「カスヤン、お前は本当に何度もしつこいな。いい加減、今度こそ終わらせてやる」
前回と同じ大魔王の城。自分の身体は魔人化しており、荷物持ちの後ろには取り巻き三人。荷物持ちのセリフは違うが、誤差の範囲。
「ヤン」
カスヤンは勝利を確信した。前回と同じなら、勝てる。
「ヤー!」
カスヤンは職業の力を発動した。
カスヤンの今の職業はテイマー。魔物をテイムして仲間にする職業だが、極めるとテイムした相手からベタ惚れされたり、美少女化したり、テイムした魔物のステータスに応じて強くなったりと、やりたい放題の職業だ。
そして、荷物持ちの真の仲間ガールズは三人とも亜人!テイム出来る!
テイムの副次効果で、つよつよ亜人三人分のステータスを自分に上乗せし、寝取りとパワーアップを同時に完了する。これがカスヤンの考えたビクトリーロードだった。
「ヤンヤンヤン、ヤー?」
カスヤンは三人娘に問う。お前達の主の名前を言ってみろと。
「「「ハイ!それは荷物持ちのニモでーす!!!」」」
「ヤーッヤッヤ!…ヤン?」
カスヤンは首を傾げる。どういう事だ?テイム効いてないぞ?そう思っていると、荷物持ちから答えが飛び出した。
「やれやれ、相変わらす馬鹿の一つ覚えみたいに女をテイムか。そんなのとっくに対策してるんだよ」
「ヤンンー?」
「俺達がパーティを組んでいた五年前から、お前は何一つ成長していないな」
カスヤンは大事な事を思い出し、顔を青くした。そうだ、自分はこの世界ではテイマーとして今まで過ごしてきた事になっている。と言う事は、昔一緒に冒険していて、何度も敵対もしている荷物持ちはテイマー対策をしっかりしていても、何らおかしく無い!
「俺の仲間達に手を出そうとした事を悔やみ、地獄へ落ちろ」
「ヤァァァン!」
ザンッ!
■ ■ ■
カスヤンが送られたのは地獄では無い。どちらかと言えば天国だった。
「おっつ〜、負けたね〜。しかも、よりクズで愚かな奴として名を残したね」
「ヤンンンー!」
カスヤンは歯ぎしりして悔しがった。勇者以外の職業で立ち向かっても、その職業で何度も荷物持ちと戦っていたという前提がある限り、初見殺しとはならない。寧ろ、カスヤン以上にカスヤンの職業の強みを知っている可能性まである。
「ヤー!ヤーヤーヤー!ヤーヤーヤー!」
カスヤンは女神に頼んだ。送る世界の時間をもっと前に戻せないか。具体的には、職業を授かる十五歳ぐらいからスタート出来ないかと頼み込んだ。
「ん〜、ムリ」
女神はクッソムカつく顔で、カスヤンの頼みを却下した。
「ヤ!」
「そんなん言われてもム・リ。意地悪してこう言ってるんじゃ無いよ。ウチの上にもっと偉い人…神?が居てさ、スタート地点の設定は、ウチじゃなくてその神がやってるんよ。知らんけど」
どうやら、この女神は全能に見えて結構ポンコツっぽい。自分の上司や職務に関する事も満足に理解していない様だった。
「でも安心してよ。職業についてはカタログ通りのをあげるからさ。ウチは前任者みたいな酷い仕事はしません!」
「ヤンヤンヤ?」
「え?前任者?殆ど覚えてない。ラーメンのドンブリで白米食ってたのだけは覚えてる。さ、そんな事よりチャレンジいってみヨーカド〜!」
カスヤンは困り果てた。この二回の敗北で色々と悟ってしまったのだ。強い職業なんてのは、大体が『何でも出来る万能』に落ち着く。荷物持ちが天から与えられたハズレ職業も含めてだ。故に、どんな強い職業を選んでも、それを長年使いこなしてきた荷物持ちと付け焼き刃のカスヤンでは、前者に軍配が上がるだろう。
かと言って、さっきのテイマーみたいに他者の力を借りる職業で挑んでも、あの世界の住民全てから嫌われた状態かつ、荷物持ちがこちらの職業を知ってる状態でバトル開始となったら、こちらが知らない対策をされて終わり。もう、どうしようも無いと思ったその時だった。
「ヤン!」
カスヤンに電流走る。あの世界の全てに嫌われ済みというのなら、いっそー!
「ヤン、ヤンヤンヤン!」
「ん、どしたん?話聞こか?」
「『ヤンヤンヤ』、ヤンヤ?」
「あー、その職業ね。イケるイケる。了解道中膝栗毛〜」
職業の力を受け取り、世界を繋げる穴へ再三飛び込むカスヤン。彼の顔には、これで終わらせるという決意が込められていた。