも知れない。女神が行きたいという国で悪役令嬢が待ち構えているかも知れない。
だか、それでも、今この時二人は自由だった。
めでたしめでたし。